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お家作りは彼の趣味

慶志朗が目を覚ましたのは、昼休も終わり五時限目の半ばが過ぎた頃だ。

「ぶにゅ?ここは……医務室?ああ、そうか……試合でふっ飛ばされたんだっけ……」

 ベッドに横たわったまま、慶志朗はぼんやりとした頭で思い出す。医務室は無人で、慶志朗だけが寝かされていた。ふと横をみると、金属製のワゴンの様な物に彼の制服とその上に黒ブチ眼鏡が置いてあるのが眼に入る。

「眼鏡……外れてたのか……道理で」

 どうも、目覚めてから違和感が有ると思った。手を伸ばして眼鏡を取ろうとするが、

「あーあ……やっぱり壊れてる」

 レンズにヒビが入り、右側のツルもへし折れて中身がはみ出ており使用できそうにない。慶志朗は溜息を吐き、眼鏡を諦めてその下の制服を取る。ポケットに手を突っ込み、

「フフフフフフ……そう簡単に僕のトレードマークを奪えると思うなよ!」

 ジャジャーン、と自分で言いながら取り出したのは予備の眼鏡だ。壊れた物と全く同じデザインのダサい黒ブチだ。それを掛けようやく人心地が付く。他人に何と言われようが、この眼鏡を掛けているのが一番落ち着くのだ。

 取り敢えずベッドから起き上がり、折角制服が有るのだから着替える事にした。着替えている最中に戻ってきた医務室の教師に、礼を言って慶志朗は教室に戻る。

 戻る途中に五時限目終了のチャイムが鳴る。今日は授業始めなので五時限で終了だった。

「ありゃぁ。授業初日から一時間サボっちゃったのか」

 仕方なく帰りのHRだけでも出るべく教室に入る。すると、クラスメート達が一斉に驚いた様に慶志朗の顔に注目する。

「馬鹿な!あの眼鏡は何で治っているんだ?」

「ま、まさか……あれは、何か特殊な形状記憶技術で作られているのかしら!」

「え、眼鏡なの食いつく所は?」

 脳震盪を起こし気絶していた割には平気な様子で戻ってきた事に、全く触れないクラスメート達に慶志朗は呆れる。

(まぁ、関心を持たれただけマシか)

 何せ《無能》と言う事で無視されていたのだ。眼鏡に気が付いただけでも良しとするべきだろうと考え、自分の席に戻ろうとした時、

「じぃーーーーっ」

「……んん?」

 何やら自分を凝視する視線に気が付きそちらに顔を向ける。理瀞が何故か自分の顔を探る様な眼で見ていた。離れた所で佐川も何故か凝視していたが。

「……まさか、眼鏡を掛けて戻って来るとは想定外でした。あのヘタレさんの素顔をしっかり確認するチャンスだと思っていましたのに」

「……ヘタレって……僕の事?というかヘタレにさん付けられても……」

 彼女達に運ばれた事を知らない慶志朗は、二人が何故自分の事を見ているのか解らなかった。ただ、『ヘタレ』と言うのがどうやら自分を指しているらしい事は悟った。

(『空気君』の次は『ヘタレ』か……どんどん扱いが酷くなってくるなぁ)

 自分が周囲にヘタレとして認知されたらしい事に、肩を落として落ち込んでいると、

「チッ、生きてやがったのかよヘタレ野郎。あの時止めさしておけば良かったぜ」

 横合いから、敵意に満ちた言葉を掛けられ、慶志朗は恐る恐るそちらを向く。《能力》訓練の時に試合をした東奥が、怒りに満ちた顔で睨んでいた。

「ったくよぉ……ナメた真似しやがって。要らねえ恥かいたじゃねえか、ああん?」

「ええええええっと……?何の事だろう?というか君はB組でしょ?何でここにいるの?」

 攻撃を受けて吹き飛ばされた直後から記憶の無い慶志朗には、東奥が何を怒っているのかさっぱり解らない。だが、東奥は彼がとぼけていると受け取ったのか、

「馴れ馴れしく君とか言うんじゃねえ!たかがマグレのすっぽ抜けでいい気になりやがって……何なら今からもう一度ブッ殺してやろうか?」

 慶志朗の胸ぐらを掴み、歯を剥きだす様にして睨めつける。《超人》の凄まじい怪力で掴まれ慶志朗はなすすべも無く締め上げられる。と、

「止めなよ、みっともない」

 東奥を止めたのは、慶志朗の後の席で黙って座っていた翼だった。

「んだよ翼。テメエには関係ねえだろうが!」

 ジロリと翼を睨み東奥が言うが、

「しかし、同じ《超人》としては《無能》者相手に凄むなんて、恥ずかしいから止めてもらい所だよ。そんなに戦いたいなら僕が相手をしようか?」

 古賀の険呑な視線を平然と受け止め、淡々とした口調で翼が言うと、古賀は慶志朗を突き飛ばす様に離すと、今度は翼の方に近付く。

「ンだぁ?何でテメエがこのヘタレの肩を持つんだ!」

「違うよ。《超人》の癖に《無能》者を脅す様な見苦しい真似が嫌いなだけさ」

 翼の言葉に、東奥の顔が見る間に赤くなっていく。

「大体、全ては君の油断が招いた結果だろう?恥じるなら自分の傲慢さを恥じるべきだよ」

「テメエ……調子に乗ってんじゃねえぞ!何ならここで決着付けてやろうか?」

 ギッと翼を睨み、東奥は拳を振り上げる。その拳の周囲に陽炎の様な物が生まれ、《能力》を持たない慶志朗にも彼が《能力》を使おうとしている事が解る。

「うひぃ!こ、こんな所でそんなもん使う気?」

 慶志朗は慌てて頭を抱えて机の下逃げるが、翼は椅子に座ったまま、

「本気でやるつもりかい?許可も無しに教室内で《能力》を使えば、退学だよ?」

 楽しむ様な顔で翼が言うと、東奥も動きを止める。慶志朗がガタガタ震えながら事の成り行きを見守っていると、東奥は舌打ちを一つして拳を納める。

「チッ!良い子の翼君は先生の眼が怖えぇってか?」

 馬鹿にした様に吐き捨てると翼に背を向ける。が、顔だけ翼の方に向け、

「学園一位とか煽てられて調子に乗りやがって。テメエが何時までも頂点に居られると思ってんじゃねーよ。いずれ俺がテメエの上に立つんだからよ」

「どっちが上かなんて興味ないね。大体、僕は学年の一位であっても学園の一位じゃないさ」

 何の気負いも無く翼が答えると、もう一度舌打ちして今度は慶志朗の方を睨みつける。

「テメエもだヘタレ野郎。次に俺とやり合う事になったら……消炭にしてやる」

 凄みのある声で言うと、慶志朗にはもう見向きもせず自分のクラスに戻って行った。

「ううっ……一体、何で僕があんなおっかない人に睨まれるんだ……?」

 結局、誰もあの試合で何が起きたのかを教えなかったので、慶志朗は自分が東奥の標的にされた理由が解らずに机の下で震え続けていた。


「はぁ~~~~。全く、心臓に悪い一日だったなぁ」

 ギスギスした雰囲気の中HRも終わり、慶志朗は徒歩数分の彼専用の個室……というか倒壊寸前のプレハブに戻ると、ため息交じりに呟く。

 翼に助けられた礼を言ったのだが、アッサリと無視された事も気分を重くさせている。

「ううっ……僕、本当にこの学校でやっていけるのかなぁ?」

 ガサゴソと、昨日自宅から持ち出した荷物を漁りながら一人ぼやく。昨日母に諭され、この学校で生活する決意を決めたのだが、たった一日でもう挫けそうになってしまう。

「ええい!でもそう簡単に引かないもんね!見てろよ『超人』!」

 自分を励ます様に言うと、慶志朗は荷物の中から大きな紙を取り出す。それを屋上の床に広げ、同じく荷物の中からやたらと長い定規とペンを取り出した。

「取り敢えず、早急にこの廃墟を住めるようにしないと!」

 そう言うと、慶志朗は広げた紙に何やら書き込み始めた。定規を使い線を引く。そして、昨日の内に測っておいた寸法を書き込んでいく。

「基礎は補強してそのまま使うとして……外面は全交換だよなぁ。床材もこの際一新させるか。水周りは……コンクリ打ち直し……も面倒だなぁ。時間掛りそうだし」

 目の前のプレハブをにらみながら一人呟く。この建物は元々教師の宿直室だったらしく、結構な広さが有り炊事場もトイレも風呂場も付いていた。

「間仕切りもちょっと弄って……1LDKにしちゃおうかな?でもそうすると問題は材料だよね。余りお金ないし……何処からか廃材貰うにしても、どうやって持ち込もうかな。余り大がかりにやると時間掛りそうだし……うーん」

 ペンを上唇の上に乗せ、鼻下で挟むようにして咥えつつ考えていると、

「何をしているのですか」

「ん?図面引いているんだ。最初は補強だけで済まそうと思ったんだけどさ……」

 横合いから掛けられた疑問に答えてから、ここには自分以外居ない事を思い出す。慌てて声の方向を見ると、空中に四角い膜が浮かんでいた。

「うわびっくりした!きゅ、急に現れないでよクレメンテ……さん!」

「それは失礼しました。それで……それは何の図面ですか?」

 膜の中のクレメンテが不思議そうな顔で慶志朗の手元の図面を覗きこんで来る。

「このボロ屋の修復図面さ。これから三年はここに住まなきゃ駄目見たいだから、補強する位ならいっそ徹底的に改修した方が早そうなんだよね」

「はあ……それでワザワザ図面から作るのですが?随分本格的ですね」

「そうでもないよ?元の骨組はそのまま使うから測量しなくていいし。外装と内装の大まかな寸法を出して必要な材料を必要な長さに切る為の図面だよ。メモみたいな物さ」

 何となく気恥しく、さり気無くクレメンテの視線から図面を隠しつつ慶志朗が言う。この図面は本格的なリフォーム図面では無いので、結構適当に書いてある。

 骨組みに合わせて材料を切りだし部品の形で運び込んで組み立てれば、この程度の建物を改修するのは結構簡単なのだ。だが、その為にはある程度どういう部品を使うかを形にせねばならず、図面に起こしておけば作業がもっと楽になる。日曜大工が得意な彼らしい発想だ。

「まぁ簡単な作業だし、材料さえ加工できれば二、三日で組み立てられるんだけれど……何処で加工するかだよなぁ。一からやるとなるとやっぱり半月以上掛りそうなんだよねえ」

 その間はこの屋上で野晒しになる、と慶志朗がため息交じりに考えていると、

「それでしたらお手伝いしましょう」

「え?いいの?というか……出来るの?」

 宙に浮かぶ被膜の中のクレメンテを思わずジロジロと見てしまう。磯谷の説明によれば彼女は意識だけの存在――《精霊》で、人間の様な肉体をもたない存在だと言う。

「はい。帆村慶志朗さんの行動は高等科施設の修繕に該当します。言わば、私の『身体』の一部をメンテナンスしていただけるのですから、お手伝いするのは当然です」

「いや、肉体が無いのにどうやって……まぁ、いいや。そうか、君にとってはこの敷地内の建物は全部身体みたいなものなんだね」

「はい。高等科の敷地内は土地から建物、全てが私の管轄です。そういう意味で言えば、高等科全てが私の『身体』に相当します」

 クレメンテはそう言うと、慶志朗に図面を持ってついてくる様に言うと、宙を滑る様に四角い被膜ごと移動を始めた。

 空飛ぶ蝶ならぬ空飛ぶ膜に先導され、辿り着いたのは一般科の教室棟と特別教育室棟の間にある建物だった。

「ここは確か……特殊教室棟だっけ?」

「貴方達、特別教育課の生徒がこちらを利用する機会は少ないですが、主に理化室、音楽室、地理室といった一般教育科向けの施設が入った棟ですね。これから向かうのは工作室です」

 一般教育科は特別育成課と違い授業内容はほぼ一般の学校と同じらしく《能力》訓練の授業が無い代わりに、こう言った別棟を使っての授業が多い、とクレメンテが説明する。

「へえ。同じ《超人》でも《能力》を使わない授業ばっかりなのか。でも、何で?」

「一般教育科の生徒はそれ程強力な《能力》を持っていません。ですから《超人》と言えど人間社会での生活が余儀されなくなります。《超人》とは、異世界人と混血化した『人間』の事。人間社会で生きる以上一般的な知識を学ぶのは当然です」

「そう言えば、生徒手帳にもそんな事が書いてあったねし」

「はい。《超人》の中には、自分達は人間より優れた種族だ、と考える人も存在します。ですが、あくまでベースは人間です。遺伝子的にも、構成物質的にも『人』と《超人》は全く同一です。ただ一点だけ、混血によって生体プラズマとレクト・エレメを反応させる力が強いと言う特性を持っているに過ぎません」

「え?強い?じゃあもしかして、普通の人間も、本当は《能力》が使えるって事?」

「それは不可能です。そもそも、プラズマとレクトを反応させる事は、全ての生物が行っている事です。ですが、それだけでは《能力》を使うまでには至りません」

「ん~。何か良く解らないなぁ」

「そうですね。貴方は《超人》の知識が全く無いのですから、いきなり全てを理解するのは難しいでしょう。この学園で学び続ければ、いずれは理解できるようになるでしょう」

「そうだね……『最初からアレもコレも理解できる程、人間は器用に出来てない』もんね。慌てないで、一つ一つ覚えていくさ」

「素晴らしい言葉ですね。正鵠を射た表現です」

「母さんの受け売りをモジっただけ、なんだけどね」

 そんな話をしている間に目的の工作室に着く。クレメンテに促され中に入ると、一般科教師と数名の生徒が待っていた。


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