卒業
3月の初旬。冬の空気の中で冷え切るはずの体育館も、この日は違った。普段着慣れた制服を身にまとった生徒たちが一斉に合唱をする。声が震えているように聞こえるのは、きっと寒さのせいじゃない。
数えきれないほどの座椅子に座る生徒、先生、保護者。そう。卒業式だ。
卒業式が終わり、各々がそれぞれの思いを胸に教室に帰る。黒板には、「ありがとう」とか「一生の思い出」とか、思い思いのメッセージが書かれている。別れを惜しんでいるのか、少し先の未来に胸を膨らませているのか。教室はいつも以上に賑やかで、華々しかった。
担任の先生が教壇に立ち、一人ひとりに卒業証書を手渡していく。手元の卒業証書の枚数が減るにつれて、担任の先生の目に涙が浮かぶ。
全ての卒業証書を渡し終わると、先生は最後の言葉を述べる。「君たちならきっと大丈夫。」
「ここで経験したことは、一生の宝物になる。」とか、そんなことを言っていた。
何をありふれたことを。普段ならそう言って一笑に付すような、そんなありふれた言葉でも、みんな涙した。言葉は中身だけじゃないんだなと思う瞬間だった。
先生の言葉もすべて終わり、生徒の代表が花束を渡す。事前にみんなで用意していたものだ。先生は涙をこらえることができなかったのか、頬に一筋、涙が流れた。
行事はすべて終わり、解散となる。それぞれが、それぞれの最後の別れの言葉を掛け合う。「絶対忘れない」とか、「大学に行っても、また会おうね」とかそんな言葉だ。
僕は、そっと教室を後にする。廊下でもみんな別れを惜しんでいる。写真をとっている者もいた。みんな、玄関に向かっていた。僕はこっそり屋上に向かった。
屋上のカギはいつも開いていた。周りをフェンスで囲ってあるから大丈夫だろうという考えからなのか、施錠されているのを見たことがない。僕は屋上の扉を開ける。
屋上の扉を開けると、青い空が目に入った。晴れ渡ったその青空はまるで僕らの未来を暗示しているかのようであり、卒業式にはうってつけの日だ。僕はフェンスに向かって歩くと、そっと下を見る。制服に身をまとった生徒たちが、ゆっくりと、何度も立ち止まりながら校門に向かって歩いていた。
今まで何度も通っていた校門。今日、その校門を通り過ぎると僕たちは大人に一歩近づく。今まで学んできたこと、経験してきたことを胸にこれからの人生を歩んでいく。
充実した青春だった生徒もいるだろう。散々だった青春だった生徒もいるだろう。何もない退屈な青春だった生徒もいるだろう。
けど、それは長い人生の一瞬のことで、けどその経験がものすごく大事なことだったりする。
僕は校舎を離れ行く生徒たちを見て、ふと笑みが浮かぶ。僕もあの生徒たちの一人なんだよなあと思うと、なんだか可笑しかった。
まさか、本当に卒業する日が来るなんてなあ。夢にも思わなかっただろ。僕は3年前の自分に問いかける。本当だよ。3年前の僕はそう答えるだろう。
ねえ、高校生活どうだった?後悔しませんでしたか?充実してましたか?僕は3年前新品の制服を着て校門の前に立った自分の問いを思い出す。
さあ。まだ分からない。もしかしたら、後悔する日が来るかもしれない。あれをやっておけばよかった、これをやっておけばよかったって後悔するかもしれない。
けど――僕は青い空の下広がる街並みに目を細めた。
楽しかったと思うよ。だから、大丈夫。楽しめよ。
僕は屋上を後にした。
こんにちは。大藪鴻大です。時季外れですが卒業式の話です。
卒業式、実は私自身涙したことがありません。ただ、いつも数か月後とか数年後に、「ああ、そういうことだったか」と涙しそうになることがしばしばあります。今だにそういうことがあったりしますし(笑)。
今回、卒業式の切なさを書いてみたくて書いてみたのですが、この物語の主人公はどんな青春を送ったと思いますか?なんとなく「こんなキャラクター」と思いながら書いて、それがなんとなく分かるように書いてみたのですが、上手く伝わったでしょうか?今回の物語は物語の中でその人物のキャラクターを示す練習で書いた物語だったりもします。
それでは、またどこかでお会いしましょう。バイバイ。