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慶志朗奮闘記

タイトル誤字修正

そんなこんなで昼食が済むと、それぞれ自由に散っていた生徒達がバスの止まっている駐車場に集合する。ここからが本当の目的が始まる。その為にゲートの深い場所に位置するステーションまで来ているのだ。その目的とは――遠距離走だった。 

「でも午後からマラソン大会っていうのは変わってるよね。普通午前中やる物じゃないかな?それにワザワザこんなとこに来てまでやらなくてもいいと思うんだけど?」

 慶志朗がブツブツ言うと、隣に居た翼が、軽くストレッチをしながら、

「これは遠距離走だよ慶志朗君。マラソンとは違うよ」

「何か違うの?」

「ゲート内と言う環境を活かした訓練だよ。《能力》を使った妨害もOKだし、ゲート内は次元断層で隔離されているから、本来生物は存在しないんだ。でも、《超人》達が持ち込んだ異世界生物が野生化していてね。稀にコースに現れてジャマしてくる事があるんだ」

 と、軽い口調で言う物だから、最初は軽く聞き流してしまったのだが、よく考えれば聞き捨てならない台詞だった事に気が付く。

「妨害……?異世界生物?」

「当然でしょ?僕達は《超人》なんだし。異世界生物と言っても肉食系は居ないし個体数自体少ないから、遭遇する確率は宝くじに当たる位の確率だよ。出会ったらラッキーだね」

「それなら良いんだけどさ……」

 物騒な台詞に一抹の不安を覚えたのだが、周囲を見渡せば皆リラックスした様子でそれぞれ準備運動などをしていたので、取り敢えず胸をなでおろす。

 正直マラソンと遠距離走の違いが理解出来なかったのだが、取り敢えずこれから出るであろう合図に集中する事にする。

 これから始まるのは中継ステーション付近の道路を使った、四〇キロにも及ぶ山超えの遠距離走だ。正直かなりしんどい行程だが、中学の時に行われたマラソン大会も上位に食い込くらいには走る事に自信はある。問題は妨害に関してだが――その心配は全く要らなかった。

 翼や他の生徒達と共に待ちかまえていると、やがて引率の教師がスタートラインに立ち、安っぽい発火銃を高く掲げる。

 パンッと安っぽい音がして――生徒達が一斉に飛び出す。

「はぁ?なんだそりゃぁ!」

 文字道理、半数近くの生徒は空を飛んでいた。

 慌てて周囲を見渡すと、他の生徒達も自らの《能力》を使い、ある者は《能力》で馬を作り出し、またある者は魔法をブースター代わりに使用し、地面を滑る様に滑空している。

「じゃあ慶志朗君、悪いけれども先に行くよ。頑張ってね」

「最下位になりますと、再走させられますから急いだ方がよろしいですよ」

 二人はそう言うと、翼は背中に光の翼見たいな物を展開させ、理瀞は《黒塵》を蝙蝠の羽の様な形に成形させ、二人共宙に浮かびあがり、あっと言う間に視界から消えてしまった。

「うっわぁきったねーーーーーーーっ!走って無いじゃん!」

と突っ込んだ時には既に遅く、周囲には誰も居なかった。

「ああもう……こうなりゃヤケだ!闘いに臨む僕の前には、大勢の仲間が列を作って待っているんだ!見ていろぉ、絶対完走して、ビリだけは逃れてやるもんね!」

 試合の時と同じく変な事を口走ると、慶志朗は意を決して気が遠くなるほど真直ぐ上に伸びる道を走りだした。

結局、途中で他の生徒の後ろ姿を見る事は一度も無く、代わりにダチョウとラクダとセイウチを五でかけた様な奇妙な生物と道の真ん中で出くわしたりしたが。

 必死に振り切り、四十キロの道程を何とか三時間と少しで走り抜け、指定されたゴール地点に辿り着く。が、息を切らせて辿り着いてみればそこには誰もおらず、道の真ん中に紙切れがポツンと置かれているだけだった。慶志朗が荒い息のままその紙を見ると、

妙に可愛らしい文字で、「遅過ぎて話にならないので、先に他の生徒を学園に送ります。ヘタレ君は後で回収に向かうのでその場に待機している事」なんて事が書かれていた。

余りにもの事に、道の隅っこで体育座りで涙を流す慶志朗だった。しかし、実はそれだけでは住まずに、教師が迎えに来たのはそれからタップリ二時間も後の事で、その間、奇妙な生物にまた襲われないかとビクビクしていた。

  

 その日の夜。慶志朗は渾身の力で鍬を振り降ろし地面に叩き付ける。

「くそぉう……何だよあの馬鹿教師ぃ!可愛い生徒をあんな所に置いて行くなぁ!」

 ガスガスと乱暴に校庭の隅に鍬を振るう。既に結構な広さの地面が掘り起こされていた。

日曜大工と並ぶ慶志朗の趣味は畑仕事だ。クレメンテに頼んでグラウンドの隅を使わせてもらう許可を取りつけていたのだが、昼間の遠距離走での仕打ちが悔しく、今はただ乱暴に地面を掘り返しては埋め、掘り返しては埋めをくりかえしていた。

結果的に二時間も休憩する事が出来たので、体力はとうに回復している。

暫くは無茶苦茶に地面をえぐっていたのだが、次第に鍬を振るう腕が軽やかになって来る。遠距離走の前、午前中の出来事を思い出して来たからだ。

「ウフフフフフフ……翼君が僕の事を友達だってさ!ホント、予想外の事ばっかりだ!」

 生まれて初めて、自分の事を友達と呼んでもらえた事が嬉しく、上機嫌で鍬を振るい、すごい勢いで耕し続ける。この学園に入学した目的の一つが達成されたと言える。だが、

「そう……嬉しいんだけどさ……何だか、翼君と話ししてると調子狂うんだよね……時々妙に色っぽい仕草するしさ……今日だって変な事を言ってからかってくるし」

 掘った場所を埋め戻しながら慶志朗は呟く。翼はどうやら触り魔らしく、無意識の内に体に触れて来る。他意は無いと解っていても、どうしても意識してしまう。自分にそんな趣味が有ったのか、と一瞬疑ってしまう程であった。

「ち、違う!僕にはそう言う趣味は無い……筈だ!全ては翼君のあのノリが悪いんだよ、ペタペタ触って来てさ、軽いセクハラだよね。アレが普通の学生のスキンシップなのかなぁ?」

 友達が全く居ないので比較する事が出来ず、ウーンと悩んでしまう慶志朗だった。


そして――入学から一ヶ月が経過する。

その間、慶志朗は相変わらず試合では一勝も出来ず、捜索や救助の訓練では怪我人や死体役で固定され、もう一度行われた遠距離走では何とか三時間を切ったのだが、やはり置いてきぼりを食らった。そんな事が有る度に、慶志朗は夜間、泣きながら金槌やハンドサンダーを操り、腹いせに様々な機材を作り続け、プレハブハウスは見る間に設備が充実していた。

 そして。慶志朗はたった一ヶ月で、ある記録に手が届きそうになっていた。

「……は?今……何と?」

「だから、このままでは落第だね。入学一ヶ月でリーチを掛けたのは君が初めてだよ」

 放課後、学年主任に呼ばれて職員棟にやって来た慶志朗に告げられたのはソレだった。

「な、なんで?授業をちゃんと受けているのに!」

「一般教育は平均内で問題ないが、《能力》関係が全滅だよ。試合の度に医務室に担ぎ込まれる、捜索訓練は救助者役、遠距離走では測定外のタイム。これでは単位の渡しようがない」

「そ、そんな……」

 余りにもの事に、慶志朗はショックを受ける。確かに《能力》関係では低い評価だとは思っていたが、まさかたった一ヶ月で落第寸前と言われるとは思っていなかった。

「ともかく、このままではいずれ落第確定だよ。思いっきり頑張ってもらわないと」

 と、爽やかな顔で主任に言われ、余りにものショックでフラフラした足取りで慶志朗は屋上にあるプレハブハウスに帰って行った。

「にゅわぁぁぁん!何が落第だよチクショゥ!そもそも《能力》なんて卑怯じゃないか!」

 屋上の自室に戻った慶志朗は木刀を持ちだすと、やけ気味に振りまわし始める。入学式以降《超人》との試合をしなければならない事を知ってから、それまで気が向いた時にしかやらなかった素振りを、毎日二時間はする様になっていた。

 余り役に立つとは思えないが、戦闘で役に立ちそうな技術は彼の場合他に思いつかなかった。だから、それまで真剣に練習をしていなかったのを、何とか《超人》から一勝をもぎ取る為に、かつて無い程真剣に木刀を振るっている。

 全寮制で時間が結構余っている、と言うのもこの時は有効に働いていた。暫くの間、慶志朗はただ闇雲に力一杯木刀を振り回していた。悔し紛れに適当に振っているだけなので、動きは不様で力任せ、軌道は定まらずにただ目茶苦茶な動きだ。

 そんな動きが何時までも続く訳が無く、あっという間に息が上がり、大きく木刀を振った瞬間足元がふらついて不様に屋上の床に転がってしまった。

「ハァハァ……何やってんだ僕……こんなので本当に《超人》に勝てる訳ないじゃん……」

床に転がったまま空を見上げて呟く。こんな事ならもっと真面目に練習しておけばよかったと後悔する。父も剣術を学んでいた、と言う事で真彩から無理矢理木刀を握らされていただけで、彼自身が進んで覚えたいと思った訳では無かった。だから、型を一通り覚えた段階で真面目に練習する事は無くなっていたのが、今となっては悔やまれる。

「ぶにゅぅ……本当に何やってんだ僕は。いじけていたって始まらないじゃないか」

ゴロゴロと床を転がっていた慶志朗は、意を決して木刀を握り締めムクッと起きあがると、真彩に教え込まれた剣術の型をなぞり始めた。

『お前は余計な事を考え過ぎンダヨ。たまには何も考えねえで木刀を振れ。型はみっちり体に覚え込ましてあるからよ。無心で振れば別な物が見えて来るさ』

 木刀を振るう内に、昔、真彩に言われた言葉を思い出す。どれだけ型を覚えてもぎこちない動きになる慶志朗に、真彩が何度かそんな事を言っていた。

「何も考えず……ただ無心にか……」

 木刀を振りながら慶志朗は眼を瞑る。体の力を抜き、心の赴くまま自然な動きで型を繰り返して行く。そして何時しか 脳裏には幼き日に見た剣の練習をする父の姿が浮かんでくる。微かな記憶の中の背中を追いかけ、動きをなぞろうと必死に思い出す。

やがて動きは先程の無茶苦茶な振り方とは違う、滑らかな物になって行く。型を分解し、今の体勢に合った型を取り出して繋げる。足も自然な動きで地面を擦っている。

動きも徐序に大きくなり、慶志朗は屋上全体を移動しながらまるで誰かと戦う様に、目を瞑ったまま木刀を振るう。徐々に動きは一つの流れの様に止まる事無く続いて行く。

(まだだ……まだ父さんの動きには近づいていない……父さんはもっと早く動いていた筈だ!もっと動作が鋭かった筈だ!もっと……もっと!)

 目を瞑ったまま、心の中で呟く。記憶の中の父の背中はとても大きく。剣を振るう動きはとても優雅で。どこまでも追いかけようとするが、とても追い切れない。

 まるで幻を追いかけるように、ただただ父の動きを再現しようと必死で動き続ける。

が、唐突に慶志朗は動きを止め瞑っていた眼を開くと、普段からは想像の出来ない機敏な動作でその場から飛び退く。直後、今まで立っていた場所を、圧倒的な威力を持つ不可視の塊が着弾し、爆発的な衝撃を周囲に撒き散らす。直撃を避けた筈の慶志朗の身体は、衝撃波により吹き飛ばされ、床に転がってしまう。

「あででででっ!にゃ、にゃにごとぉ?」

 突然の出来事に、呂律が回らなくなりつつも何とか床から起き上がる。と、そこで背後に人の気配を感じ、慌てそちらを見ると、

「何だよ……ヘタレのクセに意外といい動きするじゃねえか。まさか避けるとはよ」

 乱暴な口調と共に屋上への階段出入り口から、東奥がニヤニヤと笑いながらやってくる。

「ととととと東奥くん?何でここに……!というか、もしかして今のは《能力》の……?」

「《無能》のクセに無駄な努力してるじゃねえか。折角だ、俺が相手をしてやるよ!」

 東奥は馬鹿にした様な口調で言うと、掌に陽炎の様な大気の塊を生み出し、状況が飲み込めないで茫然としている慶志朗に向けて撃ち出した。


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