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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第三章・エギル
38/99

38.地下で

ボクは、シラナに地下街を案内されていた。

「傷薬はあの店で売ってますよ」

「ほんとに?」

ボクが少し急いで向かうと、慌ててシラナがついてくる。

「何だ兄ちゃん…珍しい、客か?」

「うん」

既に店主は、ボクを胡散臭そうな目で見ている。

「…妙に馴れ馴れしい奴だな…で、何が欲しい」

「傷薬かな」

「分かった、ちょっと待ってろ」

疑われてはいるけど、なんだかいい人そうだ。

「は、早いですね…歩くの…」

「そう?」

汗ばむシラナを見て、今度からはちょっとペースを落とそうと思った。

奥から店主が出てきて、カウンターに緑の瓶をことりと置き、それと同時にシラナを見つけた。

「ほらよ、傷薬だ…なんだ、シラナも一緒か」

「はい!」

それからボクを見て言った。

「まあ、ここはガラは悪いしクズも多いが、外道はいねえよ」

お礼を言って店から離れる。

「いいお店だね」

「店主さんがいい人だからね」


地下の大通りを案内されて歩いていると、シラナがとても人気だということがよくわかる。

酔っ払いに声をかけられても笑顔で返事をして、かけよってくる子供を抱っこして、うずくまる老人を励ましたりしている。

なんでそんなことやってるの、と聞くと、なんででしょう、でもみんなが優しい人だからかもしれませんね、みんなの優しさにつられているのかもしれないです、と答えた。

ボクはただ単に、優しい人だなあこの人、と思いながらその答えを聞いていた。でも、いつかどこかで壊れてしまいそうで少し心配にもなった。


大通りが終わりにさしかかって、そろそろ引き返そうとして元来た道の方へ振り返る。

「…ん?」

嫌な気配を感じてまた振り返った。

背後から金属と岩がぶつかる音が響いて、なにかの呪文みたいな言葉を唱えるおどろおどろしい声が固まって落ちてくるようだ。

「何だ…?ありゃあ僧兵か?」

真っ赤な僧服の集団が槍を持って、地下街の入り口からぞろぞろと入ってくる。大体60人くらいだ。

街の人たちも驚きを隠せないらしく、口々に僧服の襲来を伝えていたが、声には僅かな敵意も含まれていた。エキリマース教は、ここではあんまり好かれていないらしい。

彼らのブーツは光を跳ね返して、金属の光沢を示していた。…ということは、戦闘態勢に入っている。

放っておくと危険かもしれない。

「魔物が地下街に潜伏しているとの知らせを受けた!これより各家の捜索を始める!」

先頭の男がそう言った途端に、あちこちから大きな非難の声や罵声が飛び出した。それらはたちまち空間を埋める。

「ふざけんな!いっつもそう言って結局食いもんだの服だの金だの、オレたちに必要なものばっかりとっていきやがって!」

「エキリマースの犬どもが!引っ込め!」

即座に火薬は爆発を生む。大通りの端っこでは、喧々轟々の大騒ぎとデモが始まった。

その声に紛れて、道端の男性がボクの袖を引っ張る。

「シラナさんと帰りな!ここは危ねえからよ…とっとと行け!グズグズしてるんじゃねえ!」

口は悪いが優しさは十分に伝わったので、「うん」と答えて言われた通りにシラナを背負い、一気に駆け出す。

「うわぁ!?わ、私は大丈夫ですから!皆さんを!」

「いいから」

驚くシラナに走りながら返事をする。背中のほうで、少し元気がなくなっているのが分かった。

どこに隠れるべきかと来た道をしばらく戻り続けていると、さっき傷薬を買った店の店主が手招きをしていた。

「こっちだ!まずこっちに来い!」

裏口を指差して、勢いよくばあんと音を立てて扉を開く。そこに飛び込むように入り込む。

「倉庫がある。しばらくそこに隠れておけ。」

言われた通りに裏口から導かれる。

倉庫に詰め込まれるように入れられた後、外からガチャっと音がした。厳重に鍵を閉められたらしい。

外で何が起きるのかは何となく分かったけれど、あまり気持ちのいいことは起きそうになかった。

横からため息が聞こえた。シラナは俯いて座り込んでいる。

「大丈夫?」

一つ頷いて暫く黙った後、シラナはぽつりと呟いた。

「…何が起こってるかくらい…分かってます。でも、何もできないんです。…いえ、何もしようとしないんです。私は…卑怯です」

「そんなことないよ」

刺さるほどに痛ましい気持ちがひしひしと伝わってきて、ボクまで泣きそうなのをなんとか我慢する。


「魔物を発見しました!激しく抵抗しています!」

外から大声でそんな声が聞こえてきた。

ボクとシラナの脳に閃くものがあった。

ばっと立ち上がって、シラナが叫ぶ。

「エミイ!」

「シラナ、まだだ!じっとしてろ!」

店主の声がするが、シラナの不安が爆ぜそうになっている。

「でも、エミイが」

「落ち着いて」

すっとボクの手をシラナの頭に置くと、目をつぶって眠りに落ちた。

「…寝てもらいました」

「悪いな兄さん。シラナにこんなのは見せたくねえ。…分かってくれると思うが」

「うん、分かるよ」

外では大声が聞こえるが、内容までは分からない。凄まじい怒りに包まれているだけだ。

ボクはシラナの不安そうな寝顔を見た。

まだ事態は収まりそうにない。

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