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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第二章・森長
19/99

19.300という制限

私は、10人を引き連れて崖の間を進んでいた。

本来アルトナがする役割らしいのだが、私が目を輝かせて立候補したので私に決まった。

この戦いで一番危険な業務らしいと聞いて、私は燃え上がっていた。

「よかったんですかミトナさん」

「大丈夫大丈夫!ちゃんと作戦通りに動けばうまい具合に事は進むから」

何でも、バーヴルは6000人の部隊に15人でかかっていって敵将の首をとったらしい。信じられない話ではあるが、周りの兵士曰く「同士討ちを誘発させて混乱を起こし、狭い場所まで敵本部をおびき寄せ、身動きがとれなくなったところで将を斬った」とのこと。

そんな人が50対300の戦いで惨敗はしないだろう。

「…あそこで砂煙があがってます。そろそろでしょう」

後ろの一人が左の崖を眺める。

確かに、その場所の空は僅かに濁っていた。

「いよいよだね…!」

まだか。まだか。

速度を変えずに、そのままの速度で進む。


地を裂く歓声が聞こえる。

歩兵の部隊がここまで来る。

「全員!逆走!」

私は声を張る。ちゃんと聞き取ってくれたようで、私をしんがりとして逆向きに走り出す。


「300というのはな、実は戦場じゃ少ない兵なんだ。だから作戦の幅は狭い。逆に極端に少なかったり、ある程度兵士がいたりすれば、その兵を動かす作戦というのは直接戦場に影響するほどの効力を持つ。300は自由が効かない兵だ。人数が多すぎないから命令はよく通るが、命令なくして動けない。歩兵の300は広い場所では騎馬30人と互角だ。この300という数はな、これだけで置くことが禁忌とされる数なんだよ」


私はひたすらに走る。

後ろから来る兵を引き離さないように。

それを承知だから、先頭の騎馬も全速力では飛ばさない。そして、追う兵はそれに気付かない。みんなで一つの先入観を抱えているからだ。

「我々は勝っている」

勝つことほど危ういものはない、と言われることがある。それはまさしく今、この場所で最優先される法則だった。

来た道を戻り続け、森に続く方角に走る。

「後ろにはどれくらいいますか!」

掲げてある旗の下には、大体50人くらいがいる。

それが、4つ。

「左の全兵士が追ってきてる!」

「了解!作戦続行!このまま森に入ります!」

私たちは騎馬のまま、森に入る。

「全員止まれ!」という声が背後から聞こえた。

私たちはこっそりと、声が聞こえる距離に移動する。

「隊長!なぜです!」

「やつらは騎馬で森に入った。騎馬は森での戦闘に不向きだという事は誰でも知っている。そうやって我々を煽り、調子付かせて森に誘い込む手筈だろう。しかし、森は奴ら山賊が最も得意とする環境だ。入ってみろ、たちまち何百という山賊に奇襲を喰らわされる。まずは指示を待つべきだろう。伝達部隊に指示を仰ぐよう伝えろ」

私たちは森に潜む10人と合流して、総勢20人で全速力を出して先回りした。崖の終端まで一息に辿り着く。

「伝達役を一人も逃さず捕まえること!いいね!」

「勿論」

森の木々に隠れる。

…砂煙。

まだ姿が見えない。

「通り過ぎてから背中を襲おう」

来た。歩兵だ。

大体20人。

「まだだよ…」

すぐに通りすぎる。背中を見失わないうちに…。

「突撃!」

騎馬20人は一斉に駆け出す。

ぎょっとして伝達部隊は逃げ出すが、あっという間に追いついた。すぐさま包囲して攻撃する。

「全員いる?」

「…いち、に、さん……一人いません!」

しまった。逃した。

「探しますか」

「いや、流石に時間が経ちすぎてるからな…逃げられてるかも。この人たちは森の中で拘束して、向こうの崖の援護に回ろう。目的は命令系統のマヒだから、ひとまず森に入ってから回り込んで逆側の崖の端の伝達部隊を叩こう」

「分かりました」

私たちは森に向かって進み始めた。


「アルトナさん!向こうから人が来ます!どうやらミトナさんの奇襲が成功したようです!」

見ると、向こうからボロボロの人影がこちらにやってくるようだ。…そろそろこちら側の崖の伝達役にも奇襲をかけてよさそうだ。

「こっちも仕掛けるぞ!狙いは近くの伝達部隊だ!」

後ろの10人で攻撃を仕掛ける。

突然の出来事に慌てふためく小部隊を次々と拘束してゆく。明らかに応援が追いついていない。それもそのはず、これもまた300という数の欠点なのだ。

主力温存の機会を間違えたら、とことん叩かれる。逆転はない。

この補給ペースは、本部が明らかに出し惜しみしている証拠だ。もっと多ければこちらもどうなっていたか分からないが、それはないという読みが当たった。

「敵が来ます!数は約20人!」

敵兵が悲鳴に似た声をあげる。

おそらくミトナだ。

これで向こうからの助けはこないだろう。

俺の率いる10人は騎馬している猛者たちであり、平たい土地では歩く兵よりも遥かに有利だ。

「遅いじゃねえか、ミトナ」

「これでも頑張ったんですよ!それで、バーヴルはどこですか?」


「裏だ」


山賊20人は、既に本部の後ろに陣取っていた。

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