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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第三章・エギル
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42.墜落の最中

女王はにやりと妖しい笑みを浮かべた。

「シラナよ、許せ。この大臣を蹴落とすために、私はそなたを利用したのだ。そなたを呼べば、私に対しての大臣の様子は瞬く間に地下街に広がる。それに、いくら地下街の住人といえども、これだけの騒ぎとなればさすがに地上の住人も怪しむであろう。これをきっかけとして一気に大臣を叩き落すつもりだったのだ。」

えげつない。

良心の塊みたいなシラナを使ってなんてことするんだ。

当のシラナは、ピンと来てない。

エシトラはくっくっと愉しそうに嗤った。

「ついさっき私が念話で王宮までの道を送り続けたので、ちょうどよいタイミングで皆がたどり着いた。言ったであろう?国益のためなら己の名誉など厭わぬのが王だと」

誰もが度肝を抜かれていた。

キルトスは、自分の死角からの攻撃に対して感情のコントロールができていなかった。

が、次第に状況を理解し始めると、あらゆる混濁した感情のために顔がみるみる赤くなっていった。

「なぜ邪魔をなさるのですか!女王!」

「おぬしは十年後の国益を考慮した際に害毒となるからだ」

残酷な答えをさらりと告げると、キルトスは扉の外へ駆け出して行った。

「すぐにでも後悔させてやる!」


しばらくして、ガイレルが玉座の前に辿り着いた。

ミトナは、ぎりぎりのところで耐えしのいでいるらしかった。いまだに顔は真っ青で血の気がない。止血には成功しているようだ。

「ここには魔法陣が敷かれておる。王族を保護することが主な目的であり、本来は王族にしか発動しないのだが、ミトナの血の性質上、保護が適応されておる。…そうであっても、死ぬか生きるかをさまよう程度にしか状態を軽減できぬ。」

俺はエシトラの言葉を聞きながらミトナを見る。

「正直なところ冷や汗ものではあったが、どうにかキルトスを追い払った。邪魔もなくなったはずじゃ。治療に専念せよ」

「は、はい!」

シラナはそれを聞いてより一層集中し始めたが、この僧侶も随分消耗している。死にかけの人間を救うのは並大抵のことではないのだ。

エシトラは周囲の兵士に攻撃をやめるように命令し、何人かを連れて外の民衆の方に向かった。

「どうだ?大丈夫か」

「大丈夫です…大丈夫ですから」

俺ももっと高度な回復魔法が使えたらとほぞを噛みながら様子を見守る。周囲から敵がやってきている様子はない。

上の階から、荒い足音が聞こえる。

おそらくキルトスだ。また何かよからぬことを企んでいるに違いないが、俺には待つしかできない。

城門前の様子も気になる。さすがにエシトラのことだ、へまはしないと思うが…。

「…アルトナ。上に気を付けて」

「ああ。分かってる」

ガイレルは俺のその返事を聞いて首を振った。

「そういうことじゃなくて、その」


そのとたん、轟音と振動が玉座の間を揺らした。

「え…!?」

エミイはきょろきょろと不安そうに周囲を見回しているが、シラナはもはやミトナしか見ていない。

「ミトナ…。」

同時に、ミトナが「魔法の深部」に落ちていく時の様子が頭の内側にくっきりと浮かび上がった。

シラナは、その時のミトナとそっくりだ。

だが、ミトナも救いたい。しかしこのままでは…。

「…アルトナ。ミトナとシラナは、僕とペンダントのフェイマルで何とかする。周りを注意しておいてくれ」

「分かった」

「とにかく、上なんだ」

「お前の言う上っていったい…」

たずねようとしたとき、背後で轟音が落ちて耳をつんざく。

「は、は、は!貴様らはやってはいけないことをしたのだ!」

キルトスの声だ。

俺たちは落ちてきて生まれた煙の向こうに目を凝らす。

紫の…茨のようだ。複雑に、大量に、絡み合っては意思をなし、邪悪な吐息を漏らして怪物となった、無数の茨だ。

「茨の悪魔はこの場に留まりながら、無数の命を吸い取るのだ!私に従属し、ほかの何人にも頭を下げることのない、邪悪の結晶にして悪意の化身!…貴様らなどゴミクズ同然に蹴散らしてくれるわ!」

茨は根を張り、まるで樹木のような形状に変化してゆく。その端に、キルトスは座っていた。

俺は剣を握る。背後から声がする。

「…ごめんアルトナ、僕は今から二人に体力を分け続ける。覚醒した僕ならだいぶ体力があると思うから、多分二人は持ち直すはずだ。だけど、それまでアルトナはあの紫のもじゃもじゃの攻撃を一人で処理しなきゃダメだ。…頼まれてくれる?」

「何をごちゃごちゃと!」

しびれを切らしたキルトスが叫び、それと同時に茨の集った枝がうなりを上げて俺の方に来る。

最初は力で受け、次第に脱力して流す。

「頼まれるも何も、最初からお前らのことは引き受けてる!」

こいつの武器は速度だ。力もそこそこあるが、何よりも速い。注意して動向を、特に指令を出すキルトスの動きを見なければさばききれないだろう。

息を一つ吐く。ここでは俺にかかってる。

不利だとかは慣れてる。生まれから理不尽だったから。

俺は体の軸を整えた。

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