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雪乃お姉さんと真島くん

君の背中を、ただ追いかける。

作者: 桐谷 キリ

読者の皆様のご希望と作者の妄想が止められず、立花サイド書かせていただきました!

といっても、対して進展するとかは…いや、あるか、あるかも!

前作では真島君にご褒美を与えましたので(笑)

立花と雪乃お姉ちゃんの出会い編になってます。

いつもより短いです。

「ところで立花たちばなくーん、合コンでもいかないかい?」


 同僚からのこう言った誘いは何度も断ってきたはずなのに、幾度となくそれは舞い込んできて、俺を巻き込んでは無意味なものにする。


「小崎さんも来るってよぉー」


 いや、実際は俺自身が無意味なものにしているのだけれど。



―――――――


 最初に彼女、小崎こざき雪乃ゆきのを見たのは、新入社員歓迎会だった。自分のルックスに関して中学の時から自覚していた俺は、さっそく先輩の女性社員を筆頭に、これから同僚となる女性新入社員からも絡まれていた。もちろんその時は軽く距離を置いていたのが功を奏したのか、男の同僚で友人を作ることもできた。

 しかし、女というのは執念深い生き物で。


「立花くーん、立花君はぁ、どこの大学だったのぉー?」

「あー!ほら飲んで飲んでえぇー!」


 大学時代の女子学生よりも濃い化粧をした女性陣からの勢いは恐ろしかった。まるで猛禽類のように俺をがっちりホールドし、どういうつもりかわからないが、多くの酒を飲ませた。

 あまり酒を得意としなかったが、先輩命令となれば多くは断れない。ゆっくりと、でも確実に酒を口にに入れた俺を、先輩たちは満足そうに笑い、質問に質問を重ね、俺という獲物をつかんで離さず、く射殺そうとしていた。


「彼女いないんだってぇー!!」

「ほんとにぃー?じゃーあー、私が付き合ってあげてもいいわよん!」

「きゃー、小川さんずるぅい!!」


 誰が付き合うか。俺の外見しか見てないくせに俺の何を知っているっていうんだ。

 思わずそんな気持ちを胸に彼女たちのほうを見るが、完全に酔いの回っている彼女たちには俺の気持ちは届かない。きっと何を言っても無駄だろう。

 そこで一度、先輩たちの間でミニゲームが始まり、俺たち新入社員は怒涛の先輩からの質問攻めから解放された。

 俺はカウンターの隅のほうで、これから仕事を共にする質問攻めの前に知り合った同僚と大学時代のことを話していた。

 そんな時、トイレから出てきたのか、栗色のショートヘアの良く似合うスーツ姿の女性が俺たちの横を通った。


「わ、あの子美人…」


 俺と話していた同僚は、話よりも一気にその女性のほうに目を向けた。対して俺は女なんて、と半ば結婚や恋人を諦めようかとさえ思っていたので、その女性には興味がなかった。

 しかし、そんなわけにもいかなかったのである。


「あの人確か、入社式にいたよな!ってことは俺らの同期!?」

「さぁ…気になるなら話しかけてこいよ」

「うっわ、つめてぇー」


 本当は、まさかこの男が声をかけるなんて思ってなかった。でも今となっては、この男にはっぱをかけてよかったと思う。

 なんていったって、この時が小崎とのファーストコンタクトだったんだから。











「なーにボケッとしてんのよ」


 バシッと背中を叩かれ、持っていた資料が一瞬だけ宙に浮く。同時にくしゃみも出てしまい、慌てて抱き留め、腕の中でわずかに皺の入った資料を見て眉間を中央に寄せた。くそう、怒られるのは俺なんだぞ。

 しかしボケッとしていたのは事実で。俺の背中を叩いた色気のないこの女を少しだけ睨むが、自分にも火があるので強くは睨めない。それを理解しているのか否か、彼女、小崎は自信ありげににっこりと笑っていた。


「…別に。それよりお前、」


 あの高校生とはどうなった?

 そう聞こうとした口を止めた。

 急に言葉に詰まった俺に、小崎は訝しげに俺を見上げる。ん?と言葉に出さなくとも表情で言いたいことを表す彼女の顔に、俺は何も言えなくなる。何も知らない彼女に、俺は言えない。


「あー…、いつだっけ、今度の飲み会」

「え?何よー、それ教えてくれたの立花じゃない、もう。えーっと、確か、明後日の夜じゃなかった?」


 俺の咄嗟に考えた質問にも、何の疑いもなく答えてくれる真面目な彼女を見ると、俺の中で何かがポタリと落ちる。その水滴を何といえばいいのかわからないが、溜まっては流されない、ただただそこにとどまり、積もっていくだけのそれを、俺はずっとそこに抱えていた。

 お昼休みまであと一時間。今日はほとんど事務作業なので自分のデスクから動くことがない。正直朝から風っぽかったので、ずっと座っていられるのは楽だった。

 ましてや何かの期限ギリギリというわけでもなく、いつもより平和的な仕事を今日はしていた。周りは相変わらず仕事の用語が飛び交っていて慌ただしく背景が回っているけれど。

 そんな感じだから、思考を止めてしまっていたのだろう。背中を書類の入ったファイルで叩かれるくらいに俺は無防備だったらしい。


「お前も来るんだよな」

「まぁね、美子も行くって言ってたし。渡辺君も行くんでしょ?」

「ああ」

「また山崎さんに絡まれちゃうかもねー」


 山崎さん、というのは、俺が入社して早々、俺に手作りクッキーを作ってきた同期の女性社員である。今じゃその女子力を生かして取り巻きを作っているとか何とか聞いたが、先輩女性社員からは嫌われているらしい。

 対して男の背中をファイルで叩く色気の「い」の字もないこの女は、山崎と敵対する先輩女性社員を見事にものにして―――本人は自覚はない―――、後輩(男)たちの間からすると二大勢力がこの会社の中でぶつかり合ってるとか何とか。

 この女が理解しているかどうかは別だが。


「俺はあいつのこと好きじゃない」

「はいはい」

「でもあいつの女子力を学ぶべきだと思うぞ、お前は」

「叩いたこと根に持ってるのね……って、ちょ、」


 俺と関わることで、小崎は多くのハプニングに巻き込まれた。例えばその、山崎さんとか。このルックスだから、女関係のトラブルはつきもので。なるべく女性には関わらないようにしてきた。


 でもこの女は、俺の関わらないという決意すら揺るがすように、俺に背中を向け、俺に追いかけさせた。

 だから、俺はこの女に惹かれた。


 ―――気づけば視界は傾き、焦った表情の小崎と、その小崎の奥で口を大きく開けた渡辺の姿が見えて消えた。













「やだ、体調悪そうだけど、大丈夫?」


 そう言って声をかけた同期の男よりも、俺のほうへ視線を向けた栗色の女性に、「またか」という嫌悪が心の中で渦巻く。

 確かに、あの時俺は機嫌も悪かったし、体調も心なしか万全ではなかった。酔いも少し回っていたし、正直早く家に帰りたいとさえ思っていた。だがこれから俺も社会人の一人、ここで我儘を言えば次の日が怖いと、無理に自分の体を起こしていた。


「え?あれ、立花、何、具合悪いのか?」

「すみません、お水を一つ」


 俺の表情を見たのか、同期の男は俺の肩を小さく揺らした。そこへ、彼女の細く白い手によって運ばれた水が視界に入る。正直ありがたかったので、無言で会釈をしてそのコップを手に取った。


「お前、帰ったほうがいいんじゃないか」

「…いや、大丈夫だ」

「でも、」


 こういう押し問答のほうがよっぽど迷惑だし嫌だ。相手は俺のことを気遣ってるつもりなのかもしれないが、できれば話したくない。

 最低限の会話だけを務めていれば、きっと相手も俺に興味を無くすだろう。俺はそう思い、同期の男の質問に小さく頷いているだけだった。

 そんな時だった。同期の近くで立ち止まっていたショートの女が、口を開いたのは。


「――ねえ、あなた名前は」

「…立花だけど」


 一瞬棘を感じた。でも彼女の顔には、笑顔が浮かべられている。なんだろうか、迷惑そうに彼女を見たのがいけなかったのか、それとも彼女はもとより感じていたのか、気づけば自分の体は床に倒れていた。

 視界が一瞬だけ真っ白に切り替わる。転がるようにカウンターの椅子から落ちた俺の体を同期の男が支える。俺は何が起こったのかわからず、呆然と俺を見下ろす彼女を見つめた。


「…悪いわね」


 ボソッとそう呟いた彼女に、何か言い返そうとしたとき、床の冷たさに俺の体はようやく気付いた。ほてっていた体を癒すように冷気を放つそれに、丸ごと意識を吸い取られる。


 ―――最後に俺が見た景色は、短い髪を揺らして、俺に向けた、彼女の凛々しい背中だった。



 思えば高校生時代から、他人に対して本気で感情を抱いたことはなかった。家族こそあれど、他人に意識を傾けられるほど俺は寛容でもなく、周りは俺を特別扱いした。

 クラスで必ず上の立場に持ち上げようとする女子生徒も、俺に便乗する周りの男子生徒も、良しとは思えなかった。何か相談したくても、俺からの株が欲しくて対して聞いていないくせにそれっぽいことを言って俺と関係を持とうとしていて。だから決して心を許して、誰かに身を預けようなんて思わなかった。

 大学時代にも、そんな感じのまま何人かの女性と関係を持った。それでも「好き」という感情を相手に抱けなかった。だから。


「立花君っていつも、私じゃないところを見てるよね」

「本当に私のこと好きなの?」

「ねえ、黙んないでよ」

「私はこんなにも好きなのに…っ!」

「だいっきらい!!!」


 俺と関係を持っては俺の頬に平手打ちをしては泣いて逃げていく彼女たちを、俺は追おうとはしなかった。俺が追ったところで、彼女たちには俺の言葉は届かないと思ったからだ。


 自分でも馬鹿で情けない奴だと思う。一人暮らしのマンションの自室に帰っては、そんなことを思った。そうして頭を抱え、自問自答を繰り返す。

 どうしたら自分は誰かを思えるのだろう。どうしたら、誰かに本気になれるんだろう。

 本当は、自分自身が誰かと付き合うことに恐怖を抱いていた、なんて。


 ――――それに気づかせてくれたのは、どこの色気のない女だったか。













「…お、起きたか」


 目に入ったのは、白い天井と、手前にある整った顔とさらさらと流れる栗色の髪。優しげに口を緩めた彼女の笑顔に、俺は驚きで言葉を失った。

 慌てて体を起こそうとするが、思うように体に力が入らないことに気が付いた。心なしか体の節々が痛い。自分の体の異変の原因が何なのかわからず、頭の中が疑問符でいっぱいになったとき、クスクスと笑い声が聞こえた。


「ばっかねー、あんた熱で倒れたのよ」

「…ね、つ?」

「声が凄い嗄れてるわねー、はい、これ」


 ス、と差し出されたのは、コップ一杯の水。それを見て何かが頭の中でよぎった気がして、そのよぎったものが何なのかわかったとき、フ、と口元に笑みを浮かべた。

 急に笑顔を浮かべた俺を不審そうに見つめる小崎の、水を持った腕をパシッと掴む。その時何滴かの水が揺れてコップからこぼれた。


「ぅわっ、ちょっと、何して、」

「……きだ、」


 そのまま彼女を引き寄せ、自分の腕の中に閉じ込める。カランカランッとプラスチックで出来たコップが地面にこぼれ、床を濡らす。自分の腕にも少しかかったが、熱で火照った体には冷たくて気持ちがよかった。

 胸に抱き留めた彼女の体は、とても軽くて、暖かくて、柔らかかった。


「え、何?なんていったの、っていうか離せー!!」

「…はは、お前は、」


 好きだ、という言葉を伝えたかった。でも口の中で溶けて消え、彼女の耳には届かなかった。


「もー…いったいどうしたっていうのよ」

「なあ、」

「んー?」


 どうやら諦めたのか、大人しく抱きしめられている彼女の背中に腕を回す。それでも焦らない彼女にこっちが焦りそうになるが、それでもいいように俺は回した腕の力を強めた。


「ちょっとお願いがあるんだけどさ」


 最近こいつの周りでウロチョロし始めた高校生のことが頭によぎる。「真島」っていったか?そういえばこの前そいつのこと名前で呼んでいたよな。

 サラサラの線の細い彼女の髪を撫で、耳を見つけ、そこに唇を這わせる。


「え、ちょ、そこは、あの、立花クン?」

「…なあ、俺の願い、なんだと思う?」

「はあ?いやそんなん知らな…ぎゃあああ、息を吹きかけるなぁ!!」


 答えるまで息吹きかけてやると謎の脅しをすれば、懸命に悩み始めるこいつに、愛しさがこみ上げてくる。

 こいつはきっとこの出来事を、ただの俺の寝ぼけた行為としか思ってないのだろう。もしくは友人とのじゃれあいか。

 どちらにせよ、こんな反応じゃ意識されていないことくらいわかる。それでも俺がこういう風に止めないのは。


「はーい、時間切れ」

「え、まだ数十秒しかたってないですけど!?」

「気のせいだ。俺には一時間のように思えた」

「やっぱり寝ぼけてるでしょ」


 ああ、そう。寝ぼけてるとでも思っていてくれ。

 こんなにも届かないことが苦しいのに、彼女の体を抱きしめ、堪能したいと思うのは。


「――――正解を教えてやろうか、雪乃」


 俺に向けたお前の背中を、振り向かせたいからだ。











 あの日、ゲームに夢中になっていた先輩たちを呼んで、わざと大騒ぎにしてあの女は俺を無理やり帰らせた。冷たいものを酷く求めていた俺は、床だけで一瞬で意識を飛ばした。

 そんなもんだから一緒にいた同期の男もびっくりして大声で俺の名を呼び、それを利用してかあの女は先輩たちに知らせ、無理に新入生歓迎会を中断させたという。しかし、あの女の計らいによって先輩たちと新入社員たちは二次会という名目で違うところで飲ませた。

 そうしてあの女はぶっ倒れた俺の懐から携帯電話を取り出し、家族を呼び出してタクシーに俺の体を乗せたという。普段風邪をひかない俺を心配した家族が、酷くあの女のことを褒めていたのを覚えている。家族曰く、誰よりも男前だったとか。

 まあでも確かにそうだと思う。

 あいつは、俺が一人で黙って帰ることで俺の上下関係が壊れることを危惧してそんなことを行ったのだ。俺が一人の先輩に「先に失礼する」と言っても、男の先輩からでは僻みも含めて嫌な感じで見送られてしまう。

 しかし倒れたという騒ぎがあれば全員が納得するだろうし、無理強いしていた自覚もあるのだろう、復帰した日には「大丈夫か」という心配の声を投げてくれた。

 意外と完ぺきではない、ということも受けたのか、女性からの人気も少し減ったし、同時に同期の男から絡まれる数が増えた。

 皮肉にも、どれもこれもあの時俺をぶっ倒したあの女のおかげである。とりあえず俺を助けてくれた、ということらしいので出勤して即、彼女にお礼を言いに行った。


「…悪かった、ありがとな」

「……ああ、あの歓迎会の時の」


 その時の反応は、本当に新鮮だった。まるで気にしていない、いや覚えていないといわんばかりの表情で、俺の顔を見ていた。


「体調管理くらい社会人になったんだからしっかりしときなさいよー」


 そういってヒラヒラと手を振って俺に背中を向ける彼女を見送る。女性にしては高めの背に、サラサラと揺れる彼女のショートの髪。タイトスカートから出る白い足は、細く綺麗だった。

 だから間違っても、先ほど俺に「しっかりしろ」といった彼女が、豪快にくしゃみをするなんてこと、想像もつかなかったのだ。


「ふえっっく、しょん!!!」


 一瞬だけ降り曲がる、スラッとしていた背筋に、思わず笑いがこみ上げた。

 ああ、面白い。

 突然思ったその感情に、自分は単純な男なんだと思った。


「おい、お前、名前は?」


 だから俺は、細いその肩を掴もうと彼女の背中を追いかけた。








ここまでお読みいただきありがとうございました!!

次回ではなんとか立花の下の名前を出そう…出そう!!と思っておりますですはい。

いやぁ…自分に文才がないことはわかってるんですが、こう妄想が止まらないと分がぐちゃぐちゃしちゃうんですよね(笑)申し訳ない。

勢いで書いたので恐らく…いや絶対にぐちゃぐちゃので少しずつ違和感ないように修正していきたいと思ってます。


さて、立花君に無理やり駒を進ませました!今んとこ真島君がリードしてますけど、大人は追い上げるスピードが違いますからね…(・∀・)ニヤニヤ

真島君も追いつかれ…いや追い抜かれちゃうかも(笑)

でもわれらのヒーローは真島君ですのでそのへんは…ねぇ?


また、前作で意外な人気を博した、桜ちゃん。

どうやらあのぶりっ子キャラからお姉ちゃん大好きキャラにジョブチェンジしたのがよかったらしく、女性にも愛されるキャラになりました。よかった!!

今回登場することはありませんでしたが、次作では桜ちゃんと雪乃お姉ちゃんの団欒を書いてもいいかなとか思ってます(もちろん真島君出しますけど)。


というわけで。今回こんな感じでまとまりましたが、一つ書いてて疑問に思いました。

―――雪乃お姉ちゃんたちって何の仕事してるんだ…?

……次作までには答えを出しておこうと思ってます!


それではまたの機会にお会いしましょう!

長くなりましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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[一言]  よく耳にします。
2016/10/10 22:04 退会済み
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