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06,Qこの馬車は何ですか?A旅商人の方のものです。

 異世界に来て1週間程が経過した。

 我ながら見事な適応力だと思う。

 なんかもう、ここエキナセアでの生活に完全に慣れてしまったようだ。

 最近の愛読書である【世界とは何か】(なんとシリーズものだった!)のおかげでなんとなくだがこの世界の常識的なものも理解した。


 帰る方法は探していない。

 元々、こっちの世界に来ていなかったら家に直帰してゲームに勤しんでいたであろう人間だ。

 剣と魔法のファンタジー☆な世界に来たのなら楽しまないと損だろう。


 そんな事を考えながらヒエンさん作の朝ご飯を食べ終え(ちなみに言っとくと、朝は毎日ヒエンさんが作ってくれるけど昼と夜は交代で作ってるからね?ちゃんと手伝ってるからね?)リビングらしいこの部屋の棚から【世界とは何か〜地理編〜】を抜き取って店に行く。


 読書は苦手だが、少しずつ少しずつ読み進めて、昨日最初に渡された本の1章を読み終えた。

 その1章の中に世界地図が描かれており、興味を持ってこの地理編を持ち出した、というわけだ。(エキナセアには【世界とは何か】が全巻揃っていた。)


 9時になったのを確認し、お店の看板を出してドアノブの札をopenにする。

 ヒエンさんは朝からなにかやっていて、ずっと作業部屋にいるようだ。


 今日はのんびり出来そうだな。

 そう思いながらカウンターの内側に座り、手に持った本を開く。


 予想に違わず、開店から1時間ほどお客さんは来なかった。10時頃に5、6人の冒険者っぽい人たちが来たくらいで、午前中はあくびを連発していた。


 現在時刻、午前11時。

 ドアの鈴が鳴る。


「いらっしゃいませ〜」


 手元の本から顔を上げ、開いていく扉に声をかける。

 現れたのは、ブロンドの髪を頭の後ろ、上の方で布で包んでお団子にし、それをリボンで留めている小柄な少女だった。

 ……いや、少女かどうかは分からんが。


「おや、ハーブの姐さんじゃないね」


 少女じゃないっぽい。

 なんかすごい大人びてる。


「ヒエンさんなら隣の部屋に居ますよ。呼んできますか?」


 そういった瞬間、ヒエンさんが顔を出した。

 ナイスタイミング。


「おやおや。チグサちゃんか」

「やあ、ハーブの姐さん。お久しぶり」


 やっぱりお知り合いだったらしい。


「なんだ、来てるなら早く言ってくれればいいのに」

「つい先程着いたのさ。ところで姐さん、その子は?随分と可愛らしい子だけれど」

「ああ、今うちで雇ってるの」


 2人が私の方を向く。

 なんだなんだ。


「へぇー、そうなんだ。まあいいや。

 それで姐さん、注文をしてもいいかい?」

「はいはい。どうぞ」

「ポーションとハイポーションをそれぞれ5箱ずつとメガポーションが1箱ほしい」


 ……!?箱買い!?

 初めて見た。箱買いする人初めて見た。

 エキナセアでは、ポーション系統のものなら1箱に50個入っている。

 それを5箱。250個。ハイポーションと合わせると500個。

 おかしい!量がおかしい!

 この人なに!?


「ん?どうしたんだい?」

「え、いや、あの、その、」

「ああ、なんでそんなに買うのかって?」


 なんで分かったんだこの人。

 とりあえずコクコクと頷いておく。


「ボクは旅商人なのさ。だからここでポーションを仕入れて、世界各国を巡る。巡ってる間に品薄にならないように、大量に仕入れていくのさ」


 なるほど旅商人か。

 でもそれって良いのだろうか。

 転売的な問題は大丈夫なのだろうか。


「チグサちゃん、その量となるとさすがに追加で作らないといけないわ。今回はいつまで滞在するの?」

「明日の朝に出発するよ。それまでにどうにかお願いできるかい?」

「そうねぇ、じゃあ、明日の朝、8時半にここに来て頂戴。それまでに用意するわ」

「ありがとう。毎度悪いね」


 ……どうやら良いらしい。

 ヒエンさん思いっきり承諾してるし。

 それにしても旅商人か。

 なんか興味あるな。


「あ、そうだアオイちゃん。お店、一旦閉めても良いからチグサちゃんに馬車見せて貰いなさい」

「馬車?」

「ボク達は馬車で旅をしながら商売をしてるからね。他に比べてかなり立派な馬車を使ってるんだよ」


 なにそれ見たい。

 すっごい気になる。


「……見てもいいですか?」

「どうぞどうぞ。この店の前に停めてあるよ」


 許可を得て、チグサさんにくっついて店から出る。

 すると、すぐに巨大な馬車が現れた。

 馬車を引くのは2頭の馬で、両方栗毛だ。

 馬車本体は縦に横にと兎に角でかい。

 何階建てだこの馬車。


「びっくりしたかい?」

「はい、すごいです」

「ふふふ。そうだろそうだろ。何てったって3階建てだからね!」

「3階!?……エキナセア2階建てなのに」


 エキナセアより階数多かった。さすがに建物より大きくはないけれども。


「すごいだろう?どんな過酷な環境にも対応出来るように、わざわざ特注で作ったんだ。ボクらアジサシの自慢の家さ」


 嬉しそうにチグサさんは言う。

 というか家なのか。

 でも旅してるってことはこの中で寝起きしたりするのかな?そうなると家でもいいのか。

 それより、聞き慣れない単語があった。


「……アジサシ?」

「ボクらの店の名前だよ。この馬車の名前でもある。移動型万能店『アジサシ』って言うんだ」


 万能店とは。なんか凄そう。


「万能店、ですか」


 気になった事は聞いてしまえホトトギス。


「そう。うちの店は移動型なのに人が多くてね。しかも1人1人が特技を持ってて、全部検証してみたら大体何でも出来るようになってた」


 意図した訳ではなくあくまで結果らしい。

 結果気付けば万能店になってたらしい。


「何でも出来るんですか?」

「大体は、ね。ボクは道具や宝石なんかの鑑定しか出来ないけど、他のみんながやたら強かったりやたら器用だったりするんだ」

「強いんですか」

「うん。強い。うちの店が有名になったのも、魔獣なんかを倒しまくって素材を取りまくって売りまくった結果だからね」


 とりあえず全部結果なのか。

 でも、すごいことに変わりはない。


「チグサさんが店主なんですか?」

「まあね。こんな小娘が店主じゃ相手にしてくれないところも多い。なのにボクが店主」


 チグサさんは笑っていう。

 すると、馬車のほうからフードを目深く被った人がこちらに歩いてくる。

 それを見たチグサさんは、


「ごめん、そろそろボクらの集合時間みたいだ。お喋りはまた次の機会にね♪」


 そう言って軽やかに去っていった。


 次の日、頑張っていつもより少しだけ早く起きた私はヒエンさんが昨日夜遅くまでかけて作ったポーションたちを運んでいた。

 まあ、入り口までなんだけど。

 それでもかなりの重労働だよ、これ。


 すべての箱を運び出したところで昨日の馬車がこちらに来るのが見えた。


「おはよう、ハーブの姐さん、アオイちゃん」

「おはよう。相変わらず凄い馬車ね」

「おはよーございます」


 ペコンと、頭を下げたら馬車の中から唐突に数人の人が出てきた。

 びっくりしてヒエンさんの右腕にくっつく。


「それじゃあアジサシさん、お支払いのほうよろしいかしら?」

「ああ、いくらになった?」


 ヒエンさんの右腕に私がくっついているのはスルーするらしい。……なんか駄洒落っぽいな。


「ポーションが50個入り5箱で2500ヤル、

 ハイポーションが50個入り5箱で7500ヤル、

 メガポーションが50個入り1箱で5000ヤル、

 合計で15000ヤルになりまーす」


 おかしい!値段おかしい!

 いや、おかしいのは数なんだけども、こんな高額聞いたことがないぞ!

 さあみんな、0を2つ増やして単位を円に直してみよう☆厳密には違うが、大体そのくらいの値段だよ☆

 この異常さが分かるはずだ。


「はいはーい。金貨でいいよね?」


 そしてサラッと金貨出すこの人もおかしい。

 金貨って普通見ないものだから!

 フツーに3枚とか出さないで!

 私の価値観がオカシイのかと思っちゃうから!


「あ、そうだアオイちゃん」


 支払いを終えたチグサさんが話しかけてきた。

 手には何か籠を持っている。


「これを君にあげよう。かなり珍しいものだけど、君があるじになるのが1番いいみたいだ」


 そう言って籠を手渡される。


「へ?あ、ありがとうございます?」


 受け取ると、なんとも軽やかなステップでチグサさんは馬車に飛び乗り、


「それじゃ〜ねぇ〜」


 と、手を振って去っていった。

 籠の中身は説明しないまま。

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