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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第二章・森長
25/99

25.朝の山頂付近

ガイレルから彼らについて詳しく話を聞いた。

といっても勿論、そんなに多くのことを知っているわけではないのだが。

龍は睡眠を殆ど必要としない。そのため、まだ日も昇らないうちから家を出て、木々に彼らの様子を聞くことを容易だった。

少女の名前は不明。独特の構えで槍を使い、魔法にもある程度の耐性がある。勇敢で物怖じせず、それでいて何者も軽蔑せず。…目元が、勇者によく似ている。

少年の名前はアルトナ。彼についてはしばしば情報が入ってくる。前に会ったときはまだ赤子であったが、今はもうすっかり立派になった。あとは彼の心の傷を消し去ることが肝心だが、あの少女がいれば何も問題はない。

ランタンが光を放ち、空に舞う埃を映し出す。

書物を整理してから家を出た。

恐らく、この空気では彼女は山頂にいるはずだ。

「やれやれ…彼女は今が最も苦しいじゃろうて」

一人で、そう呟く。

翼こそないが、飛ぶことは容易かった。

ひと息に山頂付近まで辿り着く。

向こう側の水平線が明るくなりかけていた。

「…おるかの」

そう語りかける。

「も、森長…?」

若い女性の声。木々が揺れて、ローブの女性が姿を表す。

その影がフードを下ろそうとするのを片手で制して、座るよう促す。

大人しく、しかし驚いた様子でゆっくりと座る。

「あの少女を追ってきたのか」

「はい」

「…ふむ…君がここにいる時点で、何かよくないことが起こったのだということは勘付いている。だがあえて問うまい。今の君に必要なのはもっと別のことじゃ」

そう告げると、フードが少し陰り、内側から声が聞こえた。

「…私は…彼女を…ミトナを止めたかった。彼と同じ運命を辿ってしまうから。でも、彼女の意思は硬かった…うっすら気づいてはいました。止められないってことは。それでも…」

「君が気負う気持ちは分かる。しかし、まずは待つことだ。下手に動くと運命は歪んでしまう。待てない気持ちを抑えて、待ちなさい。」

細い指先が微かに震えているようだった。

「…必ず、否が応でも君の助けが彼女らに必要となる。今は苦しかろう。待つことは苦しいことじゃ。」

そう告げると、震える声でぽつぽつと語り始めた。

声から恐怖心が滲み出ていた。

「あの日のことを思うたびに、心が壊れそうになるんです。だから思い出さないようにしてるのに、鎮まってくれない…このままでは、いつか私はダメになってしまいます。もう、裂けそうです…」

彼女は自分の心の矛盾に苦しみ、また現実とのギャップにも苦しんでいた。守りたい相手であるミトナを攻撃するほど余裕がなくなり、追い詰められている。

己の手を添えて言う。

「もし君に友がなければ、森が友となろう。もし君に家がなければ、森が家となろう。先を憂うことも、自分を恨むこともない。君はそれだけの労苦を背負ってきた。報われよう」

フードの内側から、こちらを見る目の緋色の輝きが見える。深い苦しみを称えて、それでもなお高貴に光を放っている。

「私は、報われてもいいのでしょうか」

「きっと報われよう。それも、君が守る相手によってな。」

必死に押し殺そうとはしていたが、フードからは微かに嗚咽が漏れていた。

「彼女を守りたくば、守ればよい。そばにいたいのならいても構わない。必要最低限の範囲でではあるがのう。」

「はい…」

「お主の魂は非常に貴い。どのような責め苦に逢おうと、決して汚れてはおらぬ。大丈夫じゃ」

そう言った途端、堪えきれなくなって泣き出した。

肩が震えている。

「泣いたら暫くは朝日でも見て落ち着きなさい。この山にいるときの生活は支えよう。今は何も考えずともよい。むしろ何も考えてはならぬ。」

酷なことだとは分かっているが、最終的によりよい方向に向かうためには、彼女にまだ耐えてもらわねばならない。

そして、アルトナも、新しい局面を迎えることになりそうだった。

彼が奥底に隠した秘密が衆前に晒されるとき、その仲間がどうするのか。状況にもよるが、彼は大きく救われるかもしれない。


かっと朝日が射していた。

山頂近くの木々を白いオレンジに照らす。

「森長…一ついいですか」

涙声で、ぐずぐずになりながら、彼女は問う。

「何かね」

「朝日とは…こんなにも、綺麗なものでしたか…?」

フードの内側の肌を僅かなオレンジで染める日差しが、涙の跡を光芒でなぞった。

「それが分かれば、君は十分大丈夫じゃ」

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