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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第二章・森長
22/99

22.密林

「止まれ!」

バーヴルの野太い声が響いて、全員がピタッと止まる。

「さてと、だいたいこのあたりが国境だ。」

私たちは向こうに微かに壁のようなものが見える小高いまでやってきた。

「何から何まで世話になったな」

「いやいや、最初に間違って襲った詫びに足りてるかすらも分からんくらいです。お気になさるな」

私は振り向いて山賊達を見た。皆が手を振っていたので振り返した。

「お世話になりました!また兄を連れて帰って来ます!」

私が言うと、バーヴルはにかっと笑って親指を立てた。日暮れの斜陽が眩しかった。

「おう!体調とか気を付けろよ!」

私とアルトナは下馬して、もう一度手を振った。50人がめいめいに別れを惜しんで手を振り返してくるのが嬉しかった。

バーヴルは彼の部下とともに散開して姿を消した。アルトナがぼそりと「また会えたらいいな」とつぶやいた。私が「会えますよ、きっと」と答えると、そうだな、と言って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


私たちは国境を前にして、野宿を強いられていた。集めた薪に火がついたのを眺めながら、私はため息をついた。

「まさか、私たちの目と鼻の先で門が閉まるなんて思いませんでした…」

「本当にスレスレだったのにな」

「門衛に聞いても『これが当方の職務ゆえ、できかねます』としか返ってこないなんて」

「鋼みたいな人間っているもんなんだな」

暫くこのペースで門番への愚痴をこぼしていたが、とうとう飽きて二人して鞄をまさぐり始めた。

「食料は足りそうですか?」

「まあ足りるだろ。それよりも、薬草が足りないな…これは店で売ってるやつよりも自生してるやつのほうが効力が高いんだよ」

「そうなんですか」

「じゃあ、行ってこい」

「え?」

唐突なフリに驚いていると、アルトナが言葉を続ける。

「薬草を探して来てくれ。大体30枚くらいでいいから」

「は、はあ…アルトナはその間に何をするんですか?」

「寝る」

「不公平ですよ!」

堂々と睡眠を宣言したアルトナに私は突っかかるが、聞く耳を持たず寝転がろうとしていた。

「しょーがないしょーがない。頑張れ」

「人ごとだと思って…知りませんよ、質が悪くても」

「俺はお前を信じてる」

「私はもう信じられません」


厳正な協議の末に私が探しに行くことになった。焚き火から火を分けてもらい、森の方へ探しに行く。

改めて見ると、夜の森というのはやっぱり不気味だ。

何が潜んでいるかわからないなんて昼でも思うのに、夜になるといっそう暗くなり、自分が引き込まれてしまいそうな恐怖を感じる。このまま、森の内側の見たことのない生き物に拐われたらと思うと…。

「…い、いやいやそんなことはないはず…大丈夫大丈夫…大丈夫大丈夫…」

必死に怯えた気持ちを押さえ込もうとするが、どうにもならないことというのはあるようで、全く心臓は落ち着きを取り戻さない。薬草はないかと足元を照らしていると、背後の茂みからがさがさっと音がした。


私が勢いよく振り向いた先には人がいた。

最初は大猪が蘇ったのかと思ったが、よく見たら体がとても大きい男性のようだ。

「…あ、あの…」

暗くてよく分からないが、戸惑う私を眺めているようだった。

のっそりと、まどろんでいるような声で、彼は不思議そうに呟いた。

「…人?」

「はい。人です」

私は内心怯え切っていた。襲ってくる気配などはないが、それはまだこちらの様子を眺めているだけかもしれない。

「どこから来たの」

「えっと、スノッリです」

「危ないよ。帰った方がいいよ」

「は、はあ…そうですか…」

とても鈍重に口を動かす。まるで大木がそのまま人の形になったみたいな人だ。どうやら悪い人ではなさそうで、少し安心した。

「でも…薬草を探したいんですが…」

「そうなの?」

ものすごく緊張感のない返事で、肩の力が抜けてしまった。この状況で「そうなの?」と返されるとは…。

「ついておいでよ。ここにはそんなにいい薬草はないよ」

「あ、はい」

流れの赴くままに、私は男性についていく。

男性は前に立って草をかき分けながらずんずん進み、私はその後ろを歩いていた。

「森、怖い?」

「はい…夜になると特に」

「やっぱりそうなんだね。町から森に来た人は皆んなそう言うんだ。でもね」

一際大きくバキッと木を踏む音がした。私はびくっと肩を震わせたが、男性は動じない。

「森は人にも動物にも、いろんなことを教えてくれるよ。自然にとって、森は脳だよ」

「…そうなんでしょうか」

「僕はそうだと思うよ。確かこの先の開けたところに、薬草が沢山生えてたはずなんだ」

妙な胸騒ぎがした。空間ががなにかを告げていた。

「…ここからは私が前に行きます」

「大丈夫?」

「大丈夫です」

足音を立てないように歩く。後ろからくる指示の通りに進むと、やがて向こう側に円形の広場のような場所が見えた。

そこには、赤い僧服もちらついており、木を伐採していた。

「…おかしいな…ここの木は切らないって言ってたんだけどな」

ぼそりと男性の声が聞こえる。

「そんな…」

エキリマース教と鉢合わせする形となった私は、一度呼吸を整えようと深呼吸した。

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