38,Q着きましたか?Aはい。キマイラ到着です。
地竜を倒して地竜の鱗らしい岩の塊を(私以外の)全員で運び、それを馬車から出したソリのようなものに括りつけてそのソリを馬車に付けたら再出発だ。
馬に負担がかかり過ぎるのではないかと心配していたのだが、クリソべリル所有の2頭の馬は涼しい顔で走っていた。
すごい。
「それにしても強いですね〜」
「そうかな?周りも皆こんな感じだからあんまり自覚がないんだよね」
「ジェード、それおかしい」
「そうだね。ジェードは自覚なさ過ぎ」
「いや、モクランさんも大概だと思いますが……」
「俺はちゃんと認識してるから」
「さいですか……」
今はジェードさんが手綱のターンなのでその周りに集まって喋っている。
アヤメさんは見張りです。
まあ、それは置いといてさっきから私が気になっている事と言えば、
「ところで、コガネ君とジェードさん、めっちゃ仲良くなってません?」
「ああ。ジェードと話すのは楽しい」
「まあ、同種だしね」
……ん?同種?
え?ジェードさん狐なの?見た目ただの人間だけど?
「ジェードは狐獣人のクオーターだよ」
「母方の祖母が狐獣人なんだ。人間の血が4分の3だから、見た目では分からないだろうけどね」
「えっ!?マジっすか」
「マジっす。主、気付いて無かったのか?」
「普通気付かないでしょ……」
なるほどね。同種だったから懐いてたのね。
というか獣人のクオーターって産まれるのか。
いや、普通に産まれるか。獣人って普通に人型だし。
というかエルフも人間と交わるんだから獣人のクオーターもおかしくはないな。
……ん?考えてみれば、クリソべリルの方々って人外多くね?
「獣人クオーターにハーフエルフですか……」
「アヤメは鬼だけどね」
「え!?そうなんですか?」
「嘘だよ。アヤメは普通の人間」
「モクランさん、分かり辛い嘘付かないで下さい……」
「うん……アヤメなら鬼でも納得しちゃうよね……」
「ジェードはなんでそんなに疲れてるんだ?」
「コガネには分からなくていい事情があるんだよ……」
「そうなのか」
ジェードさんはアヤメさんに何かされたんだろうか。
それとも暴れるアヤメさんを止める役をやらされたんだろうか。
私のイメージだとアヤメさんのストッパーはモクランさんなのだが。
「なに?私の噂?」
「うわぁ!?」
「うひゃぁ!?」
「ああ。アヤメ。時間?」
「ええ。……ジェードとアオイちゃんは一体何に驚いてるの?」
「アヤメさんが急に現れたので……」
「そんなに驚くことかしらね〜」
唐突に背後に現れたアヤメさんは首を傾げて、ジェードさんから手綱を受け取る。
私はともかくジェードさんがあんなに驚いてるのが不思議らしい。
まあ、そうだろう。根がビビリでチキンな私と違ってジェードさんは普段何事にも動じないし。
そんなジェードさんはいそいそと後ろに引っ込んだ。
「アオイちゃん、なんの話してたの?」
「クリソべリルの強さが異常って話です」
「異常かしらね?」
「異常ですよ」
アヤメさんも自覚がない人か。
アヤメさんが一番異常だと思うのだが。
鬼化するし。
「ところでアヤメさん、キマイラまではあとどのくらいですか?」
「もう少しよ。ガルダからラミアに行くよりラミアからキマイラに行くほうが時間はかからないのよ」
「近いんですか?」
「いいえ。距離は同じくらいね」
「ん?ではなぜ?」
「ガルダからラミアに最短距離で行こうと思うと、魔物の大通りに当たるのよ。だから周り道をしないと行けないんだけど、ラミアからキマイラは最短距離で突っ切れるから時間がかからないの」
なるほど。異世界ならではの事情だ。
そんな事を言っている間に、気が付けば灯棒が見え始めた。
本当に時間のかかり方が違う。
キマイラに入国すると、クリソべリルとはお別れだ。
クリソべリルはこのあと隣の大陸に行くらしい。
「ありがとうございました」
「いえいえ……やっぱり私もここに残ろうかしら……」
「アヤメ、それはやめて」
「アヤメいなくなったら前衛が消えるから」
ごねるアヤメさんとどうにかお別れし、走り去っていく馬車が見えなくなるまで手を振り続ける。
さて。ここからが今回の旅の本題なのだ。
「主、俺はこのまま錬金術師の家まで行くが、主はどうする?」
「うーん……行っても邪魔になるだけだろうしな……国の中を彷徨いてるよ。コガネ君、終わったら私のこと見つけられる?」
「ああ。それは大丈夫だが……」
「いざとなったら私も錬金術師さんの家まで走るよ」
「分かった」
ヒエンさんに描いてもらった地図を片手にコガネ君と別れる。
ラミアのような失敗はもうしないぜ!
と誓って。
……まあ、誓ったところでどうにもならないとは思うがそれは無視だ。
「さて。どこをどう巡ろうかな〜」
キマイラは高低差の激しい地形で、どこを歩いても平らな地面がない。歩けるところは全て階段か坂道だ。
ちなみに国を囲む塀もデコボコしていた。
そんな慣れない地形に苦労しながら(ガルダは国全体として平たいのだ。)ちょこまかと動き回り、なんとなく平たい原っぱに出た。
「おお!涼しい!」
歩き回って汗をかいていたので、冷たい風が吹くこの原っぱが桃源郷にすら思える。
「ふひぃ〜涼しぃ〜」
原っぱに腰を下ろして涼んでいると、なんか目線を感じた。
不思議に思ってあたりを見渡すと、なんかいる。
ヨダレを垂らして私を見ている。
……え〜っと?これは、あれかな?私、また狙われてるのかな?
「グルァ!!」
「やっぱりか!!」
逃げよかと思ったが、座ってしまったので立ち上がるにも時間がかかる。
いや、立ってたとしても犬みたいな見た目のアレから逃げられる気はしない。
あー……今度こそバッドエンドかな?
考えた矢先、犬型の魔物に何かが刺さった。
犬型さんはキャインッと鳴いて逃げていった。
「君、だいじょ〜ぶ?」
声のした方を見ると、1人の女の人が立っていた。
どうもです。瓶覗です。
昨日、感想にて間違いを指摘して頂きました。
いやあ、有り難い。
今後もなにか至らぬ点がありましたら指摘して頂けると幸いです。




