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一週間後、竜胆は学校を辞めた。
どうも週末の後、あの男たちは警官に補導されたらしい。普通の高校生なら別に問題は無いが、あの男たちは問題ありありだろう。
あとは芋ずるで、竜胆はまで捕まってはいないらしいが人の口にふたはできない。彼女がかかわっているといううわさが流れだした翌日彼女は学校を辞めた。その後、噂は噂としてみんなの中から消えて行くだろうが、少なくとも、自分と稟はそれが事実であると知っている。
クラスの力関係はめっきり変わってしまった。カリスマである竜胆がいなくなり女子の発言力は堕ち、だが男子が台頭するでもなく、まあなんともまとまりのないクラスになってしまった。まあ自分はそのくらいが変に気をつかわずにすみ嬉しいのだが。
自分と稟はいままでと大きくは変わらなかった。いつも通りてきとうに授業を受け、昼休みにとかになったら屋上前で駄弁る。少し変わったことがあるとしたそれは週末にまれに二人で遊びに行くぐらいだ。女子の多くが好むような行動はとれないものの稟一人ぐらいならなんとか付き合えたし、自分が嫌がってると稟は無理強いしなかった。この娘は娘で人の顔色くらい読めるのだ。読む気はあまりないだけで。
「あついね、ここ」
「……そうね」
いつもの屋上前、本格的な夏を前にしたこの時期に空気のこもったこの場所はつらかったのだ。
「屋上、出てみよっか?」
「――へっ?!」
気付いた時には早業のように扉の鍵は開けられていた。
「まあ開いてしまったものは仕方ない」
無理やりな理屈をつけて外に出た。
空は青く、吹き抜ける風は自分の汗をぬぐっていく。
「そういえばさ」
「なに?」
稟が話しかけてくる。
「ここで、あなたのいった事」
「ああ……」
恥ずかしいな、なんというかあの時はほぼ勢いだったしね。
「私は、私のためではなくあなたのために生きる。でもそれはひいては私が私のために生きることを意味する」
きっと彼女は難しいことを言うのだろう。教養のない自分に理解できるといいなぁ。
「つまり、私は私のためにあなたのため生きる……。そう考えると結局あなたを利用してるだけのような気がするわ……。だからね」
そこで彼女が言葉を切った。難しい話のようだったがそれは自分の心の中に深く沈殿していたような言葉で、意味ではなく音として入って理解していた。
「だから、あなたも私のために生きて。私は私のためにあなたと生きる。あなたもあなたのために私と生きて」
この狭量な社会で生きていく。そのための、仲間。
「貴方にも、この言葉を受け取ってくれないかと思うのだけど」
蒼く、広く、透いた空の下。彼女の言葉が僕だけに届く。
「うんっ、僕も、そう思うよ」
諦めたくなることも多い人生だった、でも、彼女と出会って――
――諦められなくなった。
これにてとりあえず完結。
ここまで来るのが結構大変だったような。
もっと明るいものにしようとおもってたのになぁ。