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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第三章・エギル
36/99

36.俺と女王

やたらあたふたしているミトナに呼ばれて、俺は扉を開けた。

予想通り、玉座には女王エシトラが座っていた。

くすくすと笑っているが、おそらく俺が来たことが原因ではなく、ミトナに言われたことが原因だろう。

「おおアルトナ、ふふふ…そちは面白いものに気に入られているではないか」

「あいつ、やけに慌ててたけど何があったんだよ…」

なおもくすくすと笑いながらエシトラは言う。

「いやいや…からかったらあまりにも芯が強うて驚かされたが、普通に話せばどうも小動物のようではないか…愛くるしいものよ」

「そうかね」

否定はしないが、買いかぶりすぎでは…?

「手放すなよ、あの者を。彼女はそちをきっと助けるじゃろう」

ひとしきり笑ってから深呼吸をした。

それから女王は、鋭い眼差しでこちらを見て尋ねる。

「メリドはどうじゃった。息災であったか」

「ああ。思ったよりも元気そうだったよ。環境はそこまでいいわけじゃないけどな」

ふとレーグの顔が浮かんだので、無理やり黙殺した。人の記憶に来てまで邪魔をするなんてとんだお節介だ。

「…お主自身はどうじゃ、アルトナ。今の目的はどうなっておる」

「ああ。…俺は、ロナ王国に向かう。そこから先はまだ決めてないが、きっともうたどり着いてしまえば決めざるを得ないだろう」

「今のところはどうじゃ」

ずきっと音がしそうな程胸に痛みが走った。頬は石のように硬直してしまっているので、必死に神経を集中させて何とか動かす。

「俺はあいつの、ミトナのやさしさに応えられる自信がない。…だから多分、ロナ王国までしかついていってやれない」

数千年人の来ない祠の扉のように重い口から出た言葉は自分でも情けないと思ったが、まぎれもない本心でもある。

俺は、あいつの隣に並ぶのにふさわしくない。

エシトラは少し寂しそうに玉座から俺を見下ろした。

「そうか…私にはアルトナの進み方をどうこうする力はない。だからああだこうだと言うつもりはないが…後悔だけはせぬようにな」

「ああ」

ため息にも似た返事を吐き出す。

いろいろな事が中途半端なままで、繋がる気配もなく途切れている。

俺が少し暗い空気を纏いだしたのを察知して、エシトラは座り方をだらりともたれかかるような体勢に変え、質問した。

「今の旅の調子はどうだ?」

「予定よりずいぶん早いらしいが、俺にとっちゃ少し早いくらいだ。バーヴルの護衛があったからかもしれないが」

「ん?バーヴルだと?奴が護衛をするのは王だけではなかったのか?」

「ああ。元の役職ならな。今は山賊になって山賊の世界連合みたいなのを作ってるみたいだ」

活動内容を思い返しながら、あれは今や山賊と呼んでいいのかという疑問が再び湧き上がってきた。

「…道理で」

エシトラは何かに納得したような反応を見せる。少し気になって質問する。

「どうしたんだ?何か納得したみたいだが」

「それはミトナも一緒に来た時に話そう。今はあまりいい話ではないとだけ伝えておく」

「そうか…まあ、今のところ生きててもそこまでいいことは起きてないけどな」

その呟きに、エシトラが過敏に反応する。少し表情を曇らせて答える。

「アルトナの場合は、違うであろう」

「まあな」

気を使わせてしまったことを少し後悔しながら、そっけなく返事をした。

「森長と会ったと本人から聞いたが…一体どういった経緯だったのだ?教団の者が騒いでおったようだが」

「今はここにいないが、最近俺たちの仲間になったガイレルという大男が森長の弟子で、植物採集に行ってたミトナと遭遇したんだ。その時たまたまエキリマース教のやつらと鉢合わせしたそうだ。そいつらは伐ってはいけない場所の木を伐採していたとかで抗争になったところに森長が駆けつけて事態を収めた。森長とはそこで会ったんだが、再びエキリマース教のやつらがやってきたから、俺たちは森を抜けだしてここにいるってわけだ…簡単に言えばそういうことだ」

「なるほど…しかし、森長は厳格なところがある。相当お怒りだったろう」

「ああ。殺してこそいないが、そこそこの数のけが人が出たんじゃないか」

その犯人が俺たちだと思われて追いかけられているなんて信じたくなかったが、とにかくそういうことになってしまっている以上は腹をくくるしかなかった。

「私もそんなことは間違っていると教祖には常々言っているのだが、いっこうに改まる気配はない。エキリマース教を国教とするとは言ったが、信仰の自由も同時に認められている。しかしそこを曖昧にしてしまっては、新たに問題が起こる。私はとにかく父の死以降教祖の手に渡った統治権を取り戻さねばならぬ」

こっちでも似たようなことが起こっている。案外、世界なんてそんなものなのだろう。

エシトラは伏し目がちになって、小さい声でぼそりと言う。

「…少し弱音を吐いた。許せ」

「いいよ別に。俺とかメリドくらいにしか言えないんだからさ、そんなこと」

「ありがとう」

そう感謝した後のエシトラの顔は、すっかり女王に戻っていた。

「さて、今度は二人に話をしておこうか…ミトナを呼んでくれ」

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