57,Qどうですか?Aマシにはなったんですけどね…
毒消し制作練習2日目。
今日も午前中は毒消しを作っている。
今日はしっかり混ぜたぞ。
ヌマスグリの数もしっかり数えた。最初に。
「そろそろかな……」
いいながら鍋の中を覗き込む。
おっ、色が変わったぞ。
柄杓!柄杓どこ!?
あ、あったあった。
「危ない……」
近くに置いたはずの柄杓を見失うという事件が発生した。(ちなみに、鍋をかき混ぜているのは木べらの巨大なヤツである)
まあ、見つかったからいいですけどね……
「よーいっせ!」
気合いを入れて鍋の中身を濾し器に移していく。
重い。でもこれは慣れているのでそんなに大変じゃない。
重いことには重いが、ポーション作りでもさんざんやった作業なのでちゃっちゃと終わらせてしまう。
移し終わったら待機だ。
「ビン……ビン……」
待機……しようと思ったのにビンの箱を見失った。
どこだ?というか今日はやけにものを見失うな……
「おっ、あった」
ビンの箱は物の下敷きになっていた。
上に乗っている物……ヌマスグリの入った籠をどかして箱の中からビンを1本取り出す。
コルクはちゃんと手元にあったので今度こそ待機。
「アオイちゃん」
「あ、ヒエンさんだ」
待機していると、庭からヒエンさんが入ってきた。
「どうしたの?ヒエンさん」
「そろそろ出来る頃だろうと思って」
「ああ、確認か」
「そういう事よ」
話している間に濾し器の中の毒消しはほとんど下に落ちきっていた。
小さな柄杓を使ってビンに移し、作業台の上に置く。
その横に麻痺毒とヒエンさんの作った毒消しを栓を抜いた状態で置く。
「……ゔ〜」
「唸っても駄目よ。アオイちゃん」
「……はーい……」
ヒエンさんに言われて麻痺毒を手に取り、左腕にかける。
……おお、痺れてきた痺れてきた。
ここで私が作った毒消しを左腕にかける。
さあ今日の出来はどうかな!
……昨日よりはマシだが完全には効いてないね!!
腕がビリビリするよ!!
言っててもしょうがないのでさっさとヒエンさん作の毒消しをかける。
うん。すごくよく効く。
さすがヒエンさん作だね。
「どうだった?アオイちゃん」
「昨日よりはマシだね。でも成功はしてないね」
「確かに、まだ少し色が薄いわね」
「……本当だ……なにがいけなかったのか……」
「今日は混ぜすぎね」
「なんとまあ……」
毒消し制作めんどくさいな。
混ぜすぎとかあるのか。
「ちなみにヒエンさん、どのくらい混ぜれば良かったの?」
「今日のアオイちゃんの9割くらい?」
「そんな微々たる差なの!?」
「めんどくさいのよ。毒消し制作」
「……本当にめんどくさいね……」
「慣れればどうにでもなるんだけど……慣れるまでが大変なのよ。アオイちゃん、ファイト」
うう……頑張るけどさ……頑張りはするけどさ……出来る気がしないよね……
「あ、アオイちゃん、残りの毒消しはこのビンの中に入れておいてちょうだい」
「はーい」
「終わったらお昼ご飯食べちゃって」
「はーい」
ヒエンさんは庭に出て行った。
庭で何かしてるのかな?
「さてと、やりますかね」
とりあえず、言われた通り残りの毒消しを大きなビンに入れていく。
このビン何個くらいあるんだろう?
昨日もこれと同じようなビンが出てきてたよな?
後でヒエンさんに聞いてみようかな……
考えながら毒消しを移し変えていると、ヒエンさんが戻ってきた。
「あれ?ヒエンさんどうしたの?」
「ちょっとね。アオイちゃん、お使い頼まれてくれない?」
「いいよ〜」
ちょうど毒消しも移し終わったしね。
今日のお使いはなんだろな?
「ありがとう。じゃあこれお願い」
渡されたメモを開くと、
〈内容、アンデットスライムの毒採取(2ビン分)
報酬、500ヤル
パーティー指定なし〉
と書かれている。
……あれ?これってもしかして……
「あの、ヒエンさんこれ……」
「ギルドでクエスト発注してきて」
「えっちょっ」
「お昼食べてからでいいから」
「こっコガネは」
「別のお使い頼んであるの。もう出発したわ」
「なんですと!?」
「サクラちゃんもいないわよ。コガネちゃんが連れてったから」
なんという……相変わらず隙を与えない……
……はあ。とりあえずお昼食べよ……モエギはいるみたいだから連れていこ……
「モーエギー」
庭に出て呼んでみると、小さな萌木色の物体が空から降ってきた。
「チュン」
「おおモエギ。お昼ご飯食べた?」
「チュン(まだです)」
「じゃあ一緒に食べよ〜そしてその後ギルドに行くから付いてきて」
「チュン(わかりました)」
コクンと頷いて了解してくれるモエギ。どうでもいいけど、モエギは頷くというより前のめりになってるように見えるんだよな。
丸いからかな?
「今日のお昼なんだろうね〜」
「チュン、チュッチュン(さっき店主さんがパン焼いてましたよ)」
「おお。ヒエンさん特製パンか」
「チュン……(ミックスベリー……)」
「気に入ってるね〜ミックスベリーパン」
まあ確かにヒエンさんの作るパンはなんでも美味しいもんね。
こないだのミックスベリーパンは最高でしたよ。
でも私の中で頂点はバターロールなのです。
あれは他のどんな店にもない味わい深さなのでござりますよ……
「さてさて……」
庭を通ってリビングに入る。
机の上には小さなミックスベリーパンと普通サイズのバターロールが皿の上に乗って置いてあった。
……さすがヒエンさん。
つまり好物作ってやるから機嫌直してギルド行ってこいって事ですね。
うん。分かった。私頑張るよ。
「美味しいかい?モエギ」
「チュン!」
「ね〜美味しいね〜ほんとにヒエンさんパン焼くの上手だわ」
「チュン、チュンチュン?」
「うん。私は焼けないよ。……今度教わろうかな……」
でもお米が食べたい。
……ヒエンさんに聞いてみよう。この世界、米がないのかどうか。
ついでに味噌と豆腐がないかも聞いてみよう。
わかめはありそうだしね。
「チュン?」
「ん?ああ、なんでもないよ」
そんなに物思いに耽ったような顔してたかな?
考えた事はどうでもいいような事なんだけど……モエギも心配性だな。
「さて!食べ終わったし行こっか」
「チュン」
お皿を片付けてメモをポケットにしまい、店への扉を開ける。
嫌だが仕方ない。モエギもいるし、頑張るとするでござります。




