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89,ヤバい気しかしない。

 庭には俺たちのパーティーメンバー全員と、今いるクリソベリルのメンバー(ムギ以外)が集まってきていた。

 ユリシアが戦闘モードに入っているところを見ると、今から来るらしい敵は相当厄介なのだろう。


「ゼラ、お前大丈夫か?」

「魔力切れ起こして今目覚めたところだ」

「大丈夫じゃないな」

「おう。まだ立ってるだけでしんどいぞ」


 うちのサポート役は今回戦えそうにない。

 リーラも相当魔力を消費しているようだ。

 俺たちにとって不幸だったのは特訓の最中で疲れまくっていること。幸運だったのは近くでクリソベリルの戦闘が見れることだろう。


「どうする、ケイ。お前が指示を出すか?」

「いえ……普段の戦闘でも指示を出すのはリーラさんなので」

「そうか。リーラ、今回指示を出す気は?」

「できれば、ほかの方が指示を出すところを見学したいです」

「分かった。なら俺が指示してもいいか?」


 リーダーの言葉に反対の声はなく、それを確認したリーダーはテキパキと指示を出し始めた。


「モクラン、敵の現在位置と魔力の判別を頼む」

「分かった」

「それと……コガネ、お前は戦力に数えていいんだよな?」

「構わない。けど、主が危険だと判断したら命令無視でも主のところへ行く」

「ああ。それでいい。コガネも索敵を頼む」


 コガネが了解の意を示し、アオイが何かに気付いたのか声を上げた。


「あれ、そういえばサクラは?コガネ君と一緒だって聞いたんだけど」

「サクラならギルドに居るぞ。ギルドがどう動くか確かめてもらっている」

「なるほど」


 アオイがポンッと手を叩いた。

 コガネはそれを眺めていたが、突然厳しい表情になり、叫んだ。


「魔獣がこっちを向いた!来るぞ!」

「え!?こっち見た!?」

「ああ。さっきまで門の近くを旋回していたんだが、今は確実にこっちを見て速度を上げている」

「……それってつまり……」

「おそらく主を狙っているな」

「やっぱりかー!!」


 アオイが叫ぶのと同時に、魔獣のものであろう咆哮が聞こえ、驚いたアオイはコガネにくっついた。


「リュヌ、ユテン、構えろ!コーラル、ギルドに避難勧告を!」

「ここから遠くに行かせればいいんだよね?」

「ああ」

「分かった」


 リュヌとユテンが弓を構え、魔獣が来るであろう方向に標準を合わせる。

 コーラルはギルドに走っていった。


「モクラン、あれの判別終わったか?」

「上位飛行型。属性は炎。もうすぐリュヌの射程に入るよ」

「おう。リュヌ、どうだ?」

「見えた」


 言いながら、リュヌは矢を放った。

 クリソベリルのアーチャーは絶対に狙いを外さない。

 そんな噂は聞いていたが、あんなに離れた魔獣に当たるものなのだろうか。


「モクラン、結界を張ってくれ」

「分かった」


 モクランが結界を張った次の瞬間、リュヌが矢を放った方向から巨大な炎の塊が飛んできた。

 それを見てリュヌが軽い口調で言った。


「すまん。目に当てたら怒った」


 その言葉に驚いたのは俺たちだけで、クリソベリルのメンバーたちは普通に言葉を返している。


「何怒らせてんだよー」

「そりゃ怒るわな。痛いからな」


 そんな会話をしながらも、リュヌはすでに次の矢を用意している。

 そしてもう1人、攻撃を仕掛けようとしている人がいた。

 クリソベリル随一の水魔法の使い手、ツルバミだ。


「相手が炎なら俺が行っていいよな、リーダー!」


 そう言って好戦的に笑う。

 ツルバミは高い背と同じくらいの長さのある杖を構え、魔力を練った。

 リーダーはその姿を見て一瞬考え、すぐに許可を出した。


「ああ。いいぞ」


 リーダーが許可を出した瞬間、ツルバミは結界の外に飛び出し、魔獣に向かって魔法を浴びせた。

 直後魔獣の咆哮が響く。

 ツルバミが結界内に戻ってくるのとほぼ同時に再度炎の塊が飛んできた。


「リーダー!」

「ピッ!」


 ツルバミが再び結界の外に飛び出し、入れ替わるようにコーラルが現れた。

 肩に乗っていた小鳥はアオイの肩に移動した。


「ギルドが今国民を移動させてる。西区に誘導するって」

「分かった。ありがとな」

「いえいえ」


 コーラルとリーダーの会話が終わるか終わらないかくらいのタイミングでツルバミが再び結界内に戻ってきた。

 そして叫ぶ。


「おい!あの野郎突っ込んで来るぞ!」


 それを聞いたクリソベリルの行動は早かった。

 モクランは結界を数段階強化し、トクサが前に出た。

 トクサは大きな盾を装備している。その盾には魔法がかけられており、魔法をほとんど通さないのだ。


 トクサが盾を構えた瞬間、モクランの張った結界が歪んだ。

 魔獣が体重をかけてきたのだ。

 近くに来たことでやっと視認できたその魔獣は、巨大な翼が生えていた。

 翼以外の部分は汚らしい布で隠れていて見えないが、そこまで大きいとは思わなかった。


「……コガネ君、あれ……」

「ああ。人型だ。主、見たくないなら見ない方がいい」


 アオイはコガネにしがみつき、怯えた目つきで魔獣を見ていた。

 魔獣は、そんなアオイにゆっくりと視線を向けた。

 布の中で目と思われる部分が怪しげに光り、魔獣は咆哮した。


「ひっ!?」


 アオイが短く悲鳴を上げ、コガネの胸に顔を埋めた。

 魔獣はなぜかアオイだけを見てアオイを狙っており、横から結界を飛び出して攻撃をするツルバミには見向きもしない。


「……モクラン、主を頼む」

「分かった……いいの?」

「ああ。俺は攻撃に加わった方がいい」

「そう。……ほら、こっち」

「……うりゅぅ……」

「なにその謎の声」


 コガネがモクランを呼び、アオイをモクランに預けて自身は結界の外に出る。

 いつの間にかユリシアもツルバミの横に移動しており、リュゼも矢を放っている。

 それでもなお魔獣はアオイだけを執拗に狙っていた。

 そのことに苛立ったのか、ツルバミが叫ぶ。


「おいテメェどこ見てんだオラァ!!」


 叫びながら巨大な氷の刃を魔獣にぶつける。

 魔獣は悲鳴を上げてよろめくが、やはりアオイだけを狙っている。


「クソが!」


 ツルバミが毒づき、ユリシアの首根っこをつかんで結界内に戻ってきた。


「おいモクラン!どっかに声を通さねぇ結界張れ!」

「はいはい。命令口調なのはいかがなものかと思うよ」

「早くしろ!」


 モクランが張った小さめの結界に入ったツルバミはようやくユリシアを下ろして何か話し始めた。

 リーダーは何かを考えていたようだが、考えがまとまったのか声を張り上げた。


「総員攻撃態勢!モクラン、正面の結界を厚くしろ!他は多少薄くても構わん!トクサも正面に!」


 リーダーの声にそれぞれ了解の意思を示し、サポートを残してほぼ全員が結界を出た。

 少し遅れてツルバミとユリシアも出てくる。

 2人は同時に魔力を練り始め、同時に別の演唱を始めた。


「大いなる水の神よ」

「大いなる雷の神よ……」


 同時に始めた演唱は、それぞれ水と雷の最上位に数えられる攻撃魔法だ。

 2人の実力をもってしても演唱を略すことができないほどに強大な魔法。

 それを同時に2つ。

 もしかしたら、今回の戦いはこれで終わりかもしれない。


「「今ここに、汝の力を示したまえ」」


 同時に始まった演唱は同時に終わり、2つの強大な魔法は1つになってその威力を倍増させた。

 水と雷。極めて相性のいい属性が混ざり合った球体状の魔法は、魔物をゆっくりと包み込んだ。

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