桜の樹の下には屍体が埋まってる
「桜の樹の下には屍体が埋まってる」っていう都市伝説を聞いたことあるよね?
この間うちの高校で怪しいことが起きたんだ。
ちょっと聞いてよ。
うちの高校には学校のシンボルになっている巨大な桜の木があるんだ。
近所のお年寄りによれば学校が建つよりも前から生えてるんだって。
春には新入生を迎えて見事に咲き誇るし、夏にはいい日陰になる。
何気に毛虫が多いのが玉に瑕だけどね。
秋には焼き芋大会にぴったりな落ち葉をたくさん落としてくれる。
ついでに一年通してデートスポットでもある。
そんな桜の大木がみんな大好きだ。
もちろん、私--川上小春もね。
ところがね、この間塾帰りに見たもののせいで、桜の木と学校に不信感がつのっちゃったことがあるんだ。
もうとっぷり日が暮れたころでね、自転車で塾から帰ってたんだ。
何となく他の道から帰りたくなって高校の方を周ったんだよね。
そうしたら、静まりかえった敷地の中で桜の木の根元に人が立ってて、大きなシャベル持ってたんだ。
誰かなーってよく見たらさ、私のクラスメートでもある松谷生徒会長だったんだ!
私、両目とも2.0だから信頼できるでしょ?
その時びっくりしてね、自転車にソーっとブレーキ掛けてお終いまで見てみようと思ったんだ。
しばらく松谷は突っ立ってたんだけど、ふいに桜の木の根元を掘り始めたんだよ!
しかも、足元には白く光って見える物が入った袋まであったんだ。
何だかその瞬間、授業の延長で今日読んだ梶・・・・・・なんとか次郎さんの「桜の樹の下には」を思い出したんだ。
-桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。
何故って桜があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。-
ついでに「I was born」の「少年の思いは飛躍しやすい」も思い出したけどそんなことはどうでもいい。
暗闇の中で桜の木の根元を掘っている松谷、昼間読んだ文章、まことしやかに流れている都市伝説、春に美しく壮大に咲き誇っていた桜の大木、それに今一瞬見えた白い棒。
これらが私の頭の中で組み合わさってひどく恐ろしいものを形成していったんだ。
もしかして、あの桜があんなに綺麗に咲いていたのは、本当に死体が埋まっているからなんじゃないのかって考えに行きつくのに数秒もかからなかったんだ。
私は危うく出そうになった悲鳴をぐっと飲みこんで、自転車に飛び乗るとまっすぐ家に帰ったんだ。
それからしばらくガクブル状態。
まさかって思うとすごく怖くてその日はうまく眠れなかったんだ。
翌日、自分も桜の木の下に行ってみたんだ。
少しだけ掘り起こされたような跡があったから―きっと怖いもの見たさってやつだろう-掘り返してみたんだ。
そしたらね、袋に入った白い棒、いや・・・・・・骨が出てきたんだよ!何本も何本も。
あわてて戻したけどこの重大な秘密をどうしたらいいかわからなくてしばらく立ちすくむしかなかったんだ。
結構悩んだけど、本人に直接訊いてみるのが一番手っ取り早いと思って、昼休みにこっそり問いただすことにしたんだよ。
するとね、松谷は一瞬豆鉄砲を食った鳩みたいな表情になったけどすぐ真面目な表情になって、放課後に第一化学室まで来てくれ、って言ったんだよね。
怪しいやつに従っていいのか迷ったけど、指示通りに放課後行ってみたんだ。
そしたらね、白衣を着た松谷がいて、しかも液体の入ったビーカーが大量に並んで置いてあったんだ。
一体なにしてるの、って訊く前に、ラーメン研究会へようこそ、って少し照れた表情で松谷が言ったんだ。
今度は私が豆鉄砲食らった鳩みたいな顔になる番だったのさ。
聞けば、ラーメンが好きで極めたいけど家でやるわけにいかないしどうしよう、と考えた時に普段使われていない第一化学室を使うことを閃いたんだって。
材料は自分で買ってきて、親や先生には生徒会の作業の一環だということにして夜な夜なここでスープの研究をしていたらしい。
そして、数日前。
おいしい豚骨ラーメンが食べたくなって挑戦したものの、ことごとく失敗したあげく使えなくなった豚骨の処理に困ったそうだ。
それで桜の木の下に埋めて隠そうとしたわけね、と私が言うと松谷は頷いたんだ。
謎が解けたから帰ろうと思ったら、ところでさ、って松谷が言ってね、見ただけであれが豚骨だってわかった川上さんもすごいよ?一緒にラーメン極めない?今なら副会長だよ!っていきなり勧誘し始めたんだ。
一つため息をついた私はこう言ってやったんだ。
残念、私は中華よりイタリアン派だから無理、ってね。
あいつなら白い灰になってたよ。
ま、放置して帰ったけどね。
桜の木の下に埋まってた死体の正体はわかったし。
んー。こんな話したら久々に豚骨ラーメン食べたくなっちゃった。
帰りにラーメン屋に寄ってかない?