表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の妹  作者: 虚言挫折
第一章・スノッリ
4/99

4.突破、帰還

全方位からもれなく声がする。

四人ほど建物の中に入ってくるのが窓から見えた。

「館内の相手は私がします…!」

「お任せします」

ハリドの答えに頷き返し、騎士だけを部屋に残して他の三人はそろりと部屋を出る。

暗い橙のランタンに照る廊下を暫く歩くと微かな衣擦れの音が聴こえて、ピタリと歩みを止めた。

例の四人だ。

かねての計画通りに動いても問題なさそうだと判断して、目配せした。

二人は勢いよく死角から飛び出して、侵入者に体当たりする。そのうちぶつかった者は倒れたが、飛び出した二人も体制を崩して倒れ伏している。私の方に来た一人は、槍の持ち手で首に素早く一撃を与えて気絶させ、上着だけ拝借して着る。服の元の持ち主はなるべく狭い、呼吸は可能な隙間に詰め込んで彼が来た方へ行くと、ハリドとモトラは既に捕まって体に縄を巻かれていた。

「お前はこいつらをしょっぴいていけ」

私は頷いて捕虜二人を立たせ、宿屋の表まで連れて行った。実際に見ようと出てきた人もいたが、決まって状況がただ事でないのを察して素早く部屋に鍵をかけて閉じこもった。


監視の少なくなった表受付から素早く外に出て、宿屋から少し離れたところで私は変装を解いて縄をほどいた。

「…大丈夫だろうか…」

ハリドが心配する。一人になった騎士を心配しているようだ。十五対一になることは最初から織り込み済みで、まず私たちを宿屋から逃がしてから一人で戦って追い返すらしいのだ。話を聞く限りでは、騎士こそが狙われている張本人らしいのに、そんな危ない賭けに出て大丈夫かとヒヤヒヤしている。

「私たちは…ひとまず国に帰るしかありません。しかし、あなたはどうなさるおつもりですか」

「明日、交通手形と戸籍を受け取って一緒にスノッリまで行きたいんです。だから戻ります」

「本気ですか」

二人とも、険しい表情で私を見る。私は答えた。

「本気です」


影を伝うように慎重に、私は表門の前まで歩き、物陰から様子を見ていた。

囲みの人数は見える限りでは五人ほどだが、先ほどより密度が低くなっているということはあの後何人か突入したらしい。

もうすこし顔を出すと、全員の姿が見えた。

七名。黒ずくめで、背筋をすっと伸ばして出入り口を見ている。

「帰ってこないな…」

一番私に近い黒ずくめが呟くと、隣から「うむ。残りが一人だけとはいえ、流石に腕が立つ。やはり畳み掛けるべきでは」と声がする。

「王は奴を目の前で殺して楽しみたいのだ。しかし、生け捕りをこの状況でとは無茶を言うものだ」

歎息とともにその言葉が吐き出されるや否や、槍を構えて私は飛び出した。

振り向く顔を槍の腹で殴打して、すぐに隣の黒ずくめに向けて槍の柄の先端を突き出す。突然の襲撃に対して明らかに対応が遅れており、あたふたと腰のナイフに手を伸ばすが、その時には私の槍が腹部にまで届いていた。うぐっ、とくぐもった声を上げるその場にうずくまって気を失った。

「何者だきさまは!」

周りから口々に発せられる怒号。気づけば、私は半円状に囲まれていた。

「私は騎士さんの仲間です!今すぐ包囲を解いて撤退してください!」

私が叫ぶと、すぐさま否定的な野次が飛んでくる。

このままでは膠着状態だ。


「お前が、そうか」


背後から声がした。


「え…?」

私は振り返った。

真っ黒なフードを身につけた人影は、鋭い眼光をこちらに向けてくる。

澱んで、信じられない程に暗く閉ざされた、それでいて僅かに光を灯した視線は、なおも睨みつける。


「お前が…彼の、いや、勇者の妹だな」


どくん、と一つ大きく心臓が鳴る。

兄は、私に余計な迷惑をかけないようにと、極力私の存在も伏せて、ごく僅かの尋ねられた場合のみ答えることにしていた。なのに知っているということは…。

「あ、あなたは…一体…」

私の問いには答えず、私を囲む黒ずくめたちをさっと流し見て冷淡に告げた。

「諸君らのような愚か者に興味はない。明日の朝飯でも用意しておけばいい」

その言葉が癪に触ったらしく、5人の黒ずくめが音もなく襲いかかる。

ゆらり、とフードの影が揺れる。

かと思うと、右端の男がもんどりうって倒れる。

一瞬だけ、全員の視線がそちら側に向く。

その瞬間に、フードは左から二人に勢いよく回し蹴りを放つ。

二人が吹き飛ぶ勢いに真ん中も巻き込まれて、そのまま倒れて二、三度痙攣して動かなくなった。

ジリジリと距離を詰めようとする最後の一人に、何のためらいもなくふわっと近づいて重い一撃を見舞う。勿論仰向けに倒れた。

残りの黒ずくめはじりじりと動いてはいるものの、攻めあぐねている。

流れるように人が倒れていくのを見て呆然としていると、こちらを向いて真っ直ぐに歩いてきた。

「あ、あの…」

「本物だとしたら、尚更先へ進ませるわけにはいかない」

何を言っているのか分からなかった。

私と何の縁があって行動を制限するのか、なぜ私の血縁関係を知っているのか、そもそもが謎だらけなのだ。私のことを心配しているのだろうか?にしても、いきなりこの口調でそれは無さそうだ。

「どうした…なぜ黙っている…?」

「いえ…あんまりにも全部が唐突すぎて…追いつきません」

「そうか…だが、お前はただ、冒険をここで終わらせておけばいいだけだ。どうしても出来ないと言うのか」

「できません」

「…仕方がない…では理解させてやろう」

すっ、と動き始める。思っていたよりも初動が見えやすかった。背負った槍の角度を変え、背後からの斬撃を防御する。距離をとって槍を構えた。

数度の打撃を槍のリーチでどうにかいなし、半身で槍を突き出すが、案の定弾かれてカウンターを狙われる。左手で迫る刀身を弾くと隙ができる。槍を横に凪いで打撃で胴体を狙うが、綺麗に飛んでかわされた。

じりじりと押され始めている。やはり、細かい技量はフードが上だ。そのうち押し負ける。


突然、頬の近くに熱い熱の塊が現れた。


「我慢ならん!まずはこやつらを焼き殺してから騎士を殺害する!」

いつのまにか黒ずくめのボスらしき男が私たちを取り囲み、周りの配下も口々に呪文を唱えている。

氷が、炎が、光線が飛び交い、私は必死でそれらを弾き返す羽目になった。フードは既に上空を悠々と漂って私を眺めている。先ほどよりも遥かに危機的状況に陥っていた。

段々気を使う余裕も立ち消えてきて、弾き返したりしていると、氷塊が配下の一人に当たった。

それに腹を立てたボスが、ジャンプした私に特大の火球を投げつけた。

そして、ふっと避けた火球が、背後の木製の建物に直撃した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ