幕間 悲しみの赤い鳥
第一大陸にある、魔界に近く人には厳し過ぎる土地。
その赤く燃える厳しい土地を、一人の少女が歩いていた。
どこか鳥を思わせるその少女は、ゆっくりとした歩調で燃える地を進む。
「はあ……私は、戦闘向きではないのに……」
ため息をつき、それでも足は動かし続ける。
少女の目には5キロ先、普通の人間には点にすら見えないであろう光景が少女の目にははっきりと見える。
「……堕天龍なんて、私の獲物じゃないよ……うう……」
天の使いであり、神の代行者である龍は、本来清く澄んだ鱗をしているのだが、少女の目に映る龍の鱗は黒ずんでいる。
堕天。神の元を離れ、闇に身を落とす行為。
そもそも存在するだけで多大な影響を及ぼす龍が堕天したらどうなるか。
加護を与えるのではなく、災害を引き起こすようになる。
人を守るのではなく、人を喰らうようになる。
とにかく、危険すぎる生物なのだ。
そして、腐っても龍。
その力は強大で、人などいくら集まろうが一瞬で消し炭にされてしまう。
「せめて、みんなと一緒だったらな……」
少女はつぶやく。
その声には、悲しみは感じられるが不安や恐怖は感じられない。
世界を滅ぼす堕天龍を前にして、少女はただため息をつく。
「戻りたいなぁ……昔に」
昔なら、仲間と共にいたあの頃なら、堕天龍なんて目じゃなかった。
今でも負けはしないが、後に残るのは悲しみだけだ。
仲間と一緒なら、達成感や、喜びの念も湧き上がってくるだろうに。
そんな事を考えている間にも、堕天龍との距離は縮まっていく。
堕天龍の視界に、少女が入った。
龍は威嚇の声を放ち、それでも速さを変えずに近付いてくる少女に向かって飛びかかった。
そして、全てを薙ぎ払うその爪を振るう。
龍が放った爪での一撃は、確かに少女の身体を捉えていた。
だが、いつの間にか龍の目線の位置まで跳躍していた少女は擦り傷すら負っていない。
龍が驚きに目を見開くのと、少女が懐から短剣を取り出すのが同時だった。
「ごめんね。堕天してしまったから、私は貴方を殺さないといけないの」
言いながら、少女が剣を抜き放つ。
その剣は、かつて少女の仲間がくれたもの。
少女の象徴である、鳥を掘り入れたもの。
その斬れ味は劣ることを知らず、その刃は欠けることを知らず、その鋼は曲がることを知らない。
そんな、人の生み出す最高傑作とも言える剣を、少女は一瞬の躊躇いも持たずに抜き放ち、かつては守り神だった龍に向けた。
少女の目に、龍を殺す事への躊躇いはない。
そこにあるのは、深い悲しみの念だけだった。




