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集合場所を俺の泊まる宿の前にして、皆が快く聞き入れてくれたおかげで、あの三人組の誰よりも、俺が一番ゆっくりさせてもらったに違いない。
今は凡そ三時五十分。
待ち合わせ時間は四時だから、もうそろそろ皆が来てもおかしくはない。
ゆっくりさせてもらった分、今日は俺が一番動かなきゃならない。
そう思いながら、左手の平を見つめてグッと握る。
そこへ。
「やっほー!」「おう、待たせたか?」と、男女一人ずつの声が俺に向けられた。
「いや、俺も今出てきた所だ」
俺は二人にそう返すと、一人ずつ顔を見る。
リリーとマリウスだ。
昨日、夜の九時過ぎまで酒を飲んでいたのに、二人は明るい笑顔をこちらに向けていた。
そして、二人が俺の傍まで来た時、二人とは別の道の、遠くの方から最後の一人の姿が見えた。
しばらくして、最後の一人が俺達の所まで辿り着くと。
「おっ?もうみんな集まってたのか」
「おせーよ、ゴッツ!」
ゴツい体躯で日に焼けた腕を肩まで露出した、ゴリラの様な男がようやく到着した。
マリウスやリリーは、軽装ではあるが肩当てや胸当て等の軽鎧を着込んでいるのに対し、ゴッツは具足以外は衣類しか身に付けていない。
「遅くねーよ!まだ四時まで五分以上あるだろ!」
「アホ!集合時間は十分前に集まるのが常識だ!お前は二・三分遅刻したも同然なんだよ!」
先のマリウスの返しに反抗したゴッツをマリウスが畳み掛ける。
「はいはい!そんなのは良いから!……それより、ゴッツはそんな軽装で良いの?相手はフランドゲイルだよ?」
だが、それを意に介さないリリーが二人をたしなめ、ゴッツの身なりを心配する。
「フランドゲイルに噛みつかれたらゴッソリ肉を持ってかれるぞ?」
マリウスもそう言って、本当は友の軽装をリリーと同じ様に心配していたのだ。
「ああ!俺にはこの鍛え抜かれた鋼鉄の肉体がある!ガードの無い所にヤツが噛みついて来たら、ヤツの歯が折れる方を心配しろよ!」
そう言って左の上腕二頭筋を右手で掴んでガッツポーズを見せた。
「そんな事言って、あんた防具まで売ってカジノに費やしたとかっていうオチじゃないの?」
「……い、いや、そんな事しねーよ!」
「こりゃ図星だな」
「だからちげーって!」
三人のやり取りが少し面白くて思わず微笑みが零れてしまう。
「おい、セグ!違うからな?」
「あはは!セグに笑われてるし!あんた冒険者じゃなくてお笑いやれば?」
慌てて否定するゴッツに追い打ちをかけるリリーのやり取りが、さらに俺の笑いを誘った。
「ハハハ!本当にみんな朝から元気だな」
「ハハ!何せこれからフランドゲイルの討伐に向かうんだ。思い詰めたら動きが鈍るから、たとえ恐怖があっても笑い飛ばさなきゃな!」
「……なるほどな。確かに」
マリウスの話に納得する。
この三人は、フランドゲイルの脅威を身近で感じてきた町の住人だ。
外から来た俺なんかより、頻繁に被害を耳にして来たであろうこの三人は、内心では恐怖心が勝っていても可笑しくはないのだ。
そんな三人が、こうして勇気を振り絞って討伐に参加してくれてる。
それだけでも、普通の人から見れば大したものだ。
「そろそろ行こうか!」
俺は、皆が明るく振る舞う空気を壊さないように、明るく力強く声をかける。
「「「オォーーッ!」」」
未明のタラックの街角で、人知れず命を懸ける者達の、己を鼓舞する掛け声が響いた。
宿の宿泊客からしたら、朝っぱらから騒々しいと不快感を抱きそうだが、窓から顔を出して文句を言ってくる人も居ない様なので、直接詫びることも叶わず、俺達は心の中で騒いだ事を詫びながら歩き始める。
こんな時間まで飲んだくれた酔っぱらいが、ヨタヨタと歩く横を通り過ぎ、幾つかの板戸が閉められた店の前を過ぎて、タラックの簡素な石造りの門に差し掛かった。
「……出発だ」
「ああ」「よし」「行こう」
俺の再びの声に三人が続く。
そうして俺達は、地平線をうっすらと白みかかる空の下を、タラックを後にして南東へと歩き出したのだった。




