23.隙間
「あれは何?」
男性が赤い僧服をぼうっと眺めて指さす。
「エキリマースっていう宗教団体の人ですね」
「…ここの木は伐らないって…」
微かな直感が根拠だが、そんなことを平気でする団体だとこれで分かった。
「よいしょ…」
男性が木の影からのそりと姿を表す。
「熊だ!熊がいるぞ!!」という声がする。確かに間違いやすいけど、と思いながら見守る。周囲のざわめきも聞こえていないかのように、一番近くにいる僧服の前で大きく息を吸う。
「この森の木は伐らないんじゃなかったんですか!?」
あまりにも声が大きすぎて木がビリビリと揺れた。
私もとっさに耳を押さえた。
「な、何だお前は…!教祖様が必要となさっておる!邪魔をするな蛮人が!」
引けた腰でなおも怒る僧服を、男性はまた怒鳴りつける。
「それでも伐らないと先に約束したはずです!」
…この大声のせいで木々が枯れゆくのでは、と思ったが、そこはあまり考えないことにした。
気持ちを立て直した僧服の隙間から声がする。
「ええい、しゃらくさい!捕らえよ!」
ばっと赤い僧服が2、3人男性に駆け寄る。
しかし、それを無表情で横凪ぎに殴りつけると、僧服はふっ飛んでいき、どおん、という音とともに木に背中を打ち、力なく崩れ落ちた。
「…なっ…!」
僧服のボスと思われる、黒いローブの男が絶句する。今までは暗さと相まって全く見えなかったが、声を出した途端はっきり見えるようになった。
「かくなる上は、全員でかかれ!」
指示が飛んで、ガムシャラに赤い僧服達が駆け寄ってくる。
私は影から飛び出して援護に向かう。
「助けてくれるの?」
「はい!」
背負っていた槍を構えて横に凪ぎ、同時に二人を倒す。周りから「もう一人いるぞ!」と声がしたが、構わず倒し続ける。
敵数は大体60人ほどだろう。ひょっとしたら森の奥にも潜んでいるかもしれない。
「包囲して魔法で攻撃せよ!」
指示を飛ばす黒いローブの男が最後列に立っている。
ひとまずあれを狙わなくては。
「後退!陣形を展開して奴らを近づけるな!」
そう聞こえた途端、全員がすばやく退いた。
たちまち円形に取り囲まれる。
相変わらず空気はピリピリしており、どこから攻撃が飛んできてもおかしくなかった。
「放て!」
一斉に風の刃が円の中心へ襲いくる。
私に近い数発を槍で掻き消した。
「いなしながらゆっくり黒服に近づきます」
男性は無言で頷いてまた正面を向き直った。
彼の動きは特殊だった。体格のためもあって動作はそこまで早いわけではないが、次の動作が読めない動きであり、すべての攻撃を無効化している。
黒いローブの男が手を天に突き上げて合図を出すと、奥の木々の隙間から、敵が染み出してきた。
円の囲みは三重ほどにもなり、いよいよ攻撃の手は強くなるばかりだ。
額にじわり、と汗が滲み始めた。黒いローブはその場から動いていないが、私たちも同様だった。
「もっと別角度からだ!ひたすら攻めろ!」
また指示が飛ぶ。さらに攻撃は激しさを増す。私たちが、魔法を重んじて修行するこの僧達に魔法で抵抗するのは、明らかに不利だった。
「次々に放て…うぐっ!?」
黒いローブの男の声が詰まったかと思うと、その姿が地面に倒れ伏す。
後列でどよめきが起こる。
「薬草見つけんのに、随分と時間がかかってるみたいじゃねえか」
聞き覚えのある声にはっとして叫んだ。
「アルトナ!」
金髪が見えた。きっと彼の目は綺麗な青で、彼の鎧は白いはずだ。
情け容赦ない速度で長剣が振られ、血が飛び散る。
私は胸の痛みをなんとか無視して続けられる攻撃を凌ぐことに専念することにした。
アルトナは二列目と三列目の間を駆け回りながら混乱をまねき、時に敵を斬り伏せて戦力を削っていく。
相変わらず私たちへの魔法は凄まじい速度と密度で飛び交っているが、それにも次第に慣れ始めた。
「…ここをお願いします!」
「うん」
男性の返事を聞くや否や、私はアルトナのいる方向の逆側に飛び出した。
魔法が私により集中するのを必死で捌いて着実に進む。僧服達が焦り始めてどんどん魔法を放つ。後ろには下がれないのだ。とうとうゼロ距離射撃を回避して陣の内側に入った。
「入られたぞ!」
そうは言っても、どうするべきかが僧服達には判断できないようだった。
私もアルトナと同じく、二列目と三列目の間を駆け出した。
そのタイミングで、アルトナは陣形にぴったりと沿う形の円に走り出した。私はアルトナと等速度で回転し始める。
こうなってくると、一列目も中心の男性にばかり構っていられなくなる。次第に攻撃に隙が生まれ始めた。
男性は考えられないほどの速度で陣形に突撃して体当たりした。数名が吹き飛んで森の奥の闇に消えた。
今や陣形はバラバラに崩壊して、人数も20人ほどに減っている。このままいけば場を制圧できそうだ。
突然、僧服のうちの誰かが光の球体を空に投げ上げた。アルトナが駆け寄って慌てて蹴飛ばしたが、間に合わない。
四方八方から、足音が響いてくる。
周囲に控える僧服に合図を送ったのだと気づいた時には、既に木々の隙間の闇から、光る武器が見えていた。




