もう1人の僕 〜身に覚えのない呪い?〜
僕はいつも一人だった…。
そう。
でもね?嫌じゃなかった。かえってリラックスしているくらいだ。
けど、そんな僕をみてる子達は面白くなさそうだ。
いろんなちょっかいをかけてくる。
でね?僕もだんだんと煩わしくなって来たから言ってやったんだ。
「僕にかまうとロクなことないよ?やめといたら?」
そんな言葉ぐらいで怯む子たちもいたが、中にはそうならない子もいる。
そう、今僕の目の前にいる子がその一人だ。
僕の顔を見てサッと視線をそらす。
苛立った僕はキッと睨んだ。
その子はさっと視線をそらすが、そのわずかな一瞬に目があった気がした。
その一瞬にボソッと何か言った気がする。
その子は怯んで怯えた。
僕は一体何をした?
ただ睨んで……何か言ったよね。
それがなんだったのか覚えていないのだ。なんで?自分で言ったことなのになぜ覚えていないのかわからない。ただ恐怖に固まった瞳を見たのだけは覚えている。
翌日その子は学校に来なかった。
次の日も、また次の日も来ない。
学校から連絡は入っているはず。って言うか、病気なのか?と皆首を傾げている。
確かに前日までは元気そのものだったのだ。それが急に何日も休むなんて…あり得ない。
はじめは風邪かインフルエンザかと思われたが、先生がそうじゃないと言うので、皆アレコレと詮索していた。
僕はそんなのどうでもいいと何も考えもしなかった。
まさか僕が原因になってるだなんてその時の僕には考えも及ばなかった。
その子は怯えていた。
自宅の自室で。
部屋の鍵はかけている。
だから家族と言えども入って来ることはできない。母親は心配そうにしながらも食事だけは運んでいた。
「食べてね〜。」
それだけ言うが部屋からはなんの返事もない。
父親も困り果てていた。
昨日までは元気が良く、学校での問題もないと聞いていたのに、この変わりよう。
何があったんだ?
その子はベットの上で怯えていた。
布団を頭からかぶったままガタガタと震えている。
目の前には自分の足しか見えないはず。
なのになんで誰かがいる気配を感じる?
部屋には自分以外誰もいないはずなのに、感じるのだ。
そっと首を振って気配が感じられる方向を向く。
するとそこには誰かの体が見て取れた。
年の格好からして同い年くらいか?
恐怖しかなかった。
でもね、見ないと何も始まらないと思い、怖さと戦いながらも首から上を見ようと顔を上げた。
「キャー!」
「どうしたの?大丈夫?」
母親の声はその子の叫び声でかき消されていた。
母親は焦ってガチャガチャとドアノブを回そうと試みるが、鍵がかかっている為開かない。
その間も叫び声は響く。
こんな時父親がいればいいのだが、あいにくと仕事で出かけていた。
一瞬だがドアを壊してしまおうかと頭をよぎったが、あとのことを考えてためらった。
そうこう考えているうちに叫び声は聞こえなくなり、静かになっていた。
部屋の中で一体何があったのか?
子供は大丈夫か?
アレコレと考えてもどうしようもならない。
ただ出てくるのを待つしかない。
部屋の中ではその子が目の前にあるものの姿を見ていた。それは首から上が無かった。
そう、だから誰なのかわからない。
体は透けていた。
幽霊なのか?
それとも生き霊?
それだけを考える余裕が出て来たのは叫んでから随分経ってからだ。
顔がわからないから首から下だけを見るようにしたが、どうしても首から上が気になってしまう。
震えながらも何度も見た。でよやはり首から上がない。
「怖いよ〜。グスッ。」
半分泣きだしそうになっているが、何度も目をパチパチしてグッと堪える。
泣くな!
泣かないぞ!
何度も自分にそう言い聞かせ、気持ちを奮い立たせた。
よく見ると体は透けて見える。
じゃあ?この人は死んでる人?
違うのかなぁ〜。
生き霊でも透けるのかなぁ〜?
ただ立っているだけなら何とかやり過ごせるかもと思ったが、やはり怖いと思ってしまう。それはそうだ。首がないんだから。
ユックリ、ユックリとベットから降りて部屋のドアのそばまで壁伝いに張って行く。その霊も向きを変え近づこうとしているようだ。
怖い。
正直逃げたかった。あと少し、あと少しでドアノブにふれられる。指先の感覚だけでドアノブをつかんだ。そして鍵を開けサッと外に出る。そこに母親が立っていたのでサッと体の後ろに隠れる。
「どうしたの?
何かあったの?
大丈夫?」
母親の声が遠くで聞こえた気がした。
その子はその場で意識を無くした。
そのあとはもう覚えていない。
ただ自分の部屋が怖いと思うようになったのは確かだ。病院から帰った時、その子は母親に聞いたそうだ。
「私の部屋に誰かいなかった?」って。
「誰もいなかったわよ。何?誰か呼んでたの?」
「そんなわけない。でも誰かいたんだもん。首から上がなかったし。だから誰かわかんないもん。」そう言って泣き出した。
母親はその子の必死さを感じて嘘を言っているわけではないと思ったそうで、その日の夜、子供の代わりに子供部屋で眠ることにした。確かめようとしたのだ。
深夜になった頃、胸が苦しくなって目が覚めた。体はなぜか動かない。
額に汗が流れる。
怖いと思った。
この部屋には確かに何かいる。
何が?
そう思った時、視界の中に何かが入り込んでいるのを感じた。子供か?
目だけを動かすと確かに誰かいる。
首が動けば分かるのに…。何とか動かないかとあれこれ考えていると視界の中の何かが動いた。
それが何なのかわかった時、悲鳴をあげた。
そう、子供が言っていた首から上がない体がベットのすぐ横に立っていたのだ。
怖くなってこう念じた。
私は子供じゃない。
私は大人だ。
子供はこの部屋にはいない。
助けて!
すると体が軽くなり、横にいたはずの子供の霊が消えていた。
母親はすぐに起き上がると子供の寝ている部屋へと走っていった。
そして子供を起こすとこう言った。
「あなた学校で何かあった?」
言われた子供は全く心当たりがないと…言おうと思ったが、一つだけ心当たりがあると言った。
そう、僕との事だ。
そのことを話して聞かせると母親はこう言った。
「その子には近づいちゃダメ!」
「うん、分かった。」
それから必要なものだけを部屋から運び出すとその部屋は鍵を掛けて開かないようにした。
それ以降彼とは顔を合わせることもなく、霊の姿も見えなくなっていた。
あれは彼の生き霊だったのか?
分からない。
ただ、皆と同じようにしていたら出なくなった。
だとするときっとそうだったのだろう。