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静まり返った我が家の玄関で、俺はふと家の中へ振り返り、思い出に耽っていた――――
――――我がセイダース家は、昔から国の守り神の様に崇められていた家系なのだが、その暮らしはそれほど裕福ではなく、貴族としては恥ずかしいくらいに普通の階級並みの生活を営んでいた。
父は、このオーリー・ヴァン・メルンを代表する、守護五天と呼ばれるこの国最強の剣士だ。
その強さは一騎当千と称えられ、数々の武勇を飾ってきた。
家のリビングには、父に与えられた恩賞や勲章、功績を称える数々の品が飾られている。
そして、地下の倉庫には、我が家の祖先全ての同質の品が所狭しと詰め込まれていた。
そして、俺も父が退官した後に、次の守護五天になるべく、剣の腕を磨いていた。
今はまだ、父は退官していないのだが。
俺が初めて刃物を扱ったのは、2才の時だったらしい。
当然、物心などはまだ付いていない。
だが、俺は希に見る程の好奇心旺盛な赤子だったらしく、色々な事に興味を持ち、両親のやることを見てすぐに学んでしまう子だった。
そんな俺にとっては納戸の支え棒等を外したり、窓のネジ締鍵や戸棚の煽り止め、門の閂程度の鍵は、親の真似をして開けてしまう事も多々あった。
そうしたある日、俺は親の目を盗み、勝手に台所の調理器具をしまう戸棚の煽り止めを外し、戸を開け、ナイフを持って、家の柱に切りつけていたそうだ。
それが、俺が始めて刃物を扱った時だった。
それからと言うもの、ナイフを壁に刺すと手を離してもナイフが落ちない事が不思議だったのか、母に止められ、叱られても、ナイフで遊ぶ事が止められなかったらしい。
ある時、母が気付いていつものように俺に刃物を扱うのを止めさせるのだが、そこへ父がやって来て、『将来は俺以上の剣士になるかもしれん』などと称賛したという話を、後に母から聞いた。
物心つく頃には父の短剣を持って、野菜等がスパッと切れるのが楽しくて、母親の料理の切りものを手伝ったりもしたものだ。
そうして俺が父の短剣を度々持ち出す様になると、父はその短剣を俺が気に入っているのだと思い、五歳の誕生日にその短剣を譲り受けた。
それは、束に金の装飾を施され、赤い宝石の着いた一級品だった。
それからと言うもの、俺はさらに剣の虜になった。
近所の子供と遊ぶときも、基本的には決闘ゴッコや討伐ゴッコだった。
さすがに人を本当に切るわけにはいかないので、使うのは道端に落ちていた木の枝だった。
短剣よりも軽い木の枝は、俺にはオモチャにしか思えず、子供達を滅多うちにして、泣かせてしまった事もあった。
時にはやり過ぎて大怪我を負わせてしまい、母と共に謝りに行った事もあった。
それから少し育って、周りの子供達が各々で学問を学ぶようになっても、俺は最低限の教育しか受けようとせず、近くの森に出ては沢山の木を相手に剣舞を踊っていた。
そして、8歳になる頃だった。
初めて街の外に出て、モンスターを相手に戦ったのは。
初めて見る獰猛な生き物に、武者震いしながらも、俺は父についていって、ウリボンを一匹仕留めたのだ。
それからは、親の目を盗んで度々街の外に出るようになり、モンスターを一匹倒しては換金して家に帰っていた。
もちろん、親が居ないのに街の外に出たとなると、色々とめんどくさい事になるから、モンスターを倒すために外に出ている事は誰にも秘密だった。
そんな日々を過ごしていくうちに、とうとう俺は自分に念力を込める術を見出だす。
そして、一度の外出でそれまでは一匹狩って帰っていたのが、その頃からは複数の獲物を仕留めて帰る様になった。
そうしてモンスターを倒す数は日に日に増えていき、若くしてモンスターのパーツで稼ぐようになった俺は、街の外で何度かモンスターに襲われている人を助けたりした事がいつの間にか周囲の噂になっていた。
父も、そこまで息子が実力をつけていた事に驚き、より剣術を高める事を期待して、俺が街の外に出るのを止めたりはしなかった。
その期待に応えるべく、俺は、モンスターと戦う時にも自分の剣術を磨いた。
念術の力の入れ所や入れ方などを研究し、アンクルホーンの図太い首も一刀で切り落とす技を手に入れる。
さらに、スペリカという円錐形の嘴を持つ鳥型モンスターの、空からの滑空をかわし、素早い動きを的確に切る技も体に覚えさせていった。
そうして、10歳になったばかりの頃、両親に見送られて初めての一人旅に出掛けた。
最初は一泊だけの小旅行。
それもやがては二泊になり、三泊になり、何泊も野宿で過ごす様になる。
やがて、旅人の様に長い旅に出るようになった。
しかし、一度に二・三ヶ月程旅をするようになって、さすがの両親も心配が勝るようになり、前回の旅を最後に、俺に1年間の勉強期間を置くよう言い付け、半ば軟禁気味に外出を制限されたのだった。
それから三ヶ月が過ぎ、家に居ることにも飽きた俺は、こうしてコッソリと旅に出ようとしていた。
家の玄関をそっと開け、スルリと潜ってそっと扉を閉める。
ノブを握る手をゆっくり戻した所で、ふうと一息ついた。
その時。
「お出掛けですか?」
突然背後から声をかけられた!
「っ!?」
俺は驚いて後ろを振り向く!
そこには、俺のよく知る人物が立っていた。