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133,Qどこへ?A知りませんよ!!

 欠けていた記憶が戻り、情報量の多さと理解できない内容に混乱していると、窓が開いた。

 窓の外には、満月の髪の人、ウィーリア・ディルがいて、コガネが反応する前に私を横抱きにする。


「悪いが、借りていくよ」

「……ッ!まて!」


 コガネの手は空を切り、ウィーリア・ディルは私を抱えて空に舞い上がる。

 サクラとモエギの追尾も難なくかわしたようで、私は一体どこにいるのか、どこに向かってるのか分からないまま抱えられているしかなかった。


「……ウィル、さん?」

「うん。全部思い出したかな?」

「一応……でも、分からないことだらけ」

「それは、着いてから説明しようかな」


 なにがなんだか分からないが、この人は絶対私を傷つけない。それを知っているから、安心して腕の中に納まってしまっている。


「……うーん。ヒエンさん、何だよね?」

「そうだよ。アオイちゃんに接触する役割は、全部私が担ってた」

「そこら辺はよく分からない」

「そっか。……あ、ちょっと衝撃注意ね」

「はーい」


 話し方はヒエンさんと違って、声はヒエンさんより低くて、背はヒエンさんより少し高くて、でも、この人はヒエンさんなのだ。

 妙に安心するのは、多分そういうこと。

 ……もしかして、逆なのかな?ウィルさんがヒエンさんだから落ち着くんじゃなくて、ヒエンさんがウィルさんだから落ち着く、のかも。


「……ところで、ここは?」

「時空の狭間。精霊界とか、ここにあるよ」

「なんかすごいところに連れてこられてる……」


 不思議空間だとは思ってたけど……

 ていうか、時空の狭間って人間が入ったら耐えられないんじゃなかったっけ?

 ウィルさん平気なの?

 ……駄目だ、「ウィルさん」って違和感がある。もうヒエンさん呼びでいいや。


「……そうだ、何で帰ってきて早々なんですか?」

「時が満ちたから、だね」

「もう少し……せめてあと半日猶予があれば……」

「何かあったの?」

「お土産……渡したかったんです……」

「それは……ごめん。ほんとにごめん」


 普通に謝られてしまった。

 別に、少し遅れるくらいいいんだけどさ……これで、もうエキナセアには帰れないとか言われたら流石に怒るけどね?


「あ、向こうに見える島、あれ神話に出てくるよ」

「え、どれ?どれです?」


 ……なんか、緊張感がまるでないな……観光してるみたいになっちゃってる。

 正体を隠していた保護者にどこかに連れ去られてるところのはずなんだけどな……

 ヒエンさんがいつも通りなんだもん。話し方は違うけど。


 そのまましばらく時空の狭間を飛んで、何だか辺りが暗くなり始める。

 ……嫌な魔力が漂いまくってるんだけど、これ、どこに向かってるの?


「ヒエンさん、ちなみに目的地は?」

「魔界☆」

「……降ろしてぇぇ!!!」

「守る守る」

「ノリが軽いよ!!軽すぎるよ!!」


 そんな軽いノリで魔界に連れていかれるのすごい困る!

 重々しい雰囲気醸し出しても嫌だけどね!?

 ヒエンさん私が狙われるの知ってるよね!?なんで魔界!?


「どうどう。着いたら説明するから」

「事後報告じゃん!!せめて最低限の説明はなかったんです!?」

「なかったねぇー。コガネ君からアオイちゃん奪うのに全神経使ったからねぇー」

「そんなところで使わないでくださいよ!」


 そもそも「奪うのに」って、コガネが怒るの前提じゃん!

 説明してくれればコガネだってむやみに怒らないのに……


「ジト目で見ても可愛いだけだぜ?」

「カッコつけてもカッコイイだけですよ」

「ありがとう(低音)」

「ああもうイケボだなあ!!」


 何なんだこの会話は。今から魔界に降りるって時の会話じゃないだろ……

 緩いのはヒエンさんの所為。

 そう。大体ヒエンさんが悪い。


 そんなことを言っているうちに、ヒエンさんは魔界の中央の城に降り立つ。

 ……これ、どう考えても魔王城だよね?

 ヒエンさん何考えてるの?何がしたいの?


「よっと……ほい、到着」

「帰りたい……」

「まあまあ。とりあえず、紹介しないといけないやつが8……7人かな。居ます」

「多くないです?」

「そんなもんだ。こっちだよー」

「ああ、待ってください」


 この人本当に自由だな……

 ヒエンさんの後ろをついて行くと、少し広めの部屋に出た。

 そこには8人の人が思い思いの場所に座っていた。


 ……2人ほど、見覚えがある。

 1人は、腕輪の製作者、リーンさん。

 もう1人は、旅路で助けてくれた鳥のような少女だ。


 少女はこちらに気付くと、小走りに近づいてきて私の手を取った。

 そしてニコニコと笑う。


「うん。問題なく、滞りなく、だね」

「そりゃあ、私が連れて来たし?」

「旅路で襲われそうで、大慌てで連絡してきたのはウィルだけどね?」

「本当にありがとう。今度お菓子か何か奢るわ」


 ……知り合いだったんですね。

 なんというかこれ、全ての黒幕はヒエンさんとかそんな感じ?


「アオイちゃん、この子はリーファル。リラって呼ばれてるから、それで覚えて」

「リラだよ~。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「ちなみに男だからね。見た目は完全に儚げな少女だけど男だから」

「……男の娘……?」

「そういうこと」


 ……マジで?だって声も高いし、体格も女の子だし、……え?

 なんかもう、性別って意外と仕事してないのかな……むしろ性別に仕事ってないのかな……


「あと……レプ。リーンにはあったことあるよね?」

「はい。覚えてます」

「そっか。じゃあ割愛」

「ひどくないかい?」

「そんなことはない。で、紹介しとくべきは……イセルア」


 イセルアさんは名前だけ知ってるそ。

 薬師試験の筆記問題まとめて、練習問題作ってくれる人だ。

 どんな人なんだろ。


 ヒエンさんの目線を追うと、背の高い男の人がいた。

 チラッと見える耳は、先が尖っていて少し長い。

 ……エルフさんだったのか。


「試験でお世話になってます……」

「あのくらいは気にしなくていい。ウィルが迷惑をかけている詫びのようなものだ」


 そう言って笑う。うーん、美人。髪も長いし、女の人にも見える。

 なんというか、エルフって美人ぞろいだし、一定以上美形の人って性別分からなくなるよね。


「……ところで、なんですけどねヒエンさん」

「うん。なんだね?」

「ここにいる人たちって……」

「いわゆる先代勇者だね」


 ……何となくそんな感じかとは思ってたけど……

 なんで私ここに連れてこられたの?帰っていい?

 というか、ヒエンさんも先代勇者さんってことだよね?


「あっちから順番に、聖剣、桜花、闇、精霊、烈風、烈火、不死鳥、神考ね」

「……ヒエンさん錬金王ならコガネに教わりに行かせる必要なくないです!?使えないとか嘘ついて!!」

「流石に薬屋の店主が錬金術完璧だったらおかしいじゃん?」

「そうかもしれない!!」


 駄目だもうテンション狂ってきた……

 そんな私を見かねたのか、不死鳥、リラさんが手を引いて座れる場所に誘導してくれた。

 ……性別は、考えるのやめよう。







 コガネは焦っていた。無事に帰ってきたと思ったそばから、主がさらわれた。

 しかも、さらった人物は店主……いや、錬金王だ。

 あの人、錬金術出来ないとか言いやがった。錬金王の癖に。

 ……そんなことを言っている場合ではない。主の身の安全はそんなに心配ないかもしれないが、主の状況が全く分からないのはこの上なく不安だ。


 行き先は、何となく想像がつく。

 行き方も、コガネ一人ならどうにかなるかもしれない。

 となれば、追わないという選択肢はなかった。


「……サクラ、モエギ。主と一緒に迎えに行くから、それまでレヨンの所に居て」

「ピィ!?ピッピピィ!」

「チュン」

「ピ!?」


 混乱して騒ぐサクラを、モエギが一言で収めて先に飛び立つ。

 サクラは何か言いたそうだったが、モエギの後を追って飛んで行った。

 それを見送って、コガネはその姿をキツネに戻した。


 不可視の魔法をかけ、耐風効果を薄く張り、外に飛び出して風を起こす。

 風に乗り、追い風を吹かせ、弾丸のような速度で移動する。

 大陸を越え、やってきたのはアオイが落ちた峡谷だ。

 勢いそのまま峡谷に飛び込み、地面にぶつかる寸前で風を起こして着地した。


「……キュッ!」


 魔力を辿って洞窟を進み、神秘的な光の灯る空間で止まる。

 そこで姿を人型にし、奥に鎮座するドラゴンに歩み寄った。


「まさか、こんなに早くに再会するとはな」

「俺も予想外だ」

「そうか。アオイは狭間へ行ったようだな」

「ああ。……それを追いたい。出来るか?」

「ほっほっほ。そうか、お主も未完であるか。いいだろう、送ってやる。道は分かるか?」

「大丈夫だ」

「よし、ならば行ってこい」


 ヒソクはコガネにいくつかの魔法をかけ、狭間への道を開いた。

 コガネは頷き、狭間へと飛び込んだ。

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