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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第二章・森長
30/99

30.隠し通路

「エキリマースじゃな」

森長が呟く。アルトナは呆れていた。

「またかよ…懲りない奴らだな…」

隣から舌打ちが聞こえる。

私はどう動くべきか決めあぐねていた。

「狙いがなにかは分からぬが、おぬしたち二人とガイレルは会って不都合じゃろう」

森長は私たちと初めて会った時のことを思い返しながらそう言っているようだった。

「じゃあ一旦どこかに隠れなきゃダメですね…今どこにいるか分かりますか」

「あと6分でここにつくじゃろう」

思っていたよりも時間がない。

「どうしたもんかな…」


「…一箇所、森の地下を通る抜け道がある。そこを通ろう」

ガイレルがいつもの速度で提案する。

のんびりと、しかし確固たる口調だった。

「分かりました。一度森の外に出て、騒ぎが収まったら戻って来ます」

「いや、むしろそのままエギルの門をくぐった方がよい」

森長は言う。集中しているようで、目は半開きだ。

「え、どういうことですか」

「どうせまた戻ってきても、君らを見つけるまでしつこく追いかけてくるじゃろう。ならばいっそ人目につくところに宿を借りて、大勢の人間の前に姿をさらけだすことで迂闊に手出しできないようにしたほうがよいじゃろうて」

「…わかりました」

アルトナは逃げることになるだろうという空気を察知して、荷物を纏めようと二階の部屋にいた。

「準備できたぞ、今行く」


食卓の、ちょうど私が座っていた椅子を退けると正方形の切れ込みが現れた。

どうやらここが脱出経路らしい。

道を塞いでいた、魔法で浮遊させられている蓋の下を覗き込むと、梯子があった。

「そうじゃ、手短にガイレルに伝えておかねばならぬことがある」

「え?何?」

シチュエーションに似合わない間抜けな声で、ガイレルは尋ねる。

「二人についていきなさい。今のおぬしの道はそこじゃ…説明する時間はないが、とにかくその先には確かにおぬしの願いが詰まっておる」

「うん」

迷うことのない答え。

私たちにとっても願ってもない話だった。

「これからもよろしく」

ガイレルは私たちにそう言った。

それから、先頭に立って梯子を降りていった。


暫く、梯子の下で上の階の会話を聞くために立ち止まる。光が消えた次の瞬間、複数人の入ってくる足音が聞こえた。間一髪無事だ。

「どうなさったかな」

森長はあくまでも冷静に話し始める。

「ここに、エキリマース教徒に暴行を加えたとされる男性二名、女性一名が匿われていると聞いた。速やかに出てきてもらおう」

「そうですか、ではまず令状を確認させていただきたい」

近ければ紙の音が聞こえるのだろうが、ここでは遠すぎる。

「確かに拝見しました。しかし、彼らが今朝ここを発ったきり報せがありません。不安ならばここを探していただいても結構でございますが、ひとまず森を探すことをお勧めしますぞ」

「…二手に別れよ。一隊は森の捜索、もう一隊はここだ。終われば森の捜索に向かう」

「お待ちを」

森長が引き止める。

「彼らが信者を攻撃したのは、信者が契約違反を聞き入れなかったからじゃ。…この地図を持ってゆきなされ。明確に木の伐採が可能な場所が記されておる。次同じことが起これば容赦せぬ。私の責務を果たすことになろう」

明らかに空気が張り詰めたのが分かった。沈黙が空気の流れを止めている。再び隊長と思われる声が喋り始めたが、虚勢が透けるほど明らかに声が震えていた。

「了解致しました。その点は十分に配慮させていただきます」

私たちはそそくさと道が続く方に走っていった。


「止まって」

ガイレルの声が聞こえた。

私はゆっくりとスピードを落として止まる。

ここまでで光を発するものは一切使っていない。

「この先に梯子があって、のぼると下水道に着く。そこから地下街を通って地上に出よう」

文句なしにその案が採用になった。

「しかし、こんな道があるなんて思わないだろうな…」

アルトナが感嘆のこもった声で呟く。

「うん。先生の家にピンポイントで着くとも思わないだろうね」

なんでも、かつて森長は王に意見を求められることが多々あり、王宮に出向くこともしばしばあったが、森長の風体があまりにも目立ちすぎるのでこの道を作ったとのこと。

今は完全に忘れ去られた道だ。

梯子の先の石の正方形を押し上げると、ごく僅かにではあるが、暗闇から脱却することができた。

水が流れている。ここは浄水後の水が流れるらしく、あまり強い臭いは放っていない。

すぐ後ろは鉄柵が道を遮っているので、必然的に前進せざるを得なくなる。幸い、進行方向に明かりが見える。

「ここから表を通って地上に出よう」


ガイレルが提案した丁度のタイミングで、向こうから光の塊が、人の形を成して歩いてきた。

「え…?」

戸惑って思わず声を出してしまった。

襲撃にしてはあまりにも挙動が遅く、敵意もなかった。


「迷ったの…?」

それは、いや、その人は炎を纏っていた。

少女の声で、私たちを心配している。

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