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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第一章・スノッリ
16/99

16.謁見

その日が来た。

私は妙に緊張して早く目を覚ましてしまった。

アルトナは眠っている。それもそのはず、外はまだ暗いままだった。

昨日も体の感覚を取り戻すために動き回っていたはずなのに、疲れ以上に先を予測できない不安が心を占めていた。

「どうしよう…どうしよう…」

頬に両手をあてて自分の膝を見る。

すべきことは分かっているのに、どうしてこうも恐れているのだろうか。

ベッドにまた横になったが、案の定眠れない。

「洞窟に私一人で送り出されて大臣の失脚を願った事件」から丁度一週間。明後日の朝に出発。

なんて無理のあるスパンだろうか。いや、ここで休ませてもらっただけでもありがたいと思わねば。

ふうっと息をつく。

仕方がないので、私は服を着替えて失礼のないようにと準備を始めた。


アルトナが寝ぼけながら身を起こした。

「あれ?お前どうした?そんなカッコ…婿でももらうのか?」

「まだ私にはいません!!今日が面会ですから、準備してたんじゃないですか」

その返事を聞いてしばらくぼーっとしてから、アルトナは「ああ、そっか…」と呟き、のそりと自分の服がしまってあるタンスに向かった。

私も髪を整えて、先に運ばれてきた朝食を食べた。

「お前、身支度した後に飯食ったらこぼした時が怖いぞ」と聞こえたが、知らないふうを装いながら黙々と食事を進める。


「王はこの先におられます。粗相のないよう。」

お付きの兵士が重苦しい声で私たちに注意する。

小声で「はい…」と返事をして、すうっと息を吸う。


「どうぞ」


足を踏み出す。

赤いカーペットと金の装飾。透明な宝石のシャンデリア。全てが年代を感じさせる、古き良き玉座の間。

「君たちか。私に会いたいと言ったのは。」

王は、白髪が混じっていた。昔から喉が悪く、声は嗄れているが、それ以上に周囲の空間を包み込むオーラを纏っていた。私はそれに圧倒されたが、どうにか前を向いて答える。

「はい。私が、王に会いたいと申しました」

「…私に、縁がある者の話かな。」

「勇者の行き先について、お聞きしたいことがございます」

私がそういうと、王は目を見開いた。

「皆のもの、下がってくれるか。私は…この者と少し話をする」


横のアルトナも前のメリド王子もいなくなった。グランツ兵士長が「よろしいのですか、無論ミトナ殿が危害を加えるとは思いませんが」と言うと、王は「うむ、かまわぬ。君も下がっていなさい」と答えた。兵士長は一礼して退出した。

「…そうか。では、君がミトナか。君の兄から聞いている」

「ありがとうございます」

「私が勇者に頼んだのは、魔王との契約についてだ」

そう言って、王は古い歴史を語り始めた。


500年前、人と魔物は争い合っていた。

互いの戦力はともに少しずつ削れていくばかりで、何の進展もなく、数々の兵器ーー石の巨人、鉄騎兵、四輪戦車ーーも次々と対処され、封殺された。

そこに初代勇者が現れた。

初代勇者は人と魔との恒久平和を望み、相互に領地を決めて干渉しないという条約を結んだ。

魔族には、面積こそ少ないが、肥沃な大陸を与えられ、人には、規模が大きく気候の変化が少ない、起伏のある大陸を、それぞれ与えられた。

しかし、5年前、魔族の土地から人の大陸まで橋が伸びているとの報告が入った。

人類はそれに説明を求めたが、返答はなかった。

民衆はすぐに忘れ去ったものの、上層部は不安を抱いて過ごしていた。

そこで、次の勇者を擁立しようと決めたが、候補がいっこうに決まらず、たまりかねて王が強引に兄を勇者に仕立てた。他の候補の中でも、頭ひとつ抜きん出ていた兄は勇者となり、魔王に面会して納得のいく理由を聞き出して、不可能であるならば魔王を捕らえてこいという要求をされた。


「私は無茶だと言ったが、レーグ大臣やエギリの国の聖職者達が強く押し進めるから、結局後者の要求ものむことになってしまった。…私はそれからずっと、後悔を引きずり続けている。しかしもうこのざまだ。出来ることは、未来に意思を託すこと、そのために最大限の準備を整えることだった。」

王は私の目をじっと見た。

私は話に聞き入っていた。

自然と、目があった。

「これまでの歴史は、そして私は、無責任を見て見ぬふりしたのだ。時間はいつまでも止まってはいない。500年前の条約は、今まさに新たな足音を立て始めている。勇者は私にだけ言った。橋をかけるのに助力して、魔物や人間を隔てる時代を終わらせたい。とな。メリドには既に多くを教えた。アルトナにも、道を示した。…ミトナよ、私が誰かに託すのは、これで最後だ。君の兄と私を、もう一度会わせてくれ。…頼まれてくれるか」

私は勿論迷わなかった。

はっきりと言う。

「なんとしても、必ず、兄を王に会わせます!そして、私もその瞬間を見ます!だから、待っててください!」

王はにこやかに笑った。

「ありがとう。私も、ただ待つのは性に合わない。スノッリのことは任せておきなさい」

それから、私に告げた。

「魔王に会えば、きっと勇者の居場所も自然に分かるであろう。だから魔王の領地を目指すが良い。その際エギリからロナ王国を通るルートが最も早いじゃろう」


人を呼ぶため、王はベルを鳴らした。

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