16,Qその人たちは誰ですか?A獣人さんたちです。
私が作ったポーションを売り始めてから3日経った。
売れ行きは順調である。
最初は、売れないだろうな〜と思っていたのだが、案外売れる。単に安いからと買っていく人もいるが、なぜか私が作ったと聞くと買っていく人がいるから不思議。
あ、ちなみに作ってる時間朝の7時半から昼の11時半です。その間はコガネちゃんが1人で店番。
午後は私も店番してます。
今日も午後から店番。ただし1人で。
コガネちゃんはヒエンさんに頼まれておつかいに行った。
「こ、こんにちは……」
チリリン♪と音がして店の扉が開く。
入ってきたのは2人の、フードを被った少女だ。
「あ、いらっしゃいませ〜」
少女のうちの、背の低いほうが私の声にビクリッと反応する。
どうしたのかと首を傾げていると、もう1人の子が
「あ、あの、ハーブさんは……?」
と、恐る恐る聞いてきた。
なるほど。ヒエンさんだと思ったら違ったからビックリしたのか。
なんか共感できるな〜ビビリなあたり。
「ヒエンさんなら作業部屋にいますよ〜呼んできますか?」
「えっあっいえ、すいません、大丈夫です」
いつも通り言うと、少女たちは慌てて首と手を振った。
そしてゆっくり近付いてくる。
「えーっと、それじゃーご注文はなんですか?」
なんだかレストランのようだと毎回思うのだが、エキナセアでは客から注文を聞いて、それをカウンター内の棚から出すスタイルなのだから仕方ない。
「ポーション2本と、ハイポーション1本、お願いします」
「はーい。あ、ポーションだと、今半額のがあるんですが、どうしますか?」
「半額、ですか?」
「はい。私が練習で作ったので」
「じゃあ、こっちでお願いします」
少女がカウンターの上にある籠を指差して言う。
返事をしながら籠に手を伸ばし、届かないのでカウンターから身を乗り出し、少女に違和感を覚えた。
身にまとったマントの下から、猫のような尻尾が見え隠れしていたのだ。
「……尻尾?」
思わず呟くと、少女はビクッと身をくすめてマントを下に引っ張った。
少女にくっついていた小柄な方の子も同様にビクッとした。
……いかん。また驚かせてしまった。
反省、反省。
考えながらポーションを2つとり、後ろの棚からハイポーションを取り出す。
それらをカウンターの上に置くと、少女たちが驚きの目でこちらを見ていた。
「……あの、売って、くれるんですか……?」
「え?はい」
「私たち、獣人ですよ?」
「みたい、ですね。尻尾、あったし」
なんとなく会話がかみ合わない。
……ん?なんかわかる気がするぞ?
これ、あれじゃね?ファンタジーものでたまにある、獣人が差別されてるってやつ。
そう考えると話が見えてきた。
少女たちは、私に尻尾を見られたからポーションを売ってもらえないと思ったのだ。
「あ、私は別に、獣人差別したりはしないですよ」
試しに言ってみると、少女たちは顔を見合わせた。
そして、私を見て、表情を明るくした。
おおう、可愛い……
「あの、店員さん、薬師の試験、受けるんですか?」
「あ、はい。受ける予定です」
「頑張って下さい!応援してます!」
少女たちはそう言って、お金を置いてポーションをカバンに入れるとスタタタッと駆けて行った。
……うむ。可愛い。
アオイが店で獣人少女たちに和んでいたころ、コガネは大きめのバスケットとメモ用紙を片手に街を歩いていた。
最初の目的地はパン屋だ。
その後、隣の店で卵と小麦粉を買った。
今はガラス工房に向かっているところだ。
店主がいつも製作を頼む工房は、街の中心部にある。
仕事が細かくて確かなのだと店主は言っていた。
一方でガラス工房の親方は、信頼されるのはいいが無茶振りが過ぎることがあるとぼやいていた。
ガラス工房についた。
表通りに面している工芸店は無視して、奥の作業場を目指す。
この作業場は壁が少なく、風通しがいい。
ガラスを加工するのにそれで大丈夫なのかといつも不思議に思う。
「親方〜」
作業場に入りつつ、近くにいた初老の男性に話しかける。
「ん?おお。コガネちゃんか」
「うん。親方、注文」
「またか?ドラゴン騒動の時に大量に作ったろうに。なんかあんのか?」
ポケットから出した紙を渡しつつ言うと不思議がられた。
「今、主が練習で作ってる」
「つーことはアオイちゃん、試験受けんのか」
「うん」
「なるほどなぁ〜よし。確かに承ったぜ。出来次第、エキナセアに届けらぁ」
「お願いします」
頭を下げて、工房を後にする。
頼まれたおつかいはあと一つ。
最後にもう一つだけ買い物をしたら、おつかいは終了である。
おつかいに行っていたコガネちゃんが帰ってきた。
手には重そうなバスケットを下げている。
「お帰り〜重そうだね」
「このくらいなら平気」
「さ、さすがコガネちゃん……」
バスケットをヒエンさんに渡しながら言ったコガネちゃんは、私を見て首を傾げた。
「主には、重いの?」
「うん。多分。私は筋力ないからね」
こうゆう時に実感する。
これが種族の違い、もしくは育った環境の違いか。
「さてと。今日はもうお店閉めるわよ〜」
「はーい」
「分かった」
ヒエンさんの号令で閉店準備に取り掛かる。
看板をしまい、入り口の札をcloseに変える。最後に入り口に鍵をかけたらおしまいだ。
「アオイちゃん」
「なーに?ヒエンさん」
「はいこれ」
鍵をかけて振り返ったら、ヒエンさんに一冊のノートとペンを渡された。
「……これは?」
「あったほうが便利でしょう?プレゼント」
きゃあ嬉しい。
つまりこれからはヒエンさんから聞いたことをメモ出来てしまうのか。
脳内アナウンスで、
アオイはノートとペンを手に入れた!
という放送がかかった。
レベルがアップしそうな音楽と共に。