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勇者の妹  作者: 虚言挫折
第一章・スノッリ
15/99

15.俺宛

ドキドキする。

二枚目?

嫌な汗が落ちてきた。

目がぱっちり開いてしまっている今、もう一度眠れそうにもないが、完全に会話に入るタイミングを逃した。

「仕方ないよ…確かに君が自分を責めたくなるのは分かるよ。でも、立ち止まってちゃ…」

「俺がそれを分かってることも、お前は分かってると思う。…行動が必要なのは分かってるんだ。でも情けないことに、全く動けてないんだ」

「…そうだよね…」

僅かに蝋燭の火が揺らめくくらいしか、動くものは無かった。重苦しい静かさが辺りを包んだ。

一人はアルトナだろう。もう一人は…メリド王子?

はあ…と、二人のため息が重なる。

「悪いな、こんな話で」

「いいよ。僕が聞き始めたんだから」

紙をめくる音がした。

アルトナが苦しそうに話し始める。

『アルトナ様、私からもミトナ殿にはアルトナ様を信じるよう伝えてあります。私は、例え元は一人ずつであったとしても、今やミトナ殿とアルトナ様は互いにバランスを取り合っている天秤のような関係であると考えております。私の望みは、大臣の打倒もですが、お二人の旅が成し遂げられることでもあるのです。片方が崩れて仕舞えば、もう片方も潰えてしまうことを危惧しているのです。ミトナ殿を大事になさってください。』

…誰の手紙だろうか。いや、なんとなく察しはつく。

「バーヴルの言ってることは正しいんだ。あいつは、ミトナは、言えないことは言えないと、はっきり言った。だから、俺も言わなきゃダメなんだ」

どく、どくと脈うつ心臓を、ここまで恨んだことはなかった。いつもの速度に戻って。お願い。

何も見たくなかった。聞きたくもなかったが、目を瞑ることすら出来なかった。

「でも、俺の抱えてるものを見返した時、それがどれほど大きかったか、…気づいてしまった。気づいて、身震いしたんだ。」

蝋燭の灯りは、丁度私の目の前にアルトナの影を作り出していた。髪をくしゃくしゃと掻き、背を曲げて俯いている。

「せめて…言えないことがあるってことだけ、言っておく準備はしておこう。…僕は戻るよ。あんまり力になれなくて…ごめんね」

「いや、話を聞いてくれただけでもありがたい。ゆっくり寝てくれ」

ドアを閉める音が聞こえた。

少しだけ遅くなったが、やっぱり普通よりも鼓動が早いままだ。


「…起きてるのか?ミトナ」

「あの…今…起きました」


私は恐る恐る顔を上げたが、アルトナが「寝といてくれ」と言ったのでばたっと倒れた。

「いいたくないことがあるんですか?」

今は、相手の顔が見えない。

だから、段々いつもの調子を取り戻しつつあった。

「…ああ。どこから聞こえてた?」

「バーヴルさんの、私を大事にしなさいっていう手紙のとこからです」

「そうか…」

しばらくお互いに黙ったままだったが、やがてアルトナは喋り出す。

ぼうっと光で影が揺らぐ。

「俺はな、生まれ方に恥があったんだ。それがどんな内容なのかはいつ話せるか分からないが、とにかく…それが元で故郷の国と諍いがあって、俺は国を離れた。これだって完璧な説明じゃないが、できる限りの説明はしたつもりだ。悪かったな。黙ってて」

明らかに焦っていて早口ではあったが、きっと本当のことだ。


また、私たちは黙ってしまった。


もうこの口下手な私が喋ることで解決することはなさそうだった。

「よいしょ…っと」

上体を起こす。そして、ベッドのへリに座る。

右手で体重を支えて立ち上がった。

「!?…何して…」

「あのね」

喋るのが下手なのは分かっていたが、それでもこうするしかない。

足が痛かったが、それ以上に前に歩きたい気持ちが強かった。

「誰でも言いたくないことは持ってるから…いて」

ふらふらする。思わず立ち上がったアルトナを押しとどめて話し続ける。

「だから大丈夫だよ。私も、お兄ちゃんのこと、言ってないでしょ。抱えるものの重さは、いてっ、違うけど…秘密は秘密だから、ずっと教えてくれなくても、いちちっ、私は信じてるよ」

正面のふかふかな椅子に勢いよく座る。

「…お前…」

私は汗だくだった。座って、ふうーっとおじさんみたいなため息が漏れた。

今一度、アルトナを正面から見たかった。

「信じてる。うん。…説得力はないかもしれないけど」

「いいのか?俺を…信じても」

「…最初に信じたのは、私の方だから」

視界を遮る髪の毛を避けてアルトナの青い目を見ると、自然に笑ってしまった。

「そっか。そうだよな。」

アルトナは、自分に言い聞かせるみたいに言った。

それを見て、私は急に恥ずかしくなってしまった。

「あの…はい。そういう…ことです」

少しぽかんとした後、アルトナはくすっと笑う。

今までの嘲笑的な笑いではなくて、子供っぽい、人懐っこい笑みだった。

「わかったよ。…もう寝ようぜ」

「はい…」

私はひょいと抱えられて、ベッドに寝かせられた。

自分が何をされたのかを理解して顔が熱くなったが、アルトナは気にしていないようだった。

「おやすみ」

「おやすみなさい…」

私たちはまた、眠りについた。

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