14.私宛
城の一室で、私とアルトナは過ごしていた。
洞窟探索から3日が過ぎ、私の体が回復したらいよいよ王と面会することになる。
…回復するのか?
医者には「意識があるのがおかしい」「もっと休むべき」と言われた。
お生憎様だ。私は休みたくなかった。
手をこまねいていては、また大臣の妨害が入る。
アルトナにも「休めよ」と言われた。もっとも、こちらはどうせ休まないだろうという諦めが混ざった問いかけだったが。
私は回復が早いらしく、2日で肋骨が殆ど治っていた。あとは右足と左手が治れば完治というところまできている。
医者には「回復するのがおかしい」「もっと遅いべき」と言われた。
そういえば、またアルトナと同室だ。部屋が一緒になる呪いだろうか?だが、心を許せる人が近くにいるのは私にとってありがたかった。アルトナがどう思っているかは分からないが。
結局、約束通り王子は宿屋に補助金を出して疑念を取り消してくれた。さらに、王との面会も手早くとりつけてくれていたのだ。石の巨人が王子を聡明だと言っていたのが分かる気がする。
今の私はベッドで寝て、漠然と空中を眺めているところだった。初日に同じ状況で呆けた顔をしていると、横から「それが女の顔かよ」という声が聞こえて慌てて顔を繕ったという嫌な記憶があるので顔には気をつけている。
片腕片足が動かないのがこんなに辛いとは思わなかったが、その分の見返りは大きい。
私は、面会を楽しみにしていた。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。アルトナが開けると、メリド王子がそこにいた。
「やあ。久しぶりだね」
「確かにそうだな」
なぜか王子とタメ口のアルトナを気にしていると、王子は私の方を向いた。
「怪我はどれくらい治った?」
穏やかな眼差しだ。
口調は優しくて、警戒心を抱かなくても十分話せる。
「あとは右足と左手だけです」
「…早過ぎないかな」
「大体こんなもんですよ」
「そんなワケねえだろ」
しばらく他愛もないことを談笑まじりに話していると、王子が思い出したように懐から紙を取り出した。
「はい、手紙。ミトナとアルトナに。」
差し出されたそれは、まさしくバーヴルの手紙だった。少し形は崩れていたが、それでもよかった。
僕もまだ読んでないんだというと、メリド王子はもう一枚の紙を取り出して上品に封を開けた。
私宛の手紙は、信じられないくらい綺麗な字で書かれていた。
『ミトナ嬢ちゃんへ
小汚え山賊だが、字だけは綺麗に書くつもりだ。
これからの旅の心得って奴を教えといてやる。
それは、自分が信頼したけりゃ最後まで信じろということだ。
嬢ちゃんが人を見る目に狂いはない。
アルトナ様っていう天才をメンバーに引き入れる力が、あんたにはある。だからこそ、相手がどんな過去を持ってても受け入れてやれ!
それができるやつは案外少ない。
だが嬢ちゃんにはできる。嘘くさいかもしれんが、迷ったら信じることを思い出してくれ。
あんたが俺たちに元気な姿を見せてくれて、皆も元気にしてる。だから元気を返してやる。
一緒に寄せ書きが入ってるはずだ。
大臣の部下からひったくったヤツをいじったから、ちょっと変わった形してるけどな。
こっちにきてまた何か困ったら話くらいは聞いてやるよ。まあ無いのが一番いいんだがな!
あと、また機会があったら尋ねたかったんだが、嬢ちゃんの槍の動きは古い伝統的な、失われた型が元になってるみたいだ。いくらか無駄が減った形になってはいるが、ベースになってる気がしてならねえ。次会ったら教えてくれ!
じゃあな!』
読みながら泣きそうになった。
最初に大臣の部下と間違って襲われ、そのためにスノッリまでついてきてくれた。
短い間の出来事なのに、こんなにもその時のことを大事にしてくれるとは思っていなかった。
「…よかったな」
隣でアルトナが呟く。
返事をしようと口を開いたが、先に涙が出てきてしまった。
封筒の中から、鋼色のロケットが出てきた。
普通は写真が入っている場所をよく見ると、メッセージが入れ替わって映し出されていた。
「あああ…!絶対離さない、死んでも一緒に墓に埋めてもらいます」
「言い過ぎだろ」
そういいながらも、アルトナもメリド王子も微笑んでいた。
「ふう〜…幸せ…」
「そんな顔してるな」
「ははは…よかった。それじゃ、またね。次に僕たちが会うのは面会の時だね」
メリド王子は笑って立ち上がった。
「体を大事にしてね」
「はい!」
手をひらひらと振って部屋を出て行く。
私は起こしていた体をゆっくり倒した。
起きているとバランスがとれなくて、少しのことでも疲れてしまう。
「まあ、ちょっと寝ててもいいんじゃねえか?」
「そうですね…眠いです」
睡眠の周期が今までとは変わったので、昼間だというのに眠気に襲われていた。
アルトナは私の近くに座ってなんとなしにこちらを見ている。
「…見られると緊張します」
「慣れろよ。おやすみ」
私は目を瞑った。単純だが、その途端、一気に深い微睡に包まれる。
「…二枚目は…ミトナにまだ話せる勇気がない」
らしくないアルトナの沈痛な声で、私は目を覚ましてしまった。




