13.帰る途中
私は幌馬車に乗せられ、というより積み込まれて送り出された。
わざわざ兵士長まで出迎えに来るあたり、私が思っているより大事になっているようだ。
道のりも険しくはないためそんなに大軍でもなかったが、人が沢山いることの安心感は私を落ち着かせた。
「…どうだ、体の様子は」
「ええと、何箇所も痛みます」
「正直でよろしい」
私の馬車は兵士長が横にいた。
顔を覆う兜の下は美術家の細工の如く綺麗で整っていた。兵士長を慕う人が集まりすぎて兜をつけることになったと供回りの兵士が教えてくれた。
なんだそれは。本当の話ですか。
ごとごとと馬車の車輪が回る音だけが聞こえている。
「…私の祖先が、石の巨人を作った」
兵士長は唐突に話し始めた。驚く私を気にしていないように、話を続ける。
「巨人は、当時の戦争で人間を、魔物を、あらゆる生き物を殺していた。味方ですら恐れるほど…それは先祖が遺した、負の遺産だった。しかし、本来治安維持のシンボルとして作られた巨人もまた殺しを嫌っていた。自分を憎んでいた。…私は君があの洞窟に行くと決めたことに感謝している。巨人は、君でなくては救えなかっただろう」
穏やかな声だった。
厳しそうな表情とは少しギャップがあったのに驚いたが、無理もないことだと思った。
兵士長はきっと、殺戮兵器を作った人の子孫ということで苦い目を見てきたのだろう。にも関わらず、彼は先祖の仕事を誇りにも思っていた。
治安を、ひいては国民を守るという彼の役割と重なるところがあったからだろう。
「本当に…私が救ったんでしょうか」
「ああ」
その答えで、私はこの無益に思われた苦労が報われたような気がした。
「全軍!止まれ!」
寝ていた私ははっと目を覚ます。
「な、何ですか?」
「山賊だ」
周りから剣を抜く音がする。
「賊め…我々の前に立ったからには、生きて帰ることができると思うなよ」
恐らく先頭の兵士のものと思われる声がした。
しかし、馬車隊の緊迫感とは裏腹に、山賊の声は呆けていた。そして、聞き覚えがあった。
「騎乗した時に重心が前にズレる癖は治ったみたいで何よりだ、グランツ」
兵士長はそれを聞いて指示を出した。
「…全員、武器を下ろせ。彼らは武器を持っていない」
「兵士長?」
「親玉の顔をよく見てみろ」
戸惑う兵士に、兵士長グランツは声をかける。
親玉は続ける。
「先頭のはグリムロか?お前はまだ轡を踏む時に左足に力を入れすぎているな」
「バーヴル様!?」
まさかの再会。私は驚いて口をぽかんと開けていた。
そうだ、山賊の親玉のバーヴルさんは高位の武官だった。
というか、何で一人一人の動き方のクセを覚えていられるんだ。
「そんなに時間は取らせねえから安心しろ。大臣の部下を襲うよりは早いさ」
「用件は何だ、バーヴル。」
兵士長が問う。少し遠かったが、何か数枚の紙を懐から取り出したのが見えた。
「同期のよしみで頼まれてくれ。この手紙を王子に。この一枚をアルトナ様に。こっちをミトナ嬢ちゃんに。まあ宛先は書いてあるからな、分かるだろ」
周りの兵士は戸惑っている。受け取りたいが、役目上難しいことだ。何より、グランツ兵士長の指示が出ていない。
「受け取れ、グリムロ」
兵士長の声が横から聞こえた。
「はっ!」
グリムロは元気に返事をして馬を降りた。物を確認してグランツ兵士長に渡したようだ。
「…早く行け。我々は道端でこれを拾った。いないはずの人間がここにいては困る」
バーヴルは笑ったらしかった。
「恩に着るぜ、じゃあな!ちょくちょくお前のとこに遊びに行ってやるよ、寂しいだろうからな」
「それは断る。…体くらい洗ってこい」
返事を待たずして、バーヴルとその仲間は姿を消した。兵士たちの間から「あいつら本当に山賊かよ…」という声が聞こえた。ビビらされてる。
「あいつは昔からああいう馬鹿だった」
グランツ兵士長はぼそっと呟いた。その言葉は、いくらか懐かしそうな響きを伴っていた。
「…予定より少し早いようだが、行軍速度は変えぬ。」
「はっ!」
兵士長の声で、兵士達は再び各々の武器を構え始めた。
夕日が沈む前に城門についた。
大臣との賭けの話を知らない人々は、何事かと馬車を眺めていた。
兵士の一人が巻かれた大きな紙を、広場の中心の看板に貼り付ける。
そこには『洞窟の魔物、目覚めた石の巨人に退治される!』という見出しと、巨人がすでに崩れて洞窟からいなくなったという内容が記されていた。
「良かったのか?君の話す通りに書いたが」
兵士長に尋ねられたが、私は全く構わなかった。
事実、私が魔物を倒してもいないし、巨人が洞窟からいなくなるのも本当の事だ。
それに、私が目立ち始めたら、アルトナが面倒くさがるだろう。
私は、今はとにかくアルトナに会ってから休息をとりたかった。




