59,Qどうかしましたか?Aヒエンさんの様子が…
ヒエンさんからの追加のお使いはガラス工房への注文だった。
ついでにサクラとモエギを紹介してこい、とも言われたらしい。
工房の人がサクラとモエギの事を覚えてくれれば、2羽に注文表を運んで貰えばわざわざ工房まで行かなくても良くなる、という考えらしい。
つまり楽したのか。そうなのか。
いや、確かに効率的ではあるんだけども。
でもなんかヒエンさんが提案するとサボりたいだけに思えてくる……なんでだろ?
「主、着いたよ?」
「あ、うん」
無駄な事を考えているうちに到着したようだ。
コガネちゃんと手を繋いで工房に入る。
「おーやーかたー」
「ん?おお、アオイちゃんにコガネちゃん。どうしたんだ?」
「注文と紹介」
「紹介?」
親方がこちらに歩いてくる。
サクラとモエギは状況を察して肩から手の上に移動して来ていた。
「今度から、この子たちが注文に来ることがあると思うので、よろしくお願いします」
「ピッ!」「チュン」
「おお、なんだ可愛いな」
親方が顔をほころばせる。
……もしかして動物好きなのかな?
「……ん?もしかしてこいつらか?最近ガルダの中を可愛らしい鳥が2羽飛び回ってるって噂になってるんだが……」
「え、そんな噂に立ってたんですか?」
「チュン……チュン、チュン」
「なるほど、サクラが騒ぐせいか。サクラ、めっ」
「ピッ」
「まさかアオイちゃんのお供だったとはなぁ……」
親方がしみじみと呟いている。
そんなに心を込めて言うことか?
「親方、親方、これ注文表」
「ん?おお、そういえば注文に来たんだったな」
「……親方、忘れたの?」
「いや、そんな事もないが……」
私は忘れてたぜ。コガネちゃんさすが。
コガネちゃんがしっかりしてるおかげで私のダメ度はうなぎ上りです。
「主はちょっと反省しようか」
「はい」
怒られた。
というかなんでコガネちゃんは私の考えてる事が分かったのかな?エスパーなのかな?
「主、忘れてたって顔に書いてあったよ」
「え、マジすか」
「マジっす」
そんなにわかりやすいのか、私。
コガネちゃんが敏すぎるだけではなくって?
「ん?大ビンなんて何に使うんだ?」
注文表を見た親方が首を捻っている。
……あ、それ、私用だな。多分。
「私が作った失敗作の毒消し入れる用だと思いますよ」
「失敗作……アオイちゃん、次の試験受けんのかい?」
「はい」
「そうかそうか。頑張れよ」
「はーい」
そこで奥から人が親方を呼びに来たのでお暇する事になった。
相変わらず忙しいね、親方。
ここ人気店だから仕方ないんだろうけど、エキナセアのゆるっゆるの接客に慣れちゃうとすごく大変そうに見える。
まあ、エキナセアがゆるすぎるだけなんですがね。
「よーし、帰りますか」
「おー」「チュン」「ピィ!」
ノリがいい。さすが私のお供たち。
そんなわけでエキナセアに帰還する。
ガルダの中央通りを歩きながら周りを見渡すと、多種多様な髪や目の色をした人たちが目に入る。
「ねえねえコガネちゃん」
「なに?」
「この世界の髪と目の色って、何色が一般的なの?」
「うーん……茶色とか金とか……その間の色とかかな。でも赤とか青とかも結構いるよ」
「なのに黒はいないのか……」
国外の人だと思われる人たちの視線が痛いでござります。
なんかもう最近は慣れてきたけどやっぱり怖いからやめて欲しいのでござります。
「……潰すか……」
「コガネちゃん!?サラッと怖いこと呟くのやめよう!?」
「だって……主……あいつら嫌そう……」
「だからって潰しちゃダメだよ!?」
コガネちゃんが怖い。
今、目線で人を殺せそうだった。
……アヤメさんからそんな術を習ってたり……してない、よな?
今のコガネちゃんの目線で私を見てた人たちが一斉に目を背けたよ?
「こ、コガネちゃん、早く帰ろっか」
「チュン、チュン」
「ほら、モエギもこう言ってるし」
「うん。分かった」
コガネちゃん、案外独占欲強いよね。
私が獣人少女とかクリソベリルとかと絡んでる時はそうでもないけど、全く知らない人と関わるのは嫌がるよね。
なんでかな?クロシロちゃんとクリソベリルは身内判定なのかな?
「チュン」
「うん。お願い」
「ピィ!」
「はいはい」
あと数分でエキナセアに到着するので、2羽が先に帰還報告をしに行った。
特に意味が無いとかは言っちゃいけない。
世の中には言っていいことと言っちゃダメなことがあるのです。
「あ、そうだコガネちゃん」
「なに?」
「今度の休みにサクラとモエギも連れてお出かけしようぜ〜」
「いいけど、どこに行くの?」
「中央通りにある焼き菓子のお店」
「やった」
「あ、行きたかったの?」
「中央通り歩く度にお腹が鳴ってた」
「なるほど、行きたかったんだね」
コガネちゃんはキツネだから人間より嗅覚が鋭い。
つまり私以上にあの香りが気になっていたんだろう。
と、次の休みの予定が埋まったところでエキナセアに着いた。
「ただいま〜」
「ただいま」
扉を開けると、カウンターの上にサクラとモエギ。
ヒエンさんの姿が見えない。
「あれ?ヒエンさんは?」
「ピィッピー!ピッピッ」
「奥に行ったって……なんかあるのかな?」
「チュン、チュンチュン」
「考え事ねぇ……」
ヒエンさんが考え事をしている図……あれ?どうしてだろう?悪巧みしてるようにしか見えない気がする。
まあ、これは私の中のヒエンさん像が酷すぎるだけで実際は考え事くらいするだろう。
邪魔するのは悪いかな?
でも一応お使い完了の報告したいんだよね……
「うーん……」
「主?」
「……コガネちゃん、私ちょっくらヒエンさんに報告に行ってくるね」
「ん。行ってらっしゃい。店番は任せろ」
「うん。任せた」
親指を立てて言ってくれたコガネちゃんに、親指を立てて返事をする。
さて、奥って言ってたけど部屋かな?
とりあえず2階に行ってみる。
「ヒエンさーん」
部屋をノックするが、応答なし。
「ヒエンさーん?」
試しにドアノブを回してみる。鍵はかかっていないようだ。すんなり開いた。
中を覗くがヒエンさんはいない。
「む。部屋では無かったか……」
と、なると。
「庭かな?」
先にそっち見てくれば良かったな……と思いつつ階段を降りて庭に向かう。
リビングを通過して庭に続く扉を開けると、ヒエンさんが居た。
居た、ん、だけど……あれ?
なんか違和感があるような……ないような……
ヒエンさんは庭の真ん中で、どこか遠くを見ているようで、なんかいつものグダーっとした雰囲気が欠けらも無い。
なんか別の人みたいだ。
「だ…………が……あ…………第…………」
小声で何か呟いているが、よく聞き取れない。
うーん……ここでヒエンさん見ててもどうにもならないし、声かけるか。
「ヒエンさーん」
「……あら。アオイちゃん。おかえり」
「ただいま〜お使い全部終わったよ」
「ありがとう。店番、お願いしていい?」
「いいけど、ヒエンさんは何やってたの?」
「嫌な気配がするから、落ち着かなくてね」
「あー。コガネちゃんとサクラのお使いのやつか」
「ええ。なにか分かったみたい?」
「うーん……よく分からなかったって。嫌で強大な魔力だって言ってたよ」
「そう。ありがとう」
報告も終わったのでとりあえず店番に戻る。
……なんか雰囲気違うんだよな……
目の色も若干違った気がするんだけど……光の当たり具合かな?いつもより色が濃かった気がする……
うーん?なんだろうな……
考えながら店に戻る。
「主?」
「ん?」
「考え事?」
「いや、考え事ってわけでもないんだけど……」
カウンターに座って首を捻っていたらコガネちゃんが至近距離に来ていた。
近い。可愛い。
「なんかね〜、ヒエンさんがいつもと違う気がして……」
黙っててもどうにもならないのでコガネちゃんに相談してみる。
「店主が?……魔力はいつも通りだけど……」
「じゃあ私の勘違いかな?」
なんだろな〜この、釈然としない感じは。




