61,Q美味しいですか?Aふぉぃふぃーれふ!(モグモグ)
ワックスフラワーは、エキナセアを出て大通りを門の方に歩いて行ったところにある。
現在時刻、朝7時50分。
のんびり歩いて朝市を覗けばちょうどいい時間になりそうだ。
「はー。今日も賑わってる」
エキナセアは大通りから一本裏に入ったところにあるので分からないが、大通りは朝市で大賑わいだ。
ふはははは!見ろ!人がゴミのようだ!!
……うん。あんまり楽しくないね。大佐ごっこ。
くだらないことしてないで行こう。
「さてと……あるかな?」
朝市は国外から入ってきた物も多く、売られている物も売っている人も様々だ。
見ていて楽しいし、安い物も多いので財布に優しい。
でもこの人混みは私に優しくないね。
人に流されそうになりつつ露店を見てみる。
期待はしてないけど、あったらいいな〜くらいの軽い気持ちで歩いていると、
「わあ、あった」
店発見。私の今回の目的の物であるハンカチを売っている。
「いらっしゃい、お嬢さん」
「こんにちは……ふぉ……」
綺麗だ……なんか、「上物」って感じだ。
「何かお探しかね?」
「えっと、薄い黄緑のハンカチを探してまして」
「ふむ……と、なると……これかね」
「あっ!そう!こんな色を探してたんです!」
おじいちゃんすごい!
なんで私の欲しいのが分かったの!?
と、孫のようなテンションではしゃぐ。
「おいくらですか?」
「2ヤルじゃよ」
お安い。ありがたく購入させていただこう。
ハンカチをポケットにしまい、おじいさんに手を振って露店を後にする。
まさかこんなに簡単に見つかるとは……
ルンルン気分で大通りを進み、脇道に入って時計を開く。
現在時刻、8時30分。
ワックスフラワーは開いている。
「よし!行くか!」
時計をポケットに入れて再び大通りへ。
こういう時だけは身長低くて良かったな……と思う。
人の隙間をすり抜けやすい。
どうにか人混みを進むこと約10分。
ワックスフラワーに到着だ。
もう少し昼に近ければこんなに混んでいないのだが、午後に予定があるから仕方ない。
とりあえず中に入ろう。
「いらっしゃいませ」
「アリアさん、おはよーございます」
「あらアオイちゃん。おはよう」
アリアさんは店内の作業台に向かって何か作業をしているところだった。
「今日はエキナセアお休み?」
「はい。定休日です」
話しながら作業台に近寄る。
作業台の上にはブローチが乗っていた。
どうやらこれの加工をしていたらしい。
「アオイちゃん、今日はどんなご用事で?」
「今日は髪留め、バレッタ的なものを買いに来たのです」
普段はお喋りしに来てますが、今日は買いに来てるのです。
いつもいつも仕事の邪魔をしに来てるわけではないのです。
まあ、喋る為だけに来ても怒らないどころか「創作意欲が湧く」と言ってくれるのがアリアさんなんだけどね。
「あら、自分用?」
「はい。自分用です」
「ならちょうど良かった。実はアオイちゃんに合うように作ったのがあるの」
なんですと!?
「見たい!見たい!」
「今持って来るわね」
アリアさんは微笑んで店の奥に歩いて行った。
楽しみだな。
私に合うようにってどんなだろうな。
ウキウキワクワクしながら待っていると、アリアさんが戻ってきた。
「これなんだけど……」
手の上に乗せているのは小さ目のバレッタで、飾りの部分がかなり凝っている。
金具と、飾りをつけるための透明な細い板の上には大小様々な星が散りばめられており、その星一つ一つにも丁寧な加工がされている。
一言で言おう。
一目惚れしました。買います。
「アリアさん、これおいくらですか?」
「あ、買う?」
「買います。買わせてください」
ポケットから財布を出す。
アリアさんは少し考えてから、
「55ヤル、ね」
と言った。
……もしかして、今考えた?
「アリアさん、アリアさん、安すぎませんか?」
「そんなこと無いけど……」
アリアさんがいいと言うならいいが、明らかに55ヤル以上の手間が掛かってる気がする。
言っても仕方ないので言わないが。
そんなわけでお金を渡し、バレッタはそのまま受け取る。
すぐ着ける。今着ける。
渡されたバレッタを前髪に着ける。
「アリアさん、どうですか?」
「思った通り、いや、思った以上に綺麗ね……ちょっと待ってて、鏡取って来るから」
アリアさんが奥へ行ってしまった。
なぜ鏡?確かにどんな感じなのか見てみたかったのでありがたいが、あんなに急いで取りに行かなくてもいい気がする。
「お待たせ。見てみて」
考えている内にアリアさんが戻ってきた。
渡された手鏡を覗いて、驚いた。
私の前髪が夜の空になっている。
バレッタに散りばめられた星が真っ黒な私の髪に浮かんでいる様に見え、なんというか凄く綺麗。
「す、すごい……」
「私もこんなに綺麗に見えるとは思って無かった……」
2人でポカンとしている。
……あ、そうだ。
「アリアさん、私、今日はもう一つ相談があったんです」
「何かしら?私に出来る事なら何でも言って」
「実は、この花びらを装飾品に加工したくて……」
言いながら時計の中の花びらを取り出す。
アリアさんは髪留め以外にも装飾品の加工なんかもしているから、出来るならお願いしたかったのだ。
「綺麗な花びら……ネックレス、にしてみる?」
「おお!お願いしてもいいですか?」
「もちろん。そうね……遅くても来月には出来るから、次の休みにでも取りに来て」
「わかりました!」
やった。アリアさんが作るものは全部綺麗なので、精霊花がどんなネックレスになるのか楽しみだ。
はやく来月にならないかな……
「それじゃあ、またね」
「はい!さよなら!」
手を振ってお別れする。
とりあえずエキナセアに帰るとしますかね。
帰って時間をつぶして、午後一で焼き菓子食べに行こう。
そんな事を考えながら帰路につく。
コガネちゃんはパン焼き終わったかな?
というかパン作りってどのくらい時間かかるんだろ?
今度聞いてみよう。
「うおっ」
「あ、すいません」
「あ、いえいえ、こちらこそすいません」
考えながら歩いていたら人にぶつかってしまった。
相手の人が優しかったからいいものの、武器を持っているのが普通のこの世界、下手したら攻撃されてしまう。
今後気を付けよう……
「ふう。着いた」
ぶつかった衝撃で入った道がエキナセアへ続く道だったのは幸運なのかなんなのか。
まあ着いたから何でもいいや。
「ただいま〜」
「ピィ!」
「おやサクラ。外に居たんじゃ無かったの?」
「ピッピッ!」
「おお、そうなのか。ありがとう」
私が帰ってきたのを発見して中に入ったらしいサクラを肩に乗せ、リビングに向かう。
「そういえばモエギは?」
「チュン」
「わぁっ!?あ、ビックリした……」
「チュン」
「いや、いいのよ……私がビビリなだけだから……」
扉を開ける直前でモエギ発見。
肩に乗せて移動する。
「コガネちゃん、ただいま〜」
「あ、主。おかえり」
リビングに入ると、コガネちゃんが近寄ってきた。
なんだろな。
「もうすぐ焼けるよ」
「もう?パン作りって生地を置いとかないといけない……とか無かったっけ?」
「魔道具で時間短縮」
「その手があったか」
なるほど。それははやく焼ける訳だ。
ちなみに何パンなんだろう?
「ちなみに二種類焼いてるよ」
「コガネちゃん、心読んだ?」
「読んでない」
コガネちゃん、最近私の疑問に先回りして答える技術が上がってる気がする。
そんな技術磨いても何にもならないだろうに。
「あ、そろそろだ。」
コガネちゃんは呟いてオーブンの前に移動する。
後ろ向いてたのに分かるの?
それも魔法か何か?
それとも勘ですか?
「主、焼けたよ」
「おお……美味しそうな香りが……」
「ピィ……」「チュン……」
とてもいい香りがリビングに充満する。
なんだこの幸せ空間……
そんな事を考えていたら、ぐぅぅ……とお腹が鳴った。
……お腹空いた……
「主、食べる?」
「おっ!いいの?」
「うん。どうせ食べてすぐには焼き菓子買いに行けないでしょ?」
「それもそうだね。いただきます」
手を挙げながら言ったら、座る様に促された。
とりあえず座る。
するとお皿に乗ったパンが出てきた。
……なんだろう、この至れり尽くせり感は……
「主、前髪綺麗」
「あ、これね、私をイメージして作ったんだって」
「そうなんだ。似合ってる」
「ありがと〜」
嬉しい。そしてパン美味しい。
コガネちゃんパン作り上手だな……
「このパン凄く美味しいよコガネちゃん……すごいね……コガネちゃんは何でも出来るんだね……」
「ありがとう。でも何でもは出来ないよ」
コガネちゃんは言いながら焼きたてのミックスベリーパンをちぎってサクラとモエギに与えていた。
ちなみに私が食べてるのは塩パン。
程よい塩加減でついつい手が伸びる美味しさです。
塩が混ぜ込んであるので、この時期の熱中症対策にもオススメの1品に仕上がっております!
……って、私は誰に対して宣伝してるんだろ?
まあいいか。そのくらい美味しいってことだ。
「コガネちゃん、おかわりある?」
「はい」
「ありがとう」
聞いた瞬間におかわりが出てきた。
コガネちゃん、準備良すぎ……そんなところも大好きです……
その後10分程パンを食べ続け、やっと腹の虫が収まった。
「ふぅ〜美味しかった……」
「ピ!」「チュン」
「喜んで貰えたようで何よりです」
そう言うコガネちゃんは現在お皿を洗っている。
手伝おうと思ったんだけど、断られた。
流し台狭いから1人の方が早いって言われた。
全く言い返せなかった。
そんな訳で私はイスに座ってぼんやりしている。
現在時刻は午前11時。
1時間くらいぼんやりしてから出掛けようかな。
「チュン」
「うん?どうした?」
「チュン、チュチュン」
「ああ、なるほど。行ってらっしゃい」
「ピィ!ピッピッ!」
「はいはい。行っていいよ」
モエギとサクラが腹ごなしついでに焼き菓子の店までの混み具合を確認してきてくれるそうだ。
これなら空いている時に移動できる。
さすがモエギ。頭いい。
鳥は頭が悪いとか、あれ絶対嘘だよね。
モエギも頭いいし、そもそも烏とかインコとかすごい頭いいもんね。
そんな事を考えながら2羽を送り出す。
これで2羽が帰ってくるまで待機していればいいだけの話。
財布の中身はちゃんと入ってるので、特にする事も無いしね。
コガネちゃんとお喋りしてようかな。




