虐げる(しいたげる)THETA Abused by Them
「あ!」
無言男、霊岩寺 禅龍の次に無口なオールバック男、不死川 純次が急に声をあげた。
「どうした、ジュン!お前が喋るなんて珍しいじゃないか!このあと、雨でも降ったらお前のせいだからな!」
何とも酷いことをいうチャラ男を無視し、純次は続けた。
「あそこ、何か見える」
「え、どこどこ!?」
チャラ男、榮二は純次が指差す方向を見た。
リーダー格の隻眼男をはじめ、残りのメンバーもその方角を覗く。
そこには、ーー
赤 い ワ ンピー ス を着 た 小さ く て可 愛ら しい少 女 が立 って いた。
後田盛はジェットコースターのレールの下にいるその少女を見て、過去のある一時点に記憶が飛んだ。
忘れ去ったはずのあの記憶。消し去ったはずの思い出。
絶対に思い出したくなかった記憶。蘇ってしまった思い出。
後田盛はレナという少女を愛していた。
左目を、右腕を、失うより随分と前のこと…
40年も前のこと、後田盛は1学年上のレナに片想いをしていた。
校内水泳大会で彼女の泳ぎに見惚れてしまったように後田盛は記憶していた。
しかし、それは禁断の恋だった。
しばらくすると、学校内でも人気な彼女に彼氏が出来た。彼女の1つ上の学年の狭霧 椎名という人だ。
その時の彼女はこの上ない幸せを感じていたようだが、彼女を取り巻く周りの人たちは皆、彼女の彼氏のことを疎ましく思っていた。
彼氏の方は、そんな人々に恨まれ憎まれ、ある時にはとんでもない怪我を負わされることもあった。
それでも彼は彼女を愛し続けた。
ついに訪れた狭霧の卒業式。彼女も彼も盛大に泣いていた。
狭霧は「また、1年もすれば逢えるよ」と言って慰めていた。
そして、後田盛に「それまで彼女の面倒を見てやってくれ」と言った。
後田盛は狭霧の言う通りにした。
しかし、彼女は新学期が始まっても泣き続けた。
後田盛には彼女がなぜ泣くのかがわからなかった。
1年後にまた狭霧に逢えるのに。そして、それまでは自分がいるのに。
後田盛は我慢がならなかった。
ついに彼は彼女の寝込みを襲った。
そして、
首 を 絞 め殺し てしま った……
狭霧に新しい彼女が出来ていたと知ったのはその直後だった。
そして、後田盛は狭霧と同様、レナの取り巻きに襲われ、顔面に、左目に傷を負ったのだった。
後田盛はレナにそっくりな少女を見て、再び殺意が芽生えた。
辛うじて目が見える右眼で煮えたぎる憎しみの刃を少女に向けた。
少女はそれに気付いたのか、踵を返して逃げた。
隻眼男たちは少女の跡を追った。
しかし、少女が逃げた先が深い森の中だったので、ある程度中に入った後、これ以上は道に迷ってしまうと判断して引き返した。
「あれ?」
「どうしたんですか、シーさん?」
「ショーがいない…」
ビビりの夜桜 清真の姿が消えていた。