07,Q籠の中身は何ですか?A白キツネ、でした。
チグサさんたちを見送った後、籠を抱えて店の中に入ったヒエンさんと私は、とりあえずカウンターに籠を置いてカウンター外側のイスによじ登る。(どうでもいいが、カウンター外側のイスは3つ。)
「アオイちゃん、開けて開けて」
ヒエンさんも中が気になるらしく、急かしてくる。
分かった、分かったから揺さぶらないで。イスから落ちるから。
どうにかイスの上に留まり、籠に手を伸ばす。
そしてそーっとフタを開けると、
「……キツネ?」
真っ白な、小さなキツネが丸まって寝ていた。
「あら、すごい。白キツネじゃない」
籠を覗き込んだヒエンさんが驚きの声を上げる。
「白……?」
確かに白い。もの凄く白い。
「白キツネっていう種類があるのよ。かなり珍しくて見ただけで幸福が訪れるとか言われてるくらい。こんな風に籠に入れられてる事なんて普通はありえないわね」
そうなのか。
見るだけで幸福が……触ったら効果上がるかな?触っとこっかな。
「ところでヒエンさん、この子、どうするの?」
「そうねぇ……キツネが一匹増えても養う事に支障は無いけど……まあ、その子の主はアオイちゃんだから、アオイちゃんが決めなさいな」
いつの間にか主になっていた。
そういえばチグサさんもそんな事を言ってた気がしなくもなくもない。
「……ヒエンお母さーん。この子、飼っていい?」
「ちゃんとアオイが面倒みるのよ〜?」
「わーい!ありがとうお母さん!」
ヒエンさんが乗ってくれたのをいいことに子どものノリを続ける。
「お母さ〜ん。まず何をすべきかな〜?」
「そうね〜まずは名前でも付けてあげれば?」
「名前かぁー。どうしよっかな〜」
ここは連想ゲーム形式でいこう。
キツネ→稲荷大社→五穀豊穣→稲穂→黄金色
……コガネちゃん。
「コガネちゃんとかどうでしょう」
「いいんじゃないかしら」
決定。この子は白いのにコガネちゃんです。
真っ白だけどね。どこもコガネじゃないけどね。
「ヒエンさーん。白キツネの生態しってる?何食べるとか何が駄目とか分かる?」
「さあ?存在がレアだからねぇ。……ああ、そういえば【世界とは何か〜生物編〜】に書いてあった気がするわよ」
「やっぱりあの作者すげぇ!」
言いながら、ヒエンさんが時計を確認する。
つられて時計を見ると、8時55分である。
「あ、お店開けなきゃ」
「アオイちゃん、私今日は作業部屋にいるから、何かあったら声かけてね」
「はーい。……なんか作るの?」
「大量のポーションを消費したからちょっと在庫が心配でね。大丈夫だとは思うんだけど」
「なるほど。お疲れ様です」
ポーション作りには3時間かかるってヒエンさん前に言ってたからな。多分すごく大変なんだろう。
考えながらリビングに行って、【世界とは何か〜生物編〜】を取ってくる。
それをカウンターの上に置いて籠を横にずらし、時計を確認したら看板を出して札をopenにするべく店の外に出る。
一通りの開店準備を終えてカウンター内側のイスに座り、白キツネ君の様子を眺めながら本を開く。
「白キツネ……白キツネ……あ、あった」
この巻は図鑑のようになっており、後ろの一覧表を使って白キツネのページを探し出す。
ページを開いて、説明書きを読む。
〈白キツネは、小さな体と真っ白な毛並みが特徴のキツネ型の動物だ。
正確な種族は分かっておらず、神獣説、魔獣説、その他色々な憶測が飛び交っている。(だがまあ、そんなの分からなくても困りはしない。)
この白キツネは、神獣レベル(詳しくはギルド用語編に記載。買ってくれると嬉しいな☆)と呼ばれていることが多く、生態が謎に包まれている。
が、全く分からない訳でもない。
たとえば、魔力がかなり強力だ、という事は広く知られている事である。
その他、雑食で人間の食べるものならなんでも食べるということもなぜか伝わっている。〉
なんでも食べるのか。というかこの作者、相変わらずカッコ書きの中で本音がだだ漏れになっている。
食べ物の心配はどうにかなった。
他には何かないだろうか。
〈なぜこんなことが伝わっているかというと、それは白キツネを手懐けた古人が何人かいたからである。
ただし、まず見つける事が至難の技だ。そして見つけたとしても捕まえるのがさらに至難の技だ。さらにさらに、それを手懐けるなんて至難の技どころの騒ぎじゃあない。
だからこそ、記録が残っている500年の間に白キツネのテイミングに成功した人は5人なのである。(つまり全員が100年に1人の逸材って認識でいいのだろうか。)
最後に言って(書いて?)おく事があるとすれば、白キツネの知能はかなり高く、人の言葉を理解する。なので、捕まえたくば声に出して命令等しない方がいいと思う。〉
……無理ゲーだ。無理ゲー押し付けられた。
絶対懐かないじゃんこれ。
というか説明書き終わったし。
「うーん。どないしましょ」
なぜか訛る。意味もなく訛る。
「キュイ……」
「おっふ!?」
籠の中から鳴き声がした。
籠を覗くと、小さなキツネさんがこちらに警戒の念を含んだ目線を向けていた。
……あ、目の色黄金色だ。あったわ。黄金色の部分。
って、それは今いいんだよ。
「えーっと、ご機嫌いかがです?」
テンパりすぎて妙なことを聞いてしまった。
人の言葉を理解するらしいから、とりあえず聞きたい事だけ聞いて……って、キツネ喋れないじゃん。コミュニケーションとれないじゃん。
「と、とりあえず聞くけれども、お腹空いてないですか?」
「キュ……」
「あ、空いてる?喉乾いてる?」
「キュウ」
「パンと水でいいですか?」
「キュイ」
「うん。今持ってくるね〜」
どうしよう。コミニュケーションとれちゃった。
とりあえずキツネの鳴き声が「コン」じゃない事は分かった。(当たり前)
でもキツネってキャーンとか鳴くって聞いたことあるぞ。うちの子キュイキュイ言ってんだけど。
……あれかな。普通のキツネじゃないからかな。
考えながらリビングに行ってパンと水をもってくる。
水も底の浅い皿に入れたので、こぼさないように頑張った。
そこからさらに頑張って扉を開け、カウンターに2枚の皿を置く。
「キュッキュウッ」
「おっ!?どうした?」
「キュイ!」
「なに、出たいの?分かった、分かったから暴れんなってば」
薬屋のカウンターでキツネと喋るとか、なんか怪しいな。怪しい構図だな。
パンにがっつくコガネを見ながらのんびりと考える。
それにしても、パンの大きさとコガネの大きさが合ってない。パン、デカイな。一番小さいの持ってきたんだけどな。
「コガネちゃんよ、そんなに慌てなくても誰もとらないよ。のんびり食べなよ」
「キュイ?」
「あ、コガネって、君のことね。勝手に名前付けちゃったけど大丈夫だった?」
「キュッ!」
「そうかそうか。それならよかった」
人の言葉を理解するというのは本当らしく、コガネはそれからゆっくりとパンをかじり始めた。
数分でパンは消え、コガネは水を舐めている。
……食べちゃったよ。自分の半分くらいの大きさがあるパン、全部食べたよこの子。
ちなみにコガネの全長は30センチくらい。
尻尾を入れると50センチくらいかな。
尻尾長めでお送りしております。
水も飲んで満足したのか、コガネはカウンターの上にのっけた私の手にすり寄ってきた。
……あれ?手懐けるの難しいんじゃなかったっけ?
なんかすごい懐いてるんだけども。
試しに指先で顔を突っついてみると、その指に戯れてきた。
おいおいおいおい。懐いてる!懐いてるよこの子!
簡っ単に懐いたよ!
……もしかして、私凄い?
どうもです。瓶覗です。
私は暇になるとアクセス解析を見に行くのですが、その前に小説情報をチラ見します。昨日もチラ見しました。
するとなんと!感想を書いて頂いていたのです!
初めての事なので、驚いたやら嬉しいやら驚いたやらで、(主成分驚き)「ふぇあぅ!?」という謎の声を出しました。
その後布団の上で一通り喜び、お風呂に入りました。左足の膝小僧に青タンができていました。
多分、はしゃぎ過ぎて自分で自分に肘鉄かましたものだと思われます。
そしてですね、その感想の中に「これゾン」という単語が出てきまして、多分アニメかなんかの略称だろうな〜とか思いながら気になって調べまして。
結果は予想通りアニメの略称だったのですが、小タイトルのつけ方が確かに私となにか似通っている感じでして、申し訳ない念に駆られてスマホに土下座しておりました。