20.知らせ
私達は下馬して徒歩で本部の裏までやってきた。
バーヴルが待っているのが見える。
「来たな嬢ちゃん、アルトナさん!もうちょい待てばここは手薄になる。それまでは我慢だ」
その途端、上から支持する声が聞こえた。
「ええい、何をしている!早く端に兵を送れ!」
足音がして、砂煙が出るのが見える。
「全員、登るぞ」
いうが早いか、重力に逆らっているかのように山賊たちは崖を登り始める。
私はおろおろしながら岩壁に手をかけた。
アルトナはそんな私の手を握ってひょいと引っ張り上げる。
「軽いな、お前」
「喜んでいいんですかね」
山賊たちは既に崖を登り終えていた。
「な!?こいつら、いったいどこから出てきた!」
驚く敵部隊の隊長は勢いよく振り向く。
周囲の兵士たちも予想よりも少ない。
「敵数30!急いで拘束しろ!」
バーヴルが指示を出す。
この場においては数の利がこちらにあり、ましてや手練れが揃っている。
今までで一番早く全員を拘束した。
「全員捕えました、親分!」
「よし、一応二人の顔は隠しとけ。バレてるかは分からんが、ここで見られてもいいことはない」
「分かりました…お二方、あまり奴らに顔をお見せにならないようお気をつけください」
「分かりました!」
「おう」
そんなわけで、あっという間に山賊で小隊を片付けてしまった。
「野郎ども!とるもんはとったか!」
バーヴルの呼び声に山賊50人は思い思いに声を上げた。金品はちゃっかり剥ぎ取ったらしい。
「良さそうだな。これでこの崖は通れそうだ。」
いささか派手すぎたのでは、と思いながら、私はまたアルトナの助けを借りて崖を降り、馬にまたがった。
私達は再び、目的地に向かって進み始める。
暫く進んでから、バーヴルが何かに思い当たったようにぼそりと呟く。
「こんなことしてたら、国境侵犯だとか罪なき旅人を襲っただとか、そういう罪に問われる可能性があるんだがな…」
たしかに、言われてみればそうだ。
いくらこちらから襲っていたとはいえ、少なくとも勝手に国境を超えていたことに変わりはない。
「それも揉み消せるくらいのヤツが、どこかで動いてるかもしれないということか…」
アルトナの呟きに反応して、バーヴルはすっとこちらを見遣る。
「まさか…大臣か…?」
「なくはないが、ミトナを洞窟に送り出した件があってからこんなにすぐに動くとは思えない。一枚噛んでいる可能性はあるが、大臣だけでは難しいだろう」
宗教団体エキリマース。
エギリ国の国教。
「…国規模で…このサンチマル国やスノッリに侵入してるってことですか…?」
「最悪の場合、そうだな。」
「じゃあ…戦争が起きることも…」
どくっ、と心臓が跳ねる。
私の疑問に、バーヴルは至って冷静に、しかし重苦しく応える。
「ありうる。勿論それに対しての対策を講じておかねばならん…が、なぜこのタイミングなのかが未だに分からないな。」
たしかに、バーヴルの言う通りだ。
今争っても何になるのだろうか。
各国の利になることがなく、歴史的な因縁が解消の動きに向かう風潮が生まれ、魔王という共通の不安要素を持っている。戦争を起こしている場合ではないということは共通認識の筈だが…。
「まあ俺たち山賊はとにかく他国の山賊との連携を取り始めなくては。それに、嬢ちゃん達が勇者様を見つけてくれりゃ、何か変わるかもしれないぜ」
「…そうですか」
「そうだぜ。あんまり必要以上にビビんなよ、怪我するぜ」
なんだか姪っ子でも見てるような視線で私を眺めているが、それはともかくとして、少しだけその言葉は安心感をくれた。
夜になった。
広い草原で野営をすることになり、皆が狭い範囲で五箇所くらいに焚火をする。
「報告書を受け取りました!向こうの舞台ではまだ体制が整っておらず、エギリでの送迎はできないとのことです」
「そうか…まあ予想はしてたが、俺たちもスノッリに大臣という癌がまだ居座ってるからな…」
「あの…一体誰からの報告ですか?」
「これは世界山賊連合、エギリ支部からの通達です。ミトナ様やアルトナ様を護衛するよう頼んだのですが、まだ作られて日が浅いために諸々の処理が追いつかず、自分たちのことで手一杯なので護衛はできないと返事が来ました」
「そうか…」
つまり、エギリの国境から先は本当に二人で旅をすることになるのだ。
「まあ、そういうことだ。たまには仲間と会うかもしれねえが、基本的にはもうほとんど会うことはない。嬢ちゃんとアルトナ様二人だと、今までの旅とは様式が変わるかもしれんが、そこから得ることだってある筈だ。」
「そうですね…」
ただ単に寂しかった。とても一生では返せないくらいに世話になった。世話になりすぎた。
焚き火がぱちぱちと爆ぜる。なんだか虚しい音に聞こえて、やりきれなくなった。
「すいません、なんだか…どうやっても恩返しができないくらい世話になりすぎて、その…申し訳ないというか…」
バーヴルは一瞬キョトンとしたあと、豪快に笑い声をあげた。
「いいって!なーにを気にしてんだ!俺たちを見ろ!ボコボコになったってニヤニヤしてやがる。誰かと別れるなんてこれからもあるさ。俺たちは嬢ちゃんが兄貴を見つけたって報告さえ聞けりゃいいんだ。恩返ししたきゃ、成功した時にふれ回ってくれよ。」
ばんばんと肩を叩かれた。痛みよりも嬉しさが勝って、目が潤んでしまう。
丁度、アルトナ達が野生のウサギや鳥を持って帰ってきた。




