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多重世界へ行ってみよう。

三黒須学園で《能力》を使う授業は、何も《超人》同士での試合だけでは無い。他にも様々に《能力》を用いた授業が行われている。

 元々《能力》を使いあらゆる方面で活躍する事を目的としており、また育成課は卒業後に多くの《超人》達が《多重世界超人連盟》に加入し、多世界で活動する事になる。

 その為、二年生までは幅広い内容の授業が組まれており、そのうちの一つに人命救助もある。基礎的な応急手当のレクチャーから、大規模災害時の対策までを教えられる。

 この授業で大活躍したのは、何と慶志朗だった。

「いや、これを活躍っていうのかな?というか、これは別に僕じゃ無くても……」

 妙に湿っぽい、演習場に設けられた瓦礫が山と積まれた床にうつ伏せになりながら、慶志朗がブチブチと文句を言う。

「ぬひょぉ!何か変な虫とか這っているしぃ!シッシッ!く、来るなってば!」

「うるせえ!死体は黙ってすっ転がってろやヘタレ。声で場所が分かっちまうだろうが!」

 遠くから捜索グループの東奥が怒鳴る。今日は災害に巻き込まれた一般人の捜索訓練で、今回も合同だ。この手の授業では誰かが捜索対象となり、セットの中で怪我人や死体の役になるのだが、《無能》の慶志朗は、《超人》にとっては正真正銘の一般人であり、感情移入がしやすい適材だと言う事で、毎回必ず捜索対象にされていた。

「死体じゃ無くて被災者だって……ううっ、工業課の人達凝り過ぎだよ。凄い焦げ臭いしゴムの焼ける嫌な匂いも充満しているし何かその辺にダミーの肉とか変な人形とか見えるし」

 鎮火後の火災現場を模したらしく、所々炭化した資材や、半分溶けたマネキン、焼け爛れた牛か豚らしい動物の死体まで近くに転がっており、周囲に異様な匂いが経ちこめていて、ただ寝ているだけでも気持ち悪くなって来る。

「だから喋るなよヘタレ!捜索訓練にならないだろ!」

 別の捜索グループにまで怒鳴られ、慶志朗はシクシクと泣き、発見されるまでの間溢れ出る涙で、絵描き歌で有名なタヌキみたいな猫の絵を描いていたと言う。


 そして、次元の狭間に建つと言う学園の立地を利用した授業も行われる。授業では、次元とは薄い層が何枚も重なって一つの次元となっており、層の中心部を指して異世界と呼び、層同士が重なり合う接触部分に近い層をゲートと呼んでいる、と教えられた。

 三黒須は地球の次元に隣接する一二の次元の外層に近い場所に立っているそうだ。一二の次元の内、ラビアスと言う世界に近い側の境界線を使い学園外訓練が行われた。

 高等課程で初の異次元地帯授業は、丸一日を使い、遠足に近い物だった。全学年合同なのだが、膨大な生徒数を誇る三黒須学園では一度に全員参加させる事が出来ず、それぞれの学年で五グループに分け、各学年一グループを集め五日かけて合同授業を取る日程だ。

 今日は慶志朗達の割り当てられたグループの日で、他のグループの各クラスは学園に残ったまま通常授業を行っている。

 そして慶志朗は今、初の次元移動を経験している真っ最中である。初めて経験するそれは、慶志朗にとってはとても衝撃的な出来事だった。

「……移動がバスってどうなんだろう?これじゃあ本当に遠足か課外授業のノリじゃないか」

 駆動音が妙に静かなシャトルバスに揺られながら、慶志朗はぼやく。

洗練された未来チックなデザインではあるが、どう見てもただのバスで異次元世界に移動すると言うのは、情緒も感動も有った物では無い。

しかも窓の外に流れる景色は、人が全くいない事を除けば、どう見ても日本の田園風景だ。

「次元のトンネルって言うから、何かこう、ずばば~っと光が舞ったり、びみょみょ~んと残像現象が起こったり、服が脱げてすっぽんぽんになったりとか、そう言うのはないのかな」

 水が張られた水田を眺めつつ言うと、隣に座っていた翼は呆れた顔になる。

「変な事を言うな、慶志朗君は。そんな非科学的な現象が起こる訳無いじゃないか」

「……怪しい《能力》を使う《超人》みたいな非科学的な人に言われても……」

 慶志朗がボソッと言うと、翼の向う側に座っていた理瀞がムッとした顔をする。

「失礼な。私達の《能力》はちゃんと科学的に証明できる、れっきとした身体能力ですわ。ヘタレさんの言う様な、物理法則を無視した現象と一緒にしないでください」

 保健室での一件があって以来、翼と再び頻繁に会話するようになっていた。

そして、翼と仲の良い理瀞も――翼に付き合って仕方なくといった様子ではあるが――結構話しをするようになっており、三人並んだ席に座るまでになっていた。

「しかし……服が脱げるか。それは中々面白そうだね。やはりアレかい?慶志朗君も理瀞さんの迫力のある胸を直に拝んでみたいと、つまりそう言う訳かな?」

「ぶばぁっ?ななななな何を言い出すんだ翼君!」

 真面目な顔で、とんでも無い事を平然と口走る翼に、慶志朗は思わず吹き出してしまう。あろうことか、理瀞はバッと自分の胸を腕で隠してジロリと慶志朗を睨みつけてきたりする。

「……見ないでください、汚らわしい!」

「解る、解るよ。女性の豊かな胸は心も豊かにしてくれるからね。君で無くても見てみたいと思う物だよ。それに直に触ったり出来たら言う事はないよ。な、慶志朗君」

 ポンッと慶志朗の肩を叩いて翼がそんな事を言うと、理瀞は顔を赤らめ、慶志朗の視線から体を隠す様にしながら、

「このヘタレ……私にその様な下世話な感情を抱くなど、余程命が要らない様ですね」

「ちょ、まっ!僕に同意を求めないでよってか言ったのは僕じゃ無くて翼君だよだから僕をロックオン済みの目で睨まないでよ僕は別に静野さんの裸が見たいとか言ってないし!」

 降って湧いた災難にテンパった慶志朗が早口にそう言うと、何故か翼が驚いた様な顔になり、そしてどういう訳かフムと一つ頷く。

「そうか。と言う事は……つまり慶志朗君が見たいのは僕の裸だ、と、そう言いたい訳か」

「んな?」

 予想外の事に、カクンと顎を落す慶志朗を余所に、翼は真面目な表情のまま、

「あの素晴らしい胸の理瀞さんじゃなく、僕だなんて。変な趣味を持っているんだな君は」

 ジャージ――学園側からジャージ着用の通達があった為、全員ジャージを着用している――のファスナーに手を掛け、

「まぁ、僕は別にかまわないけれど。流石に人前で裸になるのは初めてだな」

 なんて事を、表情を変えないまま言いファスナーを降ろし始める。

「まままままま待ってよ翼君!明るい内からそれは流石に色々と問題が!」

 自分でも何を言っているか解らないまま、慶志朗は慌てて翼の手を取り押し留める。その手に翼は自分の手を重ねると、顔を近づけ耳元で囁く様に、

「勿論冗談だよ?」

 悪戯が成功した悪ガキの様な表情で言う翼に、慶志朗は思わずガックリと背もたれに崩れ落ちる。ふと気が付き、恐る恐る理瀞の方を窺う。これまでの様子からすると、さぞ怒っているかと思いきや――

「翼さんの珠の肌……だ、駄目ですわこんな公衆の面前で!で、でもこんな機会はそうないですし……い、いけません!私ったら何を考えているのでしょう!」

 何やらあれこれと想像して一人百面相をしていた。

 取り敢えず楽しそうだったので放っておく事にし、慶志朗は深く溜息を吐きく。

「翼君って冗談なんだか本気なんだか、今一解り難いよね……」

 疲れた顔の慶志朗を翼は面白そうに眺め、理瀞が悶えている間にバスは目的地に到着する。

 奇妙な倦怠感を持ったまま慶志朗はバスを降りる。そこは巨大なショッピングモールの様な施設の駐車場だった。アメリカ映画でしか見た事が無い様な広大な駐車スペースには彼らが乗って来たバスの他には数台程度の車しか止まっていなかった。

「はぁ~~~~でっけ~。コレが中継ステーション?ちょっとした都市じゃないか!」

 物珍し気にキョロキョロと周囲を見渡しつつ慶志朗が感想を漏らす。

 ここはゲートの深い部分、空間が重なり合う中心に近い部分らしい。らしいと言うのは慶志朗が授業でそう聞いたという程度で在るからなのだが、言わば次元の交差点とも言うべきこの場所は、古い時代には多世界との交易の場となっていたと言う。

 次元を渡る術が失われると同時にこの場所も忘れられていたのだが、再び次元を渡る事が出来る様になった現在、この場所は多重世界の中継地点として、地球で言う所の出入国管理所の様な場所として使われていると言う。

 どの世界からでもこの中継地点までは無審査で訪れる事ができ、中継地点の建物内には他世界の文明を脅かさない程度の品物がそれぞれの世界から持ち込まれ、複数の店舗が建ち並んでおり、さながら免税店の様な賑わいを見せていると言う。

「何時の間にか周囲の景色も変わってら……ちょっと外国っぽい感じでいいなぁ」

 それまで日本の田舎じみた景色は、広大な敷地とそれを取り巻く、馴染みの無い種類の樹海が広がっており、緑の海に浮かぶ都市の様な印象を与えて来る。

 この中継ステーションの見学が午前中の目的なのだが、エスカレーター組の生徒達にとってはお馴染の場所のらしく、殆どの生徒は既に何処かの店舗に入ってしまっている。真面目に見学しているのは同じ編入組の生徒と慶志朗位だ。

「しかし、広いなぁここ。一体どれだけあるんだろ?」

 周囲を見ながら慶志朗が言うと、翼は慣れた口調で、

「外周は大体十二キロ。施設面積は八キロと言った所かな。中継ステーションとしては比較的小規模だよ。どちらかと言えば通商用の施設としての機能が充実しているね」

「身も蓋も無い言い方をしてしまえば、巨大なショッピングセンターです。学園から最寄りのステーションですから、休日の買い出しにここに来る生徒も多いのですよ」

「へえ……そう言えば色々お店があるね。しかも見た事も無い物ばっかりだ……」

 周囲には様々な世界から集められたと思われる品を販売しており、以前慶志朗が工作室から同意なく長期借用した――短く言えばガメた――工具らしき物も売られている。

「中継ステーションは言わば他世界文化の交流地点だからね。チョッとした世界物産展みたいでしょ?ここなら何でも手に入るよ。例えば……」

 翼はさり気無い口調で、

「眼鏡も売ってるよ。どうだい慶志朗君?この際そんなダサい眼鏡じゃ無くてもっと格好いいデザインの物に変えてみたら?」

「だが断る!この眼鏡は既に僕の身体の一部……いや、魂だ!そう簡単に変えてたまるか!」

 クワッと威嚇するように慶志朗が大声で言うので、翼と理瀞はビクッと肩を振るわせる。

「一応コダワリがあったんだね、あのダサい眼鏡に……」

「その様ですね……悪趣味な事ですわ」

 コソコソと耳打ちしていると慶志朗は格好つける様に人差し指でクイッと持ちあげて、

「これは僕のオサレなの!翼君や静野さんのピアスと同じなの。格好いいでしょ?それに色々と便利なんだよ、コレでも」

と得意そうな顔で言うが、翼と理瀞はドン引きしてしまう。

「……慶志朗君、悪いけれど君のお洒落の基準は激しく間違っている。ハッキリ言わせてもらうと、とてつもなくダサいよ、その眼鏡は」

「ええ。そんな物をお洒落と呼んでしまえば、世の中のデザイナーは職を失います」

 二人にキッパリと言われ、ションボリと慶志朗は肩を落とす。

「大体、私達のピアスはお洒落を目的としている訳ではありません」

「え?」

 慶志朗が驚いて聞き返すと、翼は笑って自分のピアスを指さす。

「僕のコレは、リミッターになってるんだ。どうにも僕の《能力》は強過ぎて、制限無しで使うと大変な事になっちゃうからね」

「そうか……翼君はこの前の試合では三割に『能力』を制限されていたもんね」

「私の物は補助機です。《魔術系》の《能力者》は、大体何かしら魔法を安定させる器具を用います。一般的には杖や指輪などを使いますが、私はこのピアスを使っています」

「へえ、ただのアクセサリーじゃなかったんだ……あ!だから校則でアクセサリー類が禁止されてないのか!」

 随分校則のゆるい学園だと思っていたが、ようやく納得が行き、慶志朗はポンと手を叩く。

「そうだよ。私服が認められているのも、《導師系》や《所持者系》の人は色々と持ち歩く為に、服に細工するからだよ。制服だと何処を加工して何を持っているか解ってしまうだろう?」

「それに中には高い集中力を必要とする《能力》もあります。安定した《能力》を使うためには慣れた衣服の方が、都合が良いのです。制服は動き難いですからね」

 言われて見れば、一般科や普通育成課の生徒の中にはごく少数だけ制服姿の者も居るが、特別育成課で未だに制服を着続けているのは慶志朗だけだ。

「なるほど……《能力》最優先なのか。徹底しているなぁ」

 つくづく、この学校は自分の常識の裏を行く、と内心思う。まさか服まで《能力》に関係しているとは予想もしなかった。一体、これからどれだけ予想外の出来事に出合うのか――

 慶志朗は不安半分、期待半分と言った様子で、ワクワクと眼を輝かせた。

 そして願い通りに予想外の出来事がすぐ起きる。しかも不本意な形で。


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