68,Qここですか?Aそうみたいですね。
クリソベリルが帰ってきた翌日、私はヒエンさんから渡された注文の品を持って路面列車に揺られていた。
クリソベリルの拠点は東区にあるらしく、列車に乗るようにとヒエンさんから言われたのだ。
別に歩いてでも行けるらしいけど。
「えーっと……次か」
メモを見ながらのんびりと考える。
ちなみに今日の服装はエキナセアの制服だ。
店のお使いっていう建前だしね。
「降りてすぐの一番大きな建物か……」
「チュン」
「……うん。お願い」
モエギが探しておいてくれるらしい。
モエギはレヨンさんのところに行って、1日経ってから帰ってきた。
レヨンさんが返信を書き終えるのを待っていたらしい。
モエギが持って帰ってきた手紙には、薬の制作期間、金額に問題が無いことと、祭りで会えるのを楽しみにしている、という内容が書いてあった。
祭り……すごく、楽しみです。
「チュン」
「おかえり。早かったね」
「チュン」
モエギが帰ってきたタイミングで降りる駅に着いた。
……駅ではないかな?
うーん……ターミナル?
あれ?ターミナルと駅って一緒か。
……まあ、なんでもいいか。
「ではモエギ君。道案内お願いします」
「チュン」
私の斜め前を飛んでいくモエギを追いかけつつ、辺りを見渡す。
やっぱり南区とは雰囲気変わるな〜
なんだかんだ南区は観光地って感じだもんな〜
冒険者が使う施設はほぼすべて南区にあるし。
あ、でも西区の職人街とかには冒険者結構いるな。
装備の制作とかやってるのがほとんどその職人街なんだったか。
「チュン」
「お、ここ?」
「チュン」
モエギが肩に止まって目の前の建物に目を向ける。
ここか……なんかでっかい建物だな……
「えーっと、これ叩けばいいんだよね?」
「チュン」
なんだっけこれ。ノッカーっていうんだっけ?
たぶんそんな感じの名前だったな。うん。
それを叩く。
アニメとかで見てたから使い方は分かる……はず。
これで合ってるはずだ。
「大丈夫だよね?これで合ってるよね?」
「チュン。……チュッチュン?」
「あー……私の生まれたところはドアにこれ付いて無かったんだよ」
「チュン」
そんな会話をしていると、扉が開いた。
ちょっとビックリした。
出てきたのはジェードさんだった。
「アオイちゃん。どうしたの?」
「ヒエンさんに頼まれてご注文の商品をお届けに」
「ああ、なるほど……というかあれだな……多分もうすぐ来るな……」
「え?何がですか?」
「アヤメが。うっかりしてた……君の名前出した時点でアウトだ……」
ジェードさんはそう言って目を抑える。
いやいや、流石にそれはないでしょうよ。
だってこの建物めっちゃでかい……って、なんか足音近付いて来てない?え?マジで?
「アオイちゃーん!どうしたの?私に会いに来てくれたの?」
「わあ、アヤメさんだ。今日はエキナセアのお使いです」
ほんとに来たよ……
アヤメさん近くに居たのかな?
「あらそうなの?まあとりあえず上がって上がって。お茶しましょ?」
「いやいや、アヤメ、アオイちゃん今仕事中でしょ」
「あ、ヒエンさんに夕飯までに帰ってくればそれでいいって言われました」
「さすがハーブさん……」
ヒエンさんの許可が降りていることを知ったアヤメさんは私の手を引いて移動する。
それにしても広いなぁ……
「そういえば、今日はコガネちゃんと一緒じゃないのね」
「コガネちゃんは今日店番してますよ」
アヤメさんと手を繋いで歩きながら店を出た時のコガネちゃんの様子を思い出す。
コガネちゃん、無心でサクラをモフってた。
あれだ。ヒエンさんに同行を許可して貰えなくて拗ねてたんだ。
そして何も考えまいとしてサクラをモフりまくってたんだ。
今度一緒にどっか出かけよう。
「さあ、入って入って♡」
「お邪魔しまーす……アヤメさん、ここは?」
「応接間の1つよ。今日は来客の予定もないし使ってても問題ないわ」
そう言って通された部屋は、なんか豪華だった。
キラキラしてるわけじゃ無いんだけど、豪華。
なんだろう、品のいい豪華さっていえば伝わるだろうか……別に誰かに伝えなきゃいけないわけじゃないから伝わらなくてもいいんだけどね……
「お茶入れて来るわね〜」
「あ、はーい。お構いなく〜」
アヤメさんはルンルンしながら部屋を出ていった。
……座って良いのかな?
分かんないからカゴだけ置かせてもらおう。
「チュン」
「ん?どうしたの?」
「チュン、チュン」
「あー……じゃあアヤメさん帰ってきたら聞いてみようか」
「チュン」
そんな事を話していたらアヤメさんが帰ってきた。
手にはティーカップとティーポットを乗せたお盆を持っている。
「お待たせ〜座って座って」
「あ、アヤメさん」
「なあに?」
「モエギが外に出たいらしくて……窓開けても良いですか?」
「いいわよ」
アヤメさんは快く許可してくれた。
そして窓も開けてくれる。
「モエギ、呼んだら戻ってきてね」
「チュン」
モエギは返事をしてから外に出ていった。
多分屋根の上とかで日向ぼっこでもしてるんだろう。
「そういえば、このカゴの中身って何なんですか?」
「さあ……魔法薬かなにかだと思うけど……」
ソファーに座りつつ聞いてみるが、アヤメさんも知らないのか……
ヒエンさん、注文の内容は教えてくれなかったんだよね……
「リーダーに聞いてみましょうか」
「いいんですか?忙しいんじゃ……」
「リーダーは今日非番よ。それにリーダーが注文した物なんだし、呼んでも問題ないでしょう」
……確かに注文の品を届けに来たのにそれを放置してお茶会はどうなのよ、とは思ってた。
まあいいか、とも思ってたけど。
アヤメさんは立ち上がって壁に向かっていく。
何があるのかな?
「リーダー、アオイちゃんが注文の品届けに来てくれてるわよ。応接間に居るから」
じっと見てると、壁に埋め込まれた石に話しかけているようだ。
……魔法石?
「多分すぐに来ると思うわよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
アヤメさんはにっこり笑ってティーポットの中身をティーカップに移した。
……いい香りだな……
「いただきます」
……紅茶か。美味しい。
私は紅茶そんなに得意じゃ無いんだけど、この紅茶は本当に美味しい。
「アヤメさん、これ美味しいです」
「そう?良かった。なんか高いやつらしいわ」
マジかよ。そんな高級品を私みたいな庶民が飲んで良いのかな?
……よし。聞かなかったことにしよう。それがいいそうしよう
「おい、アヤメ」
「あら、リーダー」
全力で記憶を抹消していると、リーダーさんが部屋に入ってきた。
あ、そうだ。注文の品渡すんだった。
危ない危ない。この記憶まで抹消しちゃダメだわ。
「リーダーさん、こんにちは」
「おお、アオイちゃん。わざわざ悪いな」
こちらに歩いてきたリーダーさんにカゴを渡す。
このカゴ、大きさの割に重いんだよな。
「ねえリーダー、これの中身って何なの?」
「ん?アオイちゃん、聞いてねぇのか?」
「はい。聞いてないです」
「これは出血毒と呪い消しだ」
「出血毒……なるほど。陳列はされてませんもんね」
エキナセアでは危険な薬を売る時は信頼出来る人だと確かめてから、という決まりがある。
危ないしね。出血毒とか即死毒とか。
ちなみにクリソベリルは信頼しかないので全く問題ない。
「出血毒、呪い消し……ああ、なるほどね」
「アヤメさん?」
「リーダー、次の行き先分かったわ」
「ん、そうか」
行き先?
……あれかな?依頼でもあったのかな?
呪い消しが必要ってことは廃墟的な何かかな?
邪払いじゃないって事はそんなに怖いところじゃないんだろうな。
「アオイちゃん」
「ふぇ?あ、はい」
ぼんやりしていたらリーダーさんに肩を叩かれた。
すっごい気の抜けた声出しちゃったよ。
あー恥ずかしい。
「代金の支払いしてもいいか?」
「はい。……あ、でも私ヒエンさんから値段聞いてないんですが……」
「事前に聞いて用意してるから大丈夫だ」
ヒエンさん、私に渡す情報少なすぎでしょ……
お使い行くのに金額教えないとかアウトでしょ……
「この袋に入ってる。よろしく頼むな」
「はい。確かに受け取りました」
そんな会話をしていると部屋の扉が開いた。
入ってきたのはモクランさんだ。
……あ!指輪!
「あ、モクランさん。お邪魔してます」
「うん。玄関でアヤメが騒いでたから知ってるよ」
「そ、そうですか……」
モクランさん耳良いな……
あ、ハーフエルフなんだった。
「で、モクランさん」
「なに?」
「この指輪なんですが……」
「ああ……着けてるの?律儀だね」
「いえいえそんな……それでですね」
「うん」
「これ、魔導器なんですよね?」
「そうだよ」
やっぱりそうなのか。
コガネちゃんは正しかった。そもそも疑ってもないけど。
「……モクランさん」
「なに?」
「魔法教えて貰えませんか?」
「いいよ」
……軽っ!?
え!?いいの!?そんな軽くOKしちゃって大丈夫ですかモクランさん!?
「そもそもそのつもりで渡したんだしね」
「あ、そうなんですか?」
「うん。君はもう少し自衛出来た方がいいよ」
「……返す言葉もございません」
なるほど。自衛の為の魔法を教えて貰える、ってことか。
普通に嬉しいわ。
今私コガネちゃんと腕輪に頼りっぱなしだし。
これで少しでもコガネちゃんの負担を減らせるかな。
「魔法……私が魔法を使える時が遂に来たのか……」
「なにブツブツ言ってるの?というかまだ何の魔法を使えるようになるかは分からないからね?」
「あ、はい」
声に出てた……恥ずかしい……
いやでも、仕方ないよね?だって魔法だよ?
私、日本では半分廃人のゲーマーやってたんだよ?
嬉しくないはずないよね。
楽しみだなぁ……




