19,Qどうでしたか?Aやりました。
世界統一認証薬師試験・初級
試験日、本日。
開始時間、午前10時。
「アオイちゃーん。準備出来た?」
「……うん。出来た」
「主、顔が死んでる」
エキナセアでは、朝からバタバタと準備が進められていた。
私の試験の準備だ。
え?早くね?もうちょっと余裕あったはずじゃね?
まだ先だと思っていたのに、気付いたら試験日になっていた。
「さて。それじゃ行きましょうか」
「主、行ってらっしゃい」
「ウン。逝ッテクル」
「主、カタコトになってる」
「アオイちゃん落ち着いて。召されるの方の字になってるわ」
うわあ、なんでだろう。高校受験より緊張する。
行きたくないよー。なんか恐いよー。
「……コガネちゃん、一緒に行かない……?」
「駄目よアオイちゃん。同行者は連れて行けないわ」
「キツネになれば……」
「なるほど、それなら行けるかも。さすが主」
「行けないわ。そもそも白キツネ連れて行ったら大騒ぎよ」
最後の足掻きもむなしく終わり、ヒエンさんに手を引かれて店を出る。
ちなみに今日の服装はエキナセアの制服だ。
試験を受ける際の身元証明人とかいう人がヒエンさんだから、これでいいんだとか。
私的にもこの方が落ち着くのでありがたい。
「アオイちゃん、あそこが試験会場よ。受験用紙は持ってるわね?」
「えーっと、これ、だよね?」
「そう。それを受付に出して、あとは審査員の指示に従って」
「はーい……」
「大丈夫よ。……あ、そうだ」
ヒエンさんはポケットから何かを取り出して、私の耳にくっつける。
「お守り。装飾品は着けてて大丈夫だから」
「これは、イヤリング?」
「そう。ちょっとした魔法もかけてあるわ」
「魔法?どんな?」
「ほら、もう行かないと」
魔法のことは教えて貰えなかった。
というか、見せてもらう前に着けられたからどんな形をしているのかすら分からない。
とりあえず会場に向かって歩きながら、触って形を確かめる。
……分からん。これどんな形だよ。
「受験者の方ですか?」
「あ、はい。そうです」
「受験用紙の提示をお願いします」
受付のお姉さんに言われて、ポケットから紙を出す。
「……はい、受験番号3224ですね。左側の扉からお進み下さい」
判子の押された紙を受け取り、言われた通り左側の扉から中に入る。
扉を開けると、1人の若い男の人が立っていて、私を見て近づいてきた。
……なんか恐い。
「受験番号を伺っても?」
「あ、えっと、3224、です」
「こちらへ」
促されて、前を歩く男の人について行く。
……あ、分かった。無表情+高身長がものすごい威圧感を出してるから恐いんだ。
後ろをついて行くだけならあんまり恐くないや。
「呼ばれるまでこの部屋で待機して下さい」
「あ、はい。分かりました」
通されたのは、机とイスだけが置かれた狭い部屋。
入ってきた扉とは別にもう1つ扉があったので開けてみるとトイレだった。
……緊張でお腹がゆるくなる人とか用かな?
それともめちゃくちゃ長い時間待たされるのかな?
そんなどうでもいいことを考えながら、洗面台に近づく。……あ、鏡はないのね。
ちょっと期待したのだが、ここでもイヤリングの形を確かめることはできなかった。
……うう。分からないとなると余計に気になる……
「気になるよ〜気になるよ〜」
ブツブツ言いながら最初に通された部屋に戻り、とりあえずイスに座る。
特に何も持ってきて来なかったので、部屋の中を見渡すと、何やら棚がある。
手持ち無沙汰でイヤリングをいじりながら近づく。
中身は本のようだ。
……これ、読んでいいのかな?
試しに戸を引いてみると、なんの抵抗もなく開いた。
これは読んでいいという事かな。
そうゆう事だろう。そうゆう事にしよう。
無理矢理自分を納得させ、中にある本に目を向ける。
だいたいが薬師系の本のようだ。
その中で【世界で最初の薬師】という本を見つけ、抜き取ってイスに戻る。
しばらく本を読んでいると、扉が開いた。
振り返ると、さっきの無表情+高身長の恐い人。
おおう……(汗)
勝手に本読んでた事怒られないかな……(汗)
「試験を開始します。こちらに」
「あっ、はい」
慌てて立ち上がり、本をどうするべきか迷ってオドオドする。
「本は机の上に置いたままで結構です」
「あ、はい、すいません」
言われた通り本を机の上に置き、男の人の後ろをついて行く。
しばらく歩くと、さっきより広い部屋に着いた。
中には大ナベと濾し器、その他ポーション作りに必要な道具一式と、カモフラージュなのか必要ないであろう道具が置いてあった。
そしてその道具たちの後ろ、少し高いところに席があり、1人のお爺さんが座っている。
あの人が審査員かな?
「受験番号3224、連れて参りました」
「ご苦労。下がってよいぞ」
男の人が去っていく。
ちょっと安心。
「さて、始めてもよいか?」
「はい」
返事をすると、お爺さんは優しげに笑って説明を始めた。
「この部屋でするのはポーション作りの審査じゃ。道具を全て使う必要はなく、普段通りに作ればよい」
「はい」
「それでは、始めておくれ」
言われて、大ナベに向かう。
そこで一旦深呼吸をして、ナベを覗き込んだ。
おっ!これは水面が鏡代わりに……ならない!ギリギリならない!
ここでもイヤリングの形は分からなかった。
うう。気になる。
……違う。今はそんな事を言ってる場合じゃないんだ。
とりあえず、水が入っている事は確認した。
なら薬草を砕くところから始めればいいわけだ。
大量に置いてある道具の中から薬研を、薬草やら木の実やらが入っている箱から乾燥してパリッパリになった薬草をそれぞれ取り出し、床に敷いてあった絨毯(なぜか豪華。)に座って薬草を砕く。
薬草を砕き終わったら、ナベに入れる前に梅もどきを回収しておく。
目分量だが、この水の量なら4つが適量だろう。
1時間ほど経っただろうか。
ナベの中の液体は少しとろみが出てきたようだ。
ここで回収しておいた梅もどきをナベに投入。
あとはまたひたすら混ぜる。
この2ヶ月でポーションを作りまくったせいか、考えなくても次の行程が分かっていた。
……なんか私、職人っぽくね?
試験開始から約3時間。
ポーション作りは終盤だ。
ナベの中身を濾し器に移す。
全てを移し終わったところで、審査員のお爺さんが
「そこまで」
と声をかけた。
「少し、下がっていてくれるか?」
「あ、はい」
言われた通り少し下がって待機する。
するとお爺さんはどこからか杖を出して、それを一振りした。
すると、なんという事でしょう!濾されたポーションが自動で大きなビンに入っていくではありませんか!
すげぇ。魔法すげぇ。
いいな、あれ。私も使えないかな。
「うむ。見事なポーションじゃな」
「あ、ありがとうございます」
「次に進みなさい。そこの、右の扉を通ると人が待機しておる。その人について行くように」
「はい」
「ほっほっほっ。頑張りなさい」
「ありがとうございます。頑張ります」
ペコンとお辞儀をして、示された右の扉を開ける。
そこには受付にいたお姉さんが立っていた。
「続いて筆記試験になります。こちらへどうぞ」
お姉さんについて行くと、これまた机とイスのみが置かれた部屋に着いた。
スペース削減なのかな。狭い。
「机の上に置かれた問題を解いてください。30分後に回収に参ります」
「はい」
お姉さんが部屋を出て行く。
……不安だな。筆記試験。
でもまぁ、30分あるし。いっちょ頑張りますか。
「筆記試験終了です。お疲れ様でした」
「ふひぃ……」
危なかった。結構ギリギリだった。
あと2分短かったら最後の問題解けてなかったな。
「1時間後に結果が発表されます。それまで最初の部屋でお待ち下さい。部屋への道は、この者が案内致します」
あ、最初の恐い人。
またこの人について行くのか。
とりあえずお辞儀しとこ。
ペコンとお辞儀をすると、軽く会釈を返してくれた。
見た目ほど悪い人ではないようだ。
最初の部屋に戻ってきた。
机の上には【世界で最初の薬師】。
……放置されてたのか。なんか申し訳ない。
「1時間後に封筒を持って参ります。その中に薬師免許が入っていれば合格、入っていなければ不合格となります」
「はい、分かりました」
男の人が去っていく。
私はイスに座って本を開く。
考えることはただ1つ。
お腹すいたなぁ……
だ。
1時間後。封筒を渡された。
開けるのは会場を出たあとらしい。
理由は、少し昔に不合格の人が暴れた事があるからだとか。
いろいろ大変なんだなぁ。
「アオイちゃん」
「あ、ヒエンさん!」
会場を出ると、ヒエンさんがいた。
テケテケと駆け寄る。
「お疲れ様。結果は?」
「まだ見てないのですよ」
言いながら封筒を開ける。
中には一枚のメモと、何やら硬い板のようなもの。
メモには
〈合格おめでとう。ヒエンによろしく伝えておくれ〉
と書いてあった。
……と、いう事は。
慌てて硬い板の方を取り出す。
見てみると、紙をガラス板のような透明なもので挟んでいるようだ。
ガラス板に挟まれた紙には、これが世界統一初級薬師免許であること、これの持ち主が私であることが記されていた。
「……やった。やった!ヒエンさん、やったよ!」
「おめでとう、アオイちゃん」
「ところで、これは?」
「ああ、アオイちゃんの審査員をやった人が私の審査員だったのね」
「ヒエンさんのこと覚えてるの?」
「まあ、初級から今の級を取るまでずっと同じ人が審査してたから、それででしょうね」
そういえば、ヒエンさんは何級なのだろうか。
気になるが、今はそれどころじゃない。
「ヒエンさん、お腹すいた」
「ふふ。そうね。早く帰りましょう。コガネちゃんが待ってるわ」
無事に合格しましたね。
おめでとう、アオイちゃん。