63,Q今日のは…?A完璧、ではないですね。
昨日買ってきた焼き菓子は本当に美味しかったな……
また食べたいな……
今日はそんな事を考えながら作業部屋でナベをかき混ぜている。
暑い……最近どんどん暑くなってはいたが、ナベ、つまり火の近くに居ると余計に暑い。
軽く死ねそう。
どうしよう、溶けそう。
そんな事をブツブツ呟きながらひたすらナベをかき混ぜる。
「暑い……暑すぎるでござりますよ……」
これは……首からかけられるタオルが必要だな。
あるかどうかヒエンさんに聞いてみよう……
日本に居たときは手ぬぐいとかガーゼタオルとかに小さい保冷剤を包んで、首の後ろに保冷剤が来るようにして結んでたんだよな……
あれ、かなり涼しい。
熱中症で倒れたら脇の下と首の後ろを冷やせって言うけど、前もって冷やしておくと暑い夏も少しばかり過ごしやすくなる。
「……でも、この世界に保冷剤とかないよな……」
氷の塊で代用……は、さすがにダメか。
なにか代用品がないかヒエンさんに聞いてみよう。
ヒエンさん、今どこに居るのかな?
なんか買い物行ってくるって言ってどっか行っちゃったけど……
なんか必要なものあったっけ?
……あ、あれかな?昨日作ってた「魔女の秘薬」かな?
まだ完成してないらしいから、それの材料の買出しとか?
「というか、魔女の秘薬ってなんだろう……」
帰ってきたら聞いてみよう。
……なんか聞かないといけない事が多いな……
質問リストでも作ろうかな?
そんな暇があるかどうかは知らんが。
「……さて。そろそろか……」
一人会話と脳内会議で時間を潰していたら、毒消しがいい感じになってきた。
……よし。濾し器に移そう。
今回はいい感じだぞ……ヒエンさん作の毒消しと同じ色合いになったぞ……
「えーっと、ビン……ビン……」
少しでも風通しを良くしようと物をどかしていたせいでビンの箱を見失った。
どこに置いたっけ?
……あ、あった。
「……って、あれ?柄杓どこだ?」
今度は柄杓が行方不明だ。
……こんなこと、前にもやった気がするな……
「あ、あった。……灯台もと暗し……」
結局柄杓はすごい近くにあった。
そんな事をやってる間に濾し器の中の毒消しがいい感じに落ちてきた。
柄杓を使って1本分だけビンに移す。
このタイミングで店からの扉がノックされた。
「アオイちゃん、そろそろ出来た?」
「おっ、ヒエンさんナイスタイミング。ちょうど出来たところだよ〜」
入ってきたのはヒエンさんだ。
手にはカゴを持っている。
帰ってきたばっかりなのかな?
「なら、今日の分を試してみましょうか」
「……はーい」
返事をしながら手元に麻痺毒を引き寄せる。
あと、ヒエンさんの毒消しも。
さて、今日はどうなるかな……?
「……どう?」
「うーんとね、ちゃんと効いたけど、効果が現れるまでにちょっと時間がある……かな?」
今までで1番いい出来ではあるのだが、完璧ではないって感じなんだよな……
なにがいけなかったんだろ?
首を捻っていると、ヒエンさんが残りの毒消しを大ビンに移し替えながら「おしい」と呟く。
「え?おしいの?」
「ええ。かなりね」
「……今回はなにがいけなかったんでしょうか……?」
「汗が結構入っちゃったみたいね」
……言われてみれば、入ってたかもしれない。
というか、ダラッダラに汗かいてたから入ってない方がおかしいかもしれない。
……でも、嫌だよな。人の汗が入ってる毒消しとか……
「ヒエンさん、首からかけられるタオル的なものってない?」
「そう思って買ってきたのよ」
「あ、今日の買い物ってそれだったの?」
「ええ。アオイちゃん、かなり暑そうだったから」
なんと。さすがはヒエンさん。
私の心の声が聞こえたのかな?
多分心の声なんて聞こえなくても言いたいことは伝わってたと思うけど。
それすなわち、「暑い、溶けそう」
「とりあえず魔石も買ってきたから」
「……魔石?」
「魔法石。魔法を閉じ込めた石よ」
「あ、この腕輪の石も魔法石だっけ?」
「そうよ。その魔法石に入ってるのは防御の魔法、この魔法石に入ってるのは氷の魔法」
「氷?」
「ええ」
「つまり、冷たい?」
「冷たいわ。タオルで包んで首の後ろを冷やしておけばだいぶ涼しくなると思うわよ」
「ヒエンさん、私、ちょうどそれをやりたかったのですよ」
やっぱりヒエンさん、私の心読んでる?
それとも単なる以心伝心?
「さて、アオイちゃん」
「なあに?ヒエンさん」
「今日の午後は店番の前に作業部屋の物を移動させるの手伝ってくれる?」
「分かったー」
私が散々動かしちゃったからね。
元に戻さないとね。
あとは、多分ヒエンさん、午後から魔女の秘薬を作るんだろうな。
……結局どんな薬なんだろう……
「ヒエンさん、魔女の秘薬ってどんな薬?」
「トップクラスに作るのがめんどくさい薬よ」
「……なんで今作ってるの?」
「注文が入ってね。作れる人が全然いないから、仕方なく私が作ることになったのよ」
「注文入ったなら他人任せにしようとするのやめようよ……」
「だってめんどくさいんだもの」
さすがヒエンさん。
スパッと言い切ったよ。
「作るのに1ヶ月かかるのよ?めんどくさいにも程があるわ」
「1ヶ月!?」
そんなにかかるんだ……
確かにそれはめんどくさそうだ。
「気になるならこれを読んでみるといいわ。作り方とか色々載ってるから」
ヒエンさんはそう言って棚から1冊の本を取り出した。
タイトルは、「古の書・魔」
……え、なにこのタイトル……
「ヒエンさん、この、最強の装備のレシピが載ってそうな本はなに?」
「古の世界の薬についての本よ」
「……古の世界?」
「この世界が今の形になる前の世界」
「うーん……分からん」
「詳しい事は王宮図書館に置いてある本に書かれてるわ」
「……それ、私見れないやつやん……」
「そんな事ないわよ。薬師試験の中級以上を取得すれば出入り出来るようになるわ」
マジか。
流石は世界統一試験だな……
「あれ?じゃあヒエンさんは出入り出来るの?」
「ええ」
考えてみれば、先代勇者さんの話になった時に王宮図書館で資料を読んだ、みたいな事言ってたもんな。
という事は、ヒエンさんは中級以上の資格を持ってるのか。
……何級なんだろう?
「で、アオイちゃん。そこの箱をこっちに持ってきてくれる?」
「はーい」
とりあえず今は物を動かすことに集中しようかな。
この箱、無駄に重いし。
「ヒエンさん、これどこに置くの?」
「窓の下に。それと、コルクの箱をその上に乗せておいて」
「はーい」
コルクの入った箱は軽いので、これは移動が楽だ。
そういえば、このコルクはどこから仕入れてるんだろ?
エキナセアの道具の入手ルートって、結構謎なんだよな……
「よし。とりあえずこんなもんでいいわ」
「ヒエンさん、物動かすの速くない?」
「筋肉のつき方の違いよ」
「そっか……」
私が2つの箱を動かしてる間に物を大移動させて広いスペースを作っていたヒエンさんの筋力とは?
ヒエンさん細いのに、どこにそんな力があるの?
エキナセアで1番謎なのはヒエンさんだな。
「それじゃアオイちゃん、お昼食べてらっしゃい。そのあと店番よろしくね」
「はーい。……ヒエンさん、この本借りてっていい?」
「いいわよ」
「ありがと〜」
ヒエンさんの許可をもらって「古の書・魔」を借りていく。
とりあえずお昼食べよう。
お腹空いた。
呟きながら庭を経由してリビングに入ると、テーブルの上にサンドイッチが置いてあった。
……うん、美味しそう。
「いただきます」
手を合わせてからサンドイッチに手を伸ばす。
パンに挟まれているのは、タレに漬け込んだ柔らかな肉と、シャキシャキとした歯ごたえの瑞々しい野菜。
これ、作ったのどっちだろ?
コガネちゃん作だとしたら短期間で料理の腕前上がりすぎな気がする。
なにが怖いって、完全に私好みの味付けなんだよ。
「ごちそうさまでした……」
美味しかった。
一息ついてから皿を片付けて店に向かう。
「コガネちゃん、お疲れ様〜」
「あ、主。お疲れ様」
「交代だぜ」
「うん。……あ、そうだ。私、店主からお使い頼まれてるから午後ちょっと出かけるね」
「はーい……って、ヒエンさん買い忘れでもあったのかな?」
「いや、店主が午前中に行ってたところとは遠いんだって」
「なるほど。サクラは?」
「連れてく」
「りょーかいです」
今日の店番は1人か……
ま、いいか。どうせ本読むつもりだったし。
1人でも店番は問題ないし。
「よいせっと」
カウンターの内側に座り、本を開く。
……あ、どうしよう、頭痛くなってきた。
文字が多い……そして細かい……
とりあえず目次を確認しよう……
「魔女の秘薬……魔女の秘薬……」
あ、あった。えっと……第4章か。
それにしてもこの本分厚いな。
何ページくらいあるんだろ?
かなりめくったのにまだ第3章だよ。
「お、あった」
だいたい半分くらいめくったところで第4章、「魔女の秘薬」を発見。
えーっと?
【第4章 魔女の秘薬
魔女と呼ばれる者は、大きく2つに分けられる。
〈白魔女〉と〈黒魔女〉だ。
魔女の秘薬は、白魔女が作り出した薬の最高位に位置する薬である。
黒魔女の魔法の最高位〈魔女の秘術〉を打ち消す事の出来る唯一の薬で、作る事の出来た者はほとんど居なかったと言われている。
そのため…………】
……疲れた。
ここまで読んで疲れた。
字が細かいよ……
魔女の秘術ってなんだよ……
というかなんでヒエンさんはこんなの作れるんだよ……
「目が痛い……」
背もたれによっかかりながら目を揉みほぐす。
あー……疲れた……
しばらくそのままの体勢で居ると、何かが窓を叩く音がした。
「んー?」
姿勢を正しながら窓を見ると、小鳥が1羽止まって窓を叩いている。
おや?どこの子かな?
窓を開けると、その小鳥は中に入ってカウンターの上に着陸した。
そして足を出してくる。
「なんだいなんだい」
足を見ると、紙が括り付けられていた。
それを外すと、小鳥は満足そうに鳴いて窓から外へ出ていった。
「……なんだろう?」
紙を広げてみると、1番下に見覚えのある名前が。
「あ、レヨンさんだ」




