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05,Qお出かけですか?A街を散策してきます。 2

 ニヤニヤしているヒエンさんの後ろにくっついて歩くこと約5分。大きな建物の前にいた。


「……ヒエンさん、ここ?」

「そう。ここ」


 ギルド、らしい。この大きな建物。

 こんなところに入るのか。なんか怖いな。敷居高いな。

 だがしかし。ヒエンさんが入って行ってしまっているのだ。となればコガモのように後ろをついて行くのが異世界に来てしまった私の宿命。仕方ない。


「ヒ、ヒエンさぁん、ここにいる人、なんかみんな怖いよ〜」


 入った直後なにやら謎の威圧を感じた。

 結果完全にヒエンさんにくっついて歩くことになってしまった。

 ……だって怖いんだもん。しょうがないじゃん。


「大丈夫よアオイちゃん。みんな見た目ほど怖くないから」


 ヒエンさんは自分の右腕に引っ付いた私に微笑みかけて「クエスト発注」という看板のかかった窓口に歩いていく。


「こんにちは、アスター嬢」

「あらハーブさん、お久しぶりです」


 クエスト発注の窓口に座っているお姉さんとヒエンさんが親しげに話し始めた。


「今日もむさ苦しいね。ここは。おかげで連れが怖がってるよ」

「まあ、ギルドですからね。そこは仕方ないです。……それにしても、ハーブさんが人を連れてるなんて珍しいですね」

「ああ、この子、うちの店で働くことになったの」


 ヒエンさんに促され、窓口のお姉さんにペコンと頭を下げる。ヒエンさんの右腕に引っ付いたまま。


「あらあらあら可愛らしい。いやぁ、いいですね〜和みますね〜」


 窓口のお姉さんは頬に手を当てて口元を緩めている。


「アスター嬢、今度からこの子が来ることになるから、その時はよろしくね」

「はーい。任されました〜可愛い子なら大歓迎で〜す」

「え、ヒエンさん、私ここに1人で来ることになるの?死ぬよ、精神的に死んじゃうよ」


 こんな、目があっただけで殺されそうな人がたくさんいるところに日本の平和という名のぬるま湯に浸かってた私が1人で来て無事で済むはずがない。


「大丈夫ですよ〜エキナセアの制服を着てれば誰も手なんて出せませんよ〜」


 窓口のお姉さんはふわふわ笑ってそんな事をいう。


「さてアオイちゃん、これからクエストの発注をするからよく見ててね」

「はーい」


 反射で返事をしながらヒエンさんが本気で私にここへのおつかいをさせようとしている事を知る。


「あ、アオイさんと言うのですね〜覚えました〜」

「そ、アオイちゃん。で、アオイちゃん、この人はアスター嬢。クエスト発注の窓口はアスター嬢の担当だから怖がらなくていいわよ」


 ヒエンさんが窓口のお姉さん改めてアスターさんのことをサラッと私に紹介してアスターさんに向き直る。


「さてと。それじゃアスター嬢、クエストの発注をお願いね」

「は〜い。ハーブさん、今回は何のクエストですか?」

「薬草を大袋に3つほど取ってきて欲しくてね」

「ほー、そりゃまた大量ですね〜そこまでとなるとなかなか大変ですよ〜」

「その分報酬も多くするわよ」

「わーハーブさん太っ腹っ!で、報酬はいくらに致しますか?」

「150ヤルでどう?」


「わあ本当に太っ腹っ!了解で〜す。

 それじゃあ確認させて頂きますね。

 依頼は薬草を大袋3つ分取ってくること。

 報酬は150ヤル。

 クエスト受注者はいつも通りエキナセアに行って貰うということでよろしいですか〜?」


「あ、今日はこのまま街を散策するから、クエストの受注は明日から受付にして貰える?」

「はーい、お安い御用です。それじゃ、ハーブさん依頼人のところにサインをお願いしまーす」


 ヒエンさんはアスターさんの書いていた書類の「依頼人」の欄に「エキナセア」と記入してペンを置いた。


「はい、クエスト発注完了です」

「アオイちゃん、分かった?」

「……ヒエンさんが内容を紙に書いてくれればどうにかなるかと」


 報酬やらなんやらは私では決められない。

 だがヒエンさんが笑って頷いてくれたのでその心配は大丈夫そうだ。


「ふふふ。それじゃ〜またのお越しをお待ちしておりま〜す」


 アスターさんに手を振られ、ペコンとお辞儀を返してヒエンさんにくっついてギルドを出る。


「さてと、アオイちゃん。買い物しましょ」

「買い物?何か買うのヒエンさん」

「アオイちゃんの普段使いの服が必要でしょう?ちょっと見に行きましょう」


 ギルドから出て右腕から離れた私の手を引いてヒエンさんは楽しげに歩く。


「そういえばヒエンさん。ヒエンさんの名前のハーブってあのハーブ?」

「そう。あのハーブ。ハーブはもともと薬草としても扱われてたのよ」

「へぇー」


 なるほど。だから薬屋。

 薬屋さんだからハーブなのか、ハーブだから薬屋さんなのか。どちらだろう。


「さあアオイちゃん。アオイちゃんにぴったりの、可愛い服を見つけましょ♪」


 ヒエンさんに手を引かれて連れてこられたのは、店全体から可愛いオーラが出ている(気がする)服屋だった。


「ヒエンさん、駄目だ。敷居が高い」

「大丈夫よ。アオイちゃんはどこにいっても受け入れられるから」


 いや、大丈夫じゃなんですよヒエンさん。

 私は普段着Tシャツにジーパン(履き古し)の女ですよ?無理だわ。ふつーに無理だわ。

 ……別に可愛い服に興味がないわけじゃないけどね?


「はいはい行くわよ〜」

「あーれぇー」


 ヒエンさんに半分ほど引きずられながら店の中に入ると、いらっしゃいませ〜といった店員さんが固まる。

 ……これは、あれか?なんでこんな奴が入ってきてんだ的な感じかな?

 そんな私の予想を裏切るように、店員さんがものすごい笑顔で近づいてきた。


「いらっしゃいませ〜今日はどんな服をお探しですか?もしよろしければお手伝いいたしますが〜?」

「ああ、この子の普段使いの服を探してて」

「なるほど普段着ですか、少々お待ちくださ〜い」


 店員さんが笑顔で去っていく。

 そしてすぐに笑顔で戻ってくる。


「こちらなどいかがでしょう?」

「どう?アオイちゃん」

「ヒエンさん、可愛すぎやしないかい…?」

「そんなことないですよ〜むしろお客様には地味すぎるくらいかと」


 店員さんがなにやら謎の言動をしている。


「うーん。そうだねぇ、アオイちゃんが嫌なら、もう少しシンプルなのにしようか」


 さすがヒエンさん。話しが分かる。

 そして地味をシンプルに言い換えるあたりさすが。


「分かりました〜ではシンプルな物を何着かお持ちしますね〜」


 店員さんが笑顔で去っていく。

 そしてすぐに(以下略)


「これはどうでしょうか?」

「ヒエンさん、シンプルになってないよ。変わってないよ。同じだよ」

「そんなことないよアオイちゃん。レースとかリボンとか少なくなってるじゃない」

「私のなかでは同じだよ!」


 悲痛な叫びが通じたのか、店員さんは1番シンプルなのを持ってくると言って今持ってきた服を抱える。


 店員さんが笑顔で去っていく。

 そして(以下略)


「これならどうですか?」

「アオイちゃん、これならいいんじゃない?」

「うん、これなら……」


 店員さんが持ってきたのは淡色のワンピースで、なかなかもってシンプルだった。

 結局色違いの服を3着ほど買い、店を出る。

 あんなに振り回したのに笑顔を保った店員さんすごい。


「さて。アオイちゃんお腹空かない?」

「うん。空いた。言われてみればすごい空いた」

「じゃあお昼にしましょうか」


 そう言ってヒエンさんが立ち寄ったのは、露店のパン屋さん。

 一言二言話して、ヒエンさんは両手に1つずつサンドイッチのようなものを持って来た。


「はいアオイちゃん」

「ありがとうヒエンさん」


 受け取ってかぶり付く。

 ……美味しい。挟まってるお肉のジューシーさといい、シャッキシャキの野菜といい、なんかもう最高です。


「ヒエンさん、これすごく美味しいよ」

「よかった。私も好きなのよ」


 ヒエンさんは笑って頷く。

 ……ちょっとまってヒエンさん食べ終わってるんだけど。え?はやくね?


 その後、サンドイッチを食べ終わりかけたころにヒエンさんが消えた。

 慌てて周りを見渡すと、どこからかふらりとヒエンさんが戻ってきた。両手に何かをもって。


「はいアオイちゃん。食後のデザートに」


 そう言って渡されたのは小さなうつわに入ったシャーベット。

 受け取って一口食べる。


「……ヒエンさん、この世界何もかも美味しすぎるよ!太るよ!太っちゃうよ!」

「いいながら食べるのねアオイちゃん」


 そういうヒエンさんはもう半分ほどシャーベットの量が減っている。この人食べるの速い。


 そのあともフラフラと街を歩き回り、日が暮れ始めたころにヒエンさんがやってきたのは私が最初に寝ていた草原のような丘だった。


「ヒエンさん、ここに何かあるの?」

「ええ。最高の夕日が見られるわ」


 ヒエンさんが指さす方向を見て、思わず声が漏れた。


「……きれーだね」


 我ながらまぬけなコメントだとは思うが、それしか言えないのだ。

 私の拙い語彙力では言い表せない景色だった。


「ヒエンさん」

「なあに?アオイちゃん」

「私、異世界来てよかったわ。うん」

「そう。よかった」


 その後夕日が半分ほど沈むまで、ヒエンさんと並んでただただ夕日を眺めていた。

アオイちゃんの設定は、

『日本では普通よりちょっと可愛いくらいだけど異世界の人にとってはどストライクな子』

です。


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