29.覚醒と共鳴
ガイレルがすでに食卓についていた。
私はよろよろとではあるが、どうにか一人で歩くことが出来ている。
「お疲れ様~」
のんきにガイレルが言うものの、こっちはもちろんそれどころではなかった。
ふと、この人はこういうゆっくりした速度で日々を暮らしているのかなと思った。
食事が終わり、皆でほっと一息ついていた。
特に何かを考えるわけでもなく、ぼうっとガイレルを眺めていた。
黒髪。大柄。常に半開きの目。翡翠色の虹彩。
「変わってるでしょ。僕」
視線に気づいたのか、私たち二人にガイレルは問いかける。
「…確かにな」
「言われてみればそうかもしれませんね」
思い返せば、いろいろと異質ではあった。
森在住で、拳を一振りすると二、三人は吹き飛ぶ怪力の持ち主。
森長と呼ばれる老龍と暮らしており、背丈も大きい。
「でも、君の持ち物の方が変わってるね。それ」
ガイレルが指さしているのは、私が首からかけている石の巨人のペンダントだった。
首から外して机の上に置く。
老龍がしげしげと眺める。
「…ほう」
感嘆のため息を漏らした。
「似合いそうですね」
私は何気なくそう言った。
本当に何気なかったが、ガイレルは思わぬ反応を見せた。
「え?ほんとに?」
ペンダントと同じ翡翠の目で私の表情を見ている。
確かに、変わった人だ。
まるで子どもみたいだ。
「ものは試しじゃ。つけさせてもらいなさい」
森長がそういうと、ガイレルはガラス細工を運搬する職人のように慎重にペンダントを持ち上げ、ゆっくりと、そして恐る恐る首につけた。
「汝は私の目を覚ます者か」
あの声だ。
ドキドキして次の言葉を待つ。
森長は驚いたような表情で座り直していた。
ガイレルが「うん」と答えると、宝石の内側から一瞬間だけ蒼い光が放たれた。
「今この力を捧げ、この心を共にせん。目醒めよ」
渦巻く光の粒子がガイレルの周囲を囲む。
やがてその一粒ずつが散りはじめ、完全に部屋が元の明るさに戻った時、ガイレルの佇まいは変化していた。体中から、エネルギーが漲っていた。
ペンダントから声がする。
「君に私の力を分け与えた。…時には君たちに私の声が聞こえるであろう。」
ふわふわと浮遊するそれは、私たちの心の全てを見透かしているような気がした。
助けられた時に、私を見ていた目を思い出す。
「また会おう…友よ」
声が消える。
部屋中の空気が少し穏やかになった。
「今のって…」
アルトナが事態を飲み込めないまま呟く。
「覚醒じゃな」
「覚醒…?」
「うむ」
私の疑問に一つ肯き、森長は語り始める。
「形は様々じゃ。今回は互いに共鳴し、石の巨人がガイレルの潜在能力を引き出したことでこのような結果となった。」
「共鳴?」
話が逸れるだろ、とアルトナに窘められてすいませんと縮こまったが、森長はよいよい、と笑って説明を始める。
「己の力を別のものにも使わせることができ、別のものの力を己も用いることができると定義づけられておる。ガイレルには元々その能力があったが、相手がおらなんだ。石の巨人であったことは幸運であろう」
「それで、森長。覚醒とは…」
「簡単に言えば、潜在能力が発現することじゃ。別に戦闘に役立つことだけとは限らぬし、悪いものだったりもする。何倍もの知性を得たり、長い寿命をもたらしたり…ガイレルの場合は覚醒しうる能力が未知数じゃ。これからゆっくり確かめる必要があるの」
とはいえ、私たちにはそれを確かめる術はない。色んな素質が見つかるのは楽しそうだが、本人と森長しかその過程を楽しめないだろうと思うと、少し残念だった。
「どんな感じなんだ?覚醒した瞬間ってのは」
アルトナが聞くと、ガイレルはにこにこ笑いながら答える。
「なんだか、こう…あったかくて、気持ち良くて…沢山面白いことができそうだよ」
そう言ってガイレルは伸びをする。
様子を見ていた森長もまた、笑って頷いた。
「結構じゃ。基礎訓練が足りていない者の身にその機会が降りかかれば、折角の機会はそのまま破滅となる。体組織が完全に崩壊して悶え苦しみながら細かい粒となって存在が消しとんだ者もいる。共鳴と覚醒が同時であったにも関わらず、それだけ意思がはっきりしておれば文句なしじゃ。」
今なんかさらっと怖いこと言ってなかったかな、体組織が完全に崩壊したとか言ってたよね、と引っ掛かる発言はあったが、聞こえなかったことにしようと思った。うん。
「覚醒した者はそれまでより遥かに強い力を得るが、誤って力を使えば悪に堕ちる。ガイレルも君達も問題ないじゃろうがの。」
「ホントですか、このミトナなんか頭が足りないからすぐ引っ張られますけど」
「し、失敬な…!喋るのが下手なだけです!」
森長は赤くなる私とからかうアルトナを見てニコニコと笑っていた。
ガイレルと森長は、急に立ち上がって窓の外を見た。
「どうしたんですか?」
私の問いにガイレルが答える。
「森に誰か入ってきた」




