ありんこがのっぽ先生と初デートをした話
次の日も、晴れの国らしく快晴だった。隣を歩く幸博先生をそっと有里は見上げる。やっぱり背高いな。私、チビだから凸凹して見えるだろうな。倉敷駅から大原美術館にある美観地区までは徒歩で十五分くらい。ゆっくりと雑談をしながら二人は歩く。ホント、デートみたいだ、有里は思う。
午前中だが夏休みということで、そこそこの人出がある。白壁の蔵造り建物群を抜け、倉敷川沿いを少し歩いて美術館の入り口に到達する。
「結構、ここ大きいからね。まず本館から見ていこうか」
幸博が提案する。有里は頷く。二人は一緒にゆっくりと絵を見て回った。時々、幸博が有里に声を掛ける、疲れたら言ってね。有里は笑顔で頷く。
「これが、僕の遠い親戚の絵だよ。修復が終わってこの前、再展示が始まったんだ」
幸博が言う。
ドレスを着た外国人の女性が数人並んでいる絵、乳白色の背景と描線の細さが印象的だ。
「あまり僕が好きなタイプの絵じゃないんだけどね」
幸博は苦笑しながら言った。記念に見に来た、という感じかな。
工芸・東洋館に移動する。幸博は言った。
「僕は、棟方志功の版画が好きなんだ。力強い線でしょ?」
ホントだ、有里は思う。
「こっちは童話の挿絵みたいですね」
カラフルに彩色された版画を見ながら有里は言う。これ、確か裏から彩色しているんだよ、と幸博が言う。へえ、詳しいんだな。
「疲れてない、大丈夫?、お腹空いた??」
絵や工芸品などを堪能した後、美術館の外に出て、倉敷川沿いを歩きながら幸博が聞いた。
有里は笑って答えた。
「疲れてないけど、お腹は空きました!」
そうか、じゃあご飯食べよう、幸博も笑って答えた。僕もお腹空いたから。
昼ご飯を食べた後、美観地区近くの鶴形山公園に行って、神社でお参りをした。見晴らしがいい。倉敷の街並みが一望できる。いい眺めだね、二人は大満足であった。
私、ここ来たことなかったです、有里は幸博の顔を見上げながら言った。そうだね、地元の観光地には行かないよね、と幸博は言った。僕も現在東京に住んでるけど、スカイツリーとか浅草とか行ったことないし。あー、そうなんですか。そういうものですよね。有里ちゃん達が東京に遊びに来たら連れてってあげるよ、と幸博が言う。えー、絶対ですよ。うん、約束する、僕も行ってみたいし。
ちょっと疲れたね。そうですね、ということで、二人はカフェに入った。フルーツパフェを頼む。んー、美味しい!
カフェを出てから、美観地区をゆっくりと二人で散歩する。途中、公開されている旧家に入ってみたり存分に観光を楽しんだ。地元だと意外に来ないからね、中学二年生の時以来だから三年ぶりだわ、有里は思う。その時よりずっと楽しい。
「今日は、本当に楽しかったです。ありがとうございました!」
友里は別れ際に幸博に言った。ホント楽しかった。
「あと、全部おごってもらっちゃってすみませんでした」
「こちらこそありがとう、僕の観光に付き合わせてしまって申し訳なかったよ。おごりは、そのお詫び」
幸博は笑って答えた。
菜摘からのメッセージが来ていた。「のっぽ先生とのデートどうだった?」
有里は、少し考えてから「楽しかった」とレスした。菜摘から即レスが入る。
「キスした?」
友里は、頭痛いなと思いながら、「そうゆうのじゃないから」とレスした。
そうゆうのじゃないのよ、ただの観光のお供、と友里は自分に言い聞かせた。三週間後には東京に帰ってしまうのだし、もう二度と会わないかもしれない人なんだし。