48,Q終わりましたか?Aはい。かなり時間がかかりましたが。
「そのまま直進して〜」
「おう!」
「間合い入ったよ〜」
「了解!」
ファルさんののんびりとした指示にテキパキと答える騎士団の方々。
それでも、30分ほど経った今でも倒せたのは5体のうち1体のみ。
私はやることがないので、サクラとモエギと話している。コガネ君は絶賛駆り出され中だ。
「あ、ルルク君、氷の壁って作れる〜?」
上を見上げて聞いたファルさんに、ルルクさんはコクンと頷いて答える。
「じゃあ、あの岩を中心に、結界内を両断してくれる?」
「……ん」
やはりコクンと頷いて答える。
そして、頷いた次の瞬間にはファルさんに指定された岩に向けて杖を構えている。
「おーい、そっち危険だよ〜逃げて〜」
「えっ!?は!?危険!?」
「ファルさんもうちょい詳しく説明しよう!?」
「時間な〜い」
騎士団の方々はファルさんの言葉足らずな説明に戸惑いながら馬車の近くに戻ってきた。
岩の近くに誰もいなくなったところで、ルルクさんが杖を振った。
すると、岩を中心に氷の壁が現れて、結界内を2つに分けた。
「結界、あんな高さまであったんですね」
「ね〜。ルルク君も高く張ったなぁ〜」
「というかファルさん」
「なーに?」
「なんで壁作ったんですか?」
「向う側にはウルフ族いなくなったから、いい機会だと思って」
「それ、結界縮めるだけじゃだめだったんですか?」
「結界って、一回張っちゃうと縮めたり広げたり出来ないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。一旦解除してから張り直さないといけないんだ」
なるほど。一旦でも解除してしまえばウルフ族に逃げられるってことか。
というか、結界保ちながら氷の壁とか作れちゃうルルクさんって、すごい人なんじゃ?
「ファルさんファルさん」
「なーに?」
「ルルクさんってすごい人ですか?」
「うん。めっちゃすごい人」
まじか〜どのくらいすごいのかな?
「ちなみにだけど、クリソベリルくらいすごかったりするんだよ」
「まじか!?」
そりゃすごい。分かり安くすごい。
そんなことをのんびり考えていると、窓枠にコガネ君が着地した。
「主」
「うん?どうしたコガネ君」
「サクラ貸してくれ」
「いいぞよ」
指にサクラを止めて差し出す。
この半日くらいで分かったのだが、コガネとサクラは相性がいいらしい。
コガネはよくサクラを構っているし、サクラも暇になるとコガネに擦り寄って構って貰っている。
モエギはそんなサクラを微笑ましそうに見ている。
「ありがとう。ちょっと借りる」
「うい。……どうするの?」
「ウルフ族の索敵に」
「出来るの?」
「ピピッ!(多分!)」
「多分かぁ〜そっか」
「魔力波は使えるから出来る……はずだ」
つまり確証はないらしい。
でもまあ、サクラ暇してたし。もしも出来る可能性があるなら試してみればいいさ。
そんな思いを込めて窓枠から馬車の屋根に移動したコガネと、その肩に止まるサクラに手を振る。
「気を付けてね〜」
「分かった!」
「ピッ!(うん!)」
「チュッチュン!(本当に気を付けて!)」
「ピイ!(分かってる!)」
この半日くらいの間にもう一つ分かった事がある。
モエギはサクラの事に限り心配症だ。
「モエギ〜そんなにサクラが心配かい?」
「チュ、チュンチュー(あいつは何回か馬鹿な事をやらかしてるから)」
「馬鹿な事とは……?」
モエギによるとサクラは過去に、前を見ずに飛んで物にぶつかること約15回、急に飛び出して物にぶつかること約10回、強風が吹く日に風に乗ろうとしてもみくちゃにされること約8回、他の魔力持ちの縄張りで騒いで追いかけ回されること約50回……等々、色々馬鹿な事をやってるらしい。
モエギはサクラと2羽で行動することも多かったので色々心配らしい。
「なるほどね〜……そりゃ心配だね」
「チュン……(学習能力壊滅的……)」
そんな会話をしていると、サクラの叫び声(?)が聞こえてきた。
ビィィィィィィッ!!
と。
「何事!?」
「チュッ!?(サクラ!?)」
「主、サクラがウルフ族に追っかけられてる」
「はあ!?」
「いや、サクラが楽しげ〜に飛んでたらウルフ族が潜伏やめて追っかけてきた」
「何故に!?」
「分からん」
「チュッチュッチュン!?(とりあえずサクラ助けて!?)」
「ああ。行ってくる」
目線の先ではサクラがウルフ族(2体)に追いかけられている。
騎士団の方々は、口をあんぐりと開けてそれを見ている。
いや、まあそうなりますよね。
だって普通はウルフ族潜伏始めたら最後まで出てきませんもんね。
そんな追いかけっこにコガネ君が乱入。
サクラを捕まえつつウルフ族に切りかかる。
……あ、騎士団の方々に剣かりたんです。なぜか剣を。
白キツネ、魔法攻撃が普通なのに。
ことごとく固定観念をぶち壊して行きます。
うちのコガネ君。
「ビィィィィィィッ!!!??」
「落ち着け」
「ビィィィッ!!ビィィィッ!!」
「だから落ち着け」
完全にパニック状態のサクラを右手で捕まえて、ウルフ族を1体撃破。
もう1体は再び潜伏状態に戻った。
「主、どうにかしてくれ」
「ん?私?」
「ああ」
「モエギ、どうにか出来る?」
「チュン(出来ます)」
「お願いします」
コガネの手の中で暴れるサクラを受け取ってモエギに差し出す。
すると、モエギはサクラの顔を翼でぺしぺしと叩き始めた。
……まさかのショック治療?
かと思ったが、よく見ると羽の先のフワフワしたところで叩いているらしい。
しばらくすると、
「……ピ?(……ん?)」
「チュン(戻りました)」
「まじか。すげぇ」
サクラが平常心を取り戻した。
さすがはモエギさん。サクラの事に関してはレヨンさんより詳しい。
「と、いうわけで主。サクラもっかい借りてくぞ」
「ん?また?」
「ああ。サクラは主と似たような体質らしい」
「……つまり、最高の囮だと?」
「そういうことだ」
事実、サクラを駆り出すようになってから10分少々でウルフ族討伐は終わった。
なんでこれまでサクラ無しで討伐しようとしていたのか疑問に思うほど早く終わった。
「いやあ、助かりました」
「私、なんにもしてないですけどね」
「いえいえ、アオイさんの契約獣なわけですから」
「うーん……そんなもんなんですか?」
「そんなもんなんですよ」
そして今は、馬車の中で休みつつのんびりお喋りに興じていた。
「とりあえず、ありがとうございました」
「いえいえ、私は本当になにもしてないですから」
「主、こういうのは否定せずにこちらこそ、とか言っておくのが一番だ」
「はーい」
なぜか私よりも人間関係を円滑に進める術を知っているコガネ君の忠告はありがたく聞いておくとして、
「えーっと、この後ってどうなるんでしたっけ?」
「ケートスに向かいます」
「あ、そうだった」
「ボクたちはケートスのお偉いさんに道の安全を確保したって報告に、アオイちゃんたちはケートスで馬車を探すんだっけ?」
「ああ。馬車と、店主の知り合いが店を開きに来ているらしいからそれを探すんだ」
そういえばそんな事をヒエンさんが言っていた気もする。
普段は別の大陸にいるヒエンさんのお知り合いがちょうどケートスに来ているから買い物してこい、って言ってた気がする。
「主、人の話はちゃんと聞こう」
「分かりました」
そんな会話の後、馬車が走り始める。
ヴィスリさんは自分の馬車に帰っていった。
コガネ君はここにいる。
ここにいてサクラと遊んでいる。
ファルさんはとうとう寝てしまった。
すごく幸せそうな寝顔だ。
なんか夢でも見てるのかな?
「チュン?」
「うん。ケートスに一泊するよ」
「チュー、チュン」
「お?そうなの?」
「チュッ!」
「じゃあ、お願いしようかな」
暇な私は、モエギとケートスに着いた後の事を話していた。
モエギが言うには、私とコガネ君が買い物をしている間にサクラと手分けして宿を探してくれるらしい。
そもそも情報収集のために飼われていたからそういう事には慣れている、らしい。
「……早く着かないかな〜?」
そんな話をしていると、楽しみになってくる。
「船の国」ケートス。
名称だけではイマイチ分からない国の風景を想像しながらモエギを構いつつ、私は馬車に揺られていた。




