45,Q出発しますか?Aはい。ケートスを目指します。
サクラとモエギがお供に加わって2日目。コガネちゃんは今日も朝から錬金術師さんの家に行っている。
私は2羽の小鳥たちを両肩に乗せてレヨンさんと喋っていた。
「アオイちゃんたちはあと何日くらいキマイラにいるの?」
「予定では明日までです」
「へぇ〜案外早く帰るんだね」
「今回は、って感じですけどね」
「あれ?また来るの?」
「一回来ただけじゃ錬金術は身につかない、らしいです」
「なるほど。まあ、来たら寄ってってよ」
「はいっ!」
レヨンさんは話しながら手に持ったペンをクルクル回す。
このペンが、例の鉄板を彫る用のペンらしい。
軽い凶器だ。
「ところでレヨンさん、今は何を書いてるんです?」
「んー?ああ、これは物語だよ」
「物語……本格的に作家始めたんですか?」
「いや、情報屋の片手間に」
「片手間……」
「あはは。なんだいその顔は?」
「いや、片手間で書けるものなんですか?」
「実際書けてるぜ〜」
「……ちなみに、どんな物語ですか?」
「異世界から来た人間の話だよ」
「え、レヨンさんの話ですか?」
「違う違う。自分の話なんざ書かんよ。私は全く関係ない人間が冒険する話」
「冒険するんですか?」
「その方が心躍るじゃん?」
「そういう問題ですか?」
「そういう問題だよ」
でも異世界人の冒険って、結構ありがちな題材だと思うんだけどな。
そこら辺は無視なのかな?
「日本じゃ書き古された題材でも、この世界じゃ異世界があるってこと自体が目新しいからね〜反響が楽しみだ」
「レヨンさん、私の心読みました?」
「ん?読んでないよ?」
「そうですか……」
びっくりした。読まれたかと思った。
レヨンさんなら読めてもおかしくない感じがするから余計びっくりした。
でもそうか。異世界自体珍しいのか。
「ちなみにどこを冒険するんですか?」
「日本」
「……へ?」
「日本を冒険する」
「……え?」
「この世界の人間が、日本を冒険する話」
「……そっち!?」
「当たり前じゃ〜ん」
「当たり前……?」
「この世界に来るんじゃ面白くないよ。この世界から旅立とうぜ」
「だい、じょうぶなんですか?」
「なにが?」
「いや、異世界あるとか分かったら色々と面倒なんじゃ……」
「大丈夫だろ。誰も異世界なんて信じないって」
「そうですかね?」
「アオイちゃん、こっち来る前信じてた?」
「……信じてないや」
「だろ?平気平気。誰も魔法のない世界なんて信じないよ」
「わあ、魔法がないから信じないのか」
そっか。魔法があるのが普通の世界で異世界って言うと、逆に魔法がない世界なのか。
それはなんとも面白い。
読んでみたいな。
「いつ発売するんですか?」
「さあ、いつになるか……とりあえず1年は後かな」
「結構先ですね……」
「いや、案外すぐかもよ。アオイちゃんはなんだかんだ慌ただしい日々を送りそうだからね」
「うっ……否定出来ない……」
確かに今日まで色々とあり過ぎてあっという間に過ぎているという真実がある。
多分これからも色々あるだろう。私、闇側の奴らに狙われるらしいし。
「ピッ!」「チュン」
「そうだね。君らも来たしね」
そう。お供も増えているのだ。
更に騒がしい日々になるのは間違いないのかもしれない。
……そういえば。
「サクラとモエギは何を食べるの?昨日は結局レヨンさんが食べさせてたから私分かんないよ?」
「ピッ、ピィピピッ!(色々……あ、私はパンとかが好き!)」
「チュンチュ、チュー(僕は果物とか……)」
「なるほど。つまり果物入りのパンがベストアンサーか」
この世界の動物って雑食多いのかな?
コガネちゃんは普通に人間状態で私と同じ物を食べてるし、この子たちもだいたいのものは食べそうだ。
指先でモエギを突っつきながら考えていると、玄関の扉がノックされた。
「おや、お客さんかな?」
「私、引っ込んだ方がいいですか?」
「いや、そこに居ていいよ」
「分かりました〜」
レヨンさんでがそういうならここに居よう。
情報屋って何するのか気になるし。
「いらっしゃい」
「こんにちは、ベールさん」
「おや、久しぶりだね。またなんかあったのかい?」
「ええ、今回はこの魔獣の生息地をお願いします」
どうやらお客さんは冒険者で、常連さんのようだ。
なかなか良い装備だな。上級な感じの人かな。
エキナセアは冒険者のお客さんが多いので、装備の善し悪しまで分かるようになった。
ちょっと得な気分だ。
「ふうん……ウルフ族ねぇ……また面倒な奴を受け持つねぇ?」
「ええ。これでも騎士ですから」
「面倒な役職だね〜騎士とは」
「でもまあ、好きでやってる事ですからね。俺からしたらベールさんの方こそ面倒な事に首を突っ込んでると思いますよ」
「はっはっは。違いない」
なるほど。騎士さんか。なら装備が上物なのも納得だな。
というか、ここは情報屋で使う用のテーブルからは死角になるようだ。騎士さんは私に気付いてない。
そんな事を考えながらレヨンさんと騎士さんを覗いていると、レヨンさんが大きな紙を取り出した。
地図のようだ。
「ウルフ族は、最近になって生息域が大きく変わってね。前はここからここまでだったんだけど、今はこっからここまで」
「なるほど……だから商人の馬車が被害を……」
「ここはケートスから一番の近道だからね」
「生息域が変わっているなんて、普通は分かりませんからね」
「だが、あなたが狩るんでしょ?」
「そうなりますね。新たに道を引くか、魔獣を倒すかと言われたら後者でしょう」
「そうだねぇ……ちょっとお待ちな。明日まで」
「いいですが……なにかあるんですか?」
「ついでにウルフ族の強さも調べといてあげるよ」
「あ、ありがとうございます……で、なにをお望みですか?」
「私の友人がケートスに向かうから、途中まで同行させて」
……私たちのことか。
そういえば昨日、帰りはラミアじゃなくてケートスを通って帰るって話したな。
でも流石にアウトじゃね?一般人だよ?私。
「えっ……危険ですよ」
「大丈夫よ〜1人はめっちゃ強いから。……もう1人は最高の囮よ」
「レヨンさん!?私囮なの!?」
思わず声を出してしまった。
騎士さんがびっくりしてこちらを見ている。正確には私の前にある衝立を。
「意図せずとも囮になっちゃうでしょうに」
「それは……そうだけど……」
「あ、あの、ベールさん?」
「ああ、そこの裏にさっき話してた友人がいるのよ。1人だけだけど。そんなわけでアオイちゃん、出てきていいよ」
「うっ……はーい」
流石にこれで出ていかないわけにはいかない。
見てる限り騎士さんはいい人みたいだし、別にいいかな。
覚悟を決めて衝立の裏から出る。
「……これは……」
「可愛いでしょ?」
「可愛いというか美しいというか神々しいというかなんというか……」
「そうなんだよね〜いやあ、完璧」
「なっなんの話ですか!?」
私が机の横に移動すると、騎士さんが惚けたようになにかを口走った。
ついでにレヨンさんも。
「アオイちゃん自覚無いもんね」
「なんのですか!?」
「アオイちゃんさ、この世界の人間すべての好みのどストライクなんだよ」
「……へ?」
「非の打ち所のない美しさとはまさにこのこと……」
「この騎士さんには超どストライクだったみたい」
「ごめんなさい、レヨンさん、理解が追いつかないです」
その後は放心状態から戻ってきた騎士さんと3人で同行の件について話し合ったのだが、コガネちゃんがいないと結論は出せない事に気が付いた。
うちの戦闘可能者ってコガネちゃんだけですし。
そんなわけでコガネちゃんが帰ってくるまで待機。
今日はお昼までって言ってたからそろそろ来る頃だろう。
「……ただいま」
「おっ、コガネちゃん!おかえり!」
「よし。コガネちゃん、ここに座ろう」
ただいまでいいのかな?みたいな感じで入ってきたコガネちゃんを即刻席に座らせる。
「……どうしたの?」
「明日のケートスまでの事でね、詳しくはレヨンさんが説明してくれるよ」
「見事な丸投げ。まあいいでしょう。
コガネちゃんとアオイちゃん、明日ケートスに向けて出発するでしょ?その時に騎士団と一緒に行って欲しいんだわ。今、ケートスまでの最短ルートがウルフ族の生息域に入っちゃってて、それを退治しがてら」
「……いや、うち、主いるし……」
「なにその、捨て猫見つけた時のうち金魚いるから……みたいな感じは」
「主の弱さは誰より分かってるつもりだから」
「うーん……なんだろう悲しい……」
コガネちゃんに言われると三割増で悲しい……
「とりあえず、身の安全は保証する。君は相当強いらしいから、ぜひ協力してもらいたいしね」
ここまで黙っていた騎士さんがコガネちゃんの説得に入った。
コガネちゃんは一瞬考えてから、
「主がそれでいいならそうする」
と、いつも通り丸投げしてきた。
「うーん……じゃあ、ご一緒させてもらいますか」
「分かった」
「流石アオイちゃん。話がわかる」
「ありがとうございます。じゃあ、明日の朝に」
騎士さんが帰っていく。
コガネちゃんは騎士さんに手を振ってから私に向き直り、
「なにかあったら主は私が守るからね!」
とガッツポーズをした。可愛い。そして頼もしい。
とはいえ、コガネちゃんに頼り切りなのも駄目な気がする。どうにかして自分の身くらい守れればいいんだけど……
まあ、今考えてもしかたないな。
そんなわけで翌日の早朝、レヨンさんに大きく手を振って門に向かう。
隣には臨戦態勢でコガネ君になってるコガネが、両肩にはサクラとモエギが乗っている。
そんな状態で、目指すはケートス、船の国だ。




