33.役所で
私達は、シラナの案内で裏道を通って地上に出た。
「ありがとうございます…何度も何度も…」
「いえいえ!」
シラナは手を振って、また地下への道に戻っていった。
「例の如く、役所で面会許可を貰うとこからだな」
「そうですね…エキリマースとは色々あったので、顔が割れてないといいんですが」
「…大丈夫だよな?」
「…大丈夫だと思いたいです」
役所はとても落ち着いた雰囲気を醸し出しており、敬虔な信者達が読書をしたり静かに祈りを捧げたりして過ごしていた。
「厳かですね…」
「あんまりうるさくは出来ないな」
私とアルトナは受付の前の列に並ぶ。
前で男性二人が話している。
「聞いたか?エキリマースの特殊部隊が森に行って、何者かに散々な目に遭わされて帰ってきたらしいぞ」
「何者かに…?誰か分からないのか…でも森っていえば、確か、森長…だったかな…そんな龍が住んでる場所じゃなかったか?」
「それが、人間なんだと。槍使いと騎士と大男らしい。顔は確認できなかったみたいだが、そいつらにやられたみたいだぜ」
「本当かよ…野盗にしちゃ強すぎねえか?他国の秘密軍だったりしないのか?」
「情報を各国のトップに送ってはいるが、今はまだ返事待ちだそうだ。」
「ひえ〜…森に薬草を摘みに行かなきゃならないってのに…暫く森に行けそうにないな」
「ああ、国からも森への立ち入りを禁止すると御触れが出てたからな。とんだことになったもんだな…」
私達は黙りこくった。
多分、城門横の石像みたいな無表情だったはずだ。
「なんでですか…なんで知られてるんですか…」
「結構がっつり特徴を捉えられてたな」
「しょうがなかったんです…あの時はつい」
「責めたりしないけどな…苦しいことになった。多分外国人に対して結構厳しい監視体制がとられてる。」
私達は屋根の下で眠れる代わりに、社会的な評価を犠牲にしたとしか思えないくらい人から受ける評価が低かった。そんな均衡の保ち方はナシじゃないですか。
「ってか、そもそもあいつらが悪いんじゃねえか、何で俺たちが窮屈な思いをしなきゃならないんだよ」
そうですよ、と私は膨れていた。
森長を怒らせたのを知られたくなくて森長のことと契約のことは隠しているみたいだ。
名誉に関わることとなると必死で守ろうとするあたりが、私は好きになれなかった。
「次の方、どうぞ」
私達だ。
「代表者の必要書類を見せてください」
カバンから出しておいた私の交通手形と簡易戸籍を見せる。
「用件は何でしょうか」
「あの、女王に面会をしたいと思いまして」
私がドギマギしながら答えると、アルトナが黙って背中をさすってくれた。
思わぬ優しさに驚きながら、とにかく押し負けないようにと姿勢を正す。
「分かりました。ですが、その場合は別で関係者印というのが必要になります。エキリマース教の関係者のサインなのですが、お持ちでしょうか」
あっ。持ってない。
人並みに会話しようと身構えて、口から放とうとしていた言葉がすべて消し飛んだ。
「それはこっちにあります」
真っ白な私の横で、アルトナが自分のポケットをまさぐりながら言った。
やがて、シラナのサインが綺麗な字でしたためられた交通手形のメモ欄が、カウンターの上に現れた。
「この方は?」
「エキリマース教の僧侶です。教団のシンボルマークは次のメモ欄に書かれています」
ぺらっとめくると、確かにその印が書かれていた。
初めて森で出会った時の赤い僧服がしていた手袋に、こんなマークがあったので、よく覚えている。
「分かりました。ご存知と思いますが、女王が外国人と面会する時間は、午後一時からです。それより前に城に出向いても面会できませんので」
「わ、分かりました!」
私達は面会許可証を受け取った。
そのままそそくさと役所から出ていく。
「はああああ…ビックリした…」
「おう…お疲れ様…」
怪訝な顔で私を見るアルトナに、私は尋ねる。
「サインなんて貰ってたんですね…」
「ああ。飯の時に予定を話してたら、じゃあきっと入用でしょうって書いてくれたよ」
「私も欲しいですね…コレクション的な意味で」
「そんな意味で貰うな」
死んでいないのが不思議なくらい、会話が怖かったのだが、アルトナが背中をさすってくれたおかげでどうにか取り戻せた。
ゴツゴツして、硬い手だった。
…途端に、人と相対している時とは違う緊張感に襲われた。
どくどくと胸元から音がするくらいだ。
今もう一度背中をさすられたらもたない。
「お前、顔赤くないか?まだ緊張してるのか」
「はい…余韻が…」
「普通あんまり余韻って言い方しないんだけどな。体調が悪くなったら言えよ」
言ったら余計に体調が悪くなるなんて言えない。
アルトナは影の位置を確認しながら呟いた。
「あれ?もうすぐじゃねえか?」
「え?でも、女王ともなれば大勢面会に来るはずですよね…こんな早いんですか?」
「影の位置からして、あと10分くらいで一時だ」
「じゃあ…もう今から向かったほうがいいですね」
そういうことなので、私達は今度は王城への道を辿り始めた。




