34.試しに
王城前にたどり着いた。
遅刻はしていないらしい。
門衛に証明書を見せると、無愛想な兵士二人を監視役として私達の周りに侍らせた。
その兵士の案内で門をくぐり、奥に進む。
私の所作は若干硬かったと思うが、実際にどうだったかは分からない。
アルトナは悠々と歩いている。どこに行っても眉一つ動かさない度胸は賞賛以上のものが相応しかった。
「ここで待つ」
私達は部屋に通されて、粗末な椅子に座らされる。二人のうち片方が部屋を出た。なんだか喋ってはいけないような気がして黙りこくっていた。待ち時間がやたらと長く思えた。
「来い」
私は跳ねるように勢いよく立ち上がる。アルトナもゆっくりと立ち上がった。
「女王が玉座の間にて面会すると仰せだ」
「はい!」
急いでついていく。私は案内の兵士より大分背が小さかったので、ほとんど小走りになっていた。
大広間に出て左の階段を登る。その先の扉を開けると、また上に続く階段がある。
登り切った正面に、一際大きな扉が待ち構えていた。
「小さいの。お前からだ」
誰が小さいのですか、と心の中で叫びながら扉をゆっくり開ける。
足を一歩踏み入れた。
色は白を基調として、柱が左右に並んでいる。赤いカーペットが真ん中に敷かれていた。
豪華さ以上に、上品さが際立つ部屋だった。
「ミトナ」
「え?」
前方から呼び声が聞こえる。
思わず「え?」なんて言ってしまったが、位が高かったらどうしよう。
「近う」
「は、はい」
低い女性の声に引っ張られるように、震える足を動かし始める。
下手をすれば転びそうになるが、どうにか持ち堪えてようやく玉座の前に着く。
玉座を見る勇気がなくて挨拶のつもりで頭を下げていると、「面を上げよ」と言われた。
「ミトナじゃな」
真っ白い肌に青のローブを纏った女性が、というより少女が、玉座に座っている。
年齢が私と同じくらいじゃないか、と疑ってしまう若さだった。
「はい…」
声が震えている。ここに来て極度の人見知りが蘇りつつある。
「スノッリのメリド王子より、お主とアルトナのことは聞いておる。洞窟の魔物を討伐したとな…詳しいことはよく分からぬが、とにかく勇士であるとばかり思い込んでおったが…」
衣を口に当ててくすくすと笑う。
「児じゃ。まこと、愛くるしき児よの」
「えっ…!?」
そんなに子どもっぽいですか私。初対面で笑われるくらい幼いですか、と口走りかけたが、ぐっと飲み込む。
「妹じゃな。勇者の」
「は、はい!」
すっと視線が冷たくなるのを感じて、私は身震いした。
「余は彼をそこまで買っておらぬ。むしろ煙たいとも思っておった。噂では、魔王のもとに行ったと聞いておるが…さてはて、生きておるか分からぬ」
にやり、と口元に笑みを浮かべた。
「死んでおればよいが」
私は恐怖心を煽られると同時に、別のスイッチが入りかけていた。女王は続ける。
「まあ、言うまでもなく彼は既に死んでおろうの。使いをやって見に行かせようとも思うたが、そうまでするほどでもない。もし死んでおると訃報が知れ渡ったなら、せいぜい死んだ死んだと手を叩いて笑ってやろう。なにせーー」
「やめてください」
気がついたら私は立ち上がっていた。やっぱりどうしても、ダメなものはダメだった。
空気がぴんと張り詰めるのが分かる。
「兄が死んで、あなたがよくても、私は嫌です」
心臓はいつも通りの速度で血を押し出す。
体はもうどこも震えていなかった。
後悔すらしていなかった。
「…ふふふ。ほほほほほ…いや、いやいや…」
女王が笑い出す。
…これはまさか…。
「許せ。半端な考えであれば蹴出してやろうと思っておったが…なんとまあ、ふふっ、な、なんとも…」
涙が出るくらいに笑い転げていた。
私を試していたのだ。
しかし、私もこんなベタな手に引っかかるとは…。
「もう少し泳がせるつもりであったが、いやいや、そんな無礼はなるまいよ。なんとまあ、児に見えてその実は龍であったか!」
自分の顔が真っ赤になっていくのがわかった。
にしても、こんなに笑われるなんて…。
「あ、あの!すいませんでした…帰ります…」
「いやいや、帰ってもらっては困る。色々言っておきたいこともあるからのう」
ひとしきり笑い終えた女王は、玉座の前の階段に私と座っていた。
「ミトナのことは、お主の兄から自慢げに聞かされておったわ。彼は彼で、苦しみながらここにたどり着いておった。スノッリで仲間になるはずだった者達が彼を見限り、代わりに別の少女を連れてやってきた。彼は先が見えすぎているせいで、なかなか理解されなんだ…」
思い出に引き込まれそうになりながら、女王は少し遠くを見ていた。
「魔王の領地についてからは音沙汰がない。場所が島であるが故に、こちらからも連絡をつけるのが難しい。…まずはロナ王国を目指すべきじゃろう。最も、同じ助言をスノッリで受けたとは思うが」
「受けましたけど…やっぱり、安心します。間違ってないって」
私の答えに、女王はにこにこと笑った。
「さてと、ここからもまた本題じゃ」




