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131,Q大丈夫ですか?Aなんというかもう…

この話が今までで1番ぶっ飛んでます。

でも、これからもっとぶっ飛んでいきます。

ここまで見てくれた方々を振り切っていく勢いです。

「主、起きろ」

「うーー」


 コガネ君に容赦なく布団をはぎ取られた。

 今日は特に容赦なかったな……普段はそこそこの温情をかけてくれるのに……

 まあ、今日は早く出るって言ってたしな……


「着替えたらすぐに出るぞ」

「はーい……」


 コガネ君が珍しく急かしてくる。

 ここから他の定住地まで遠いんだったか。

 もぞもぞと着替えて寝間着を荷物に詰める。その間にコガネは軽く私の髪を梳かしていた。


「よし、行こう」

「んー……」


 まだ眠いけど、まあ、馬の上で寝るなんて器用なことはできないから大丈夫。

 コガネに手を引かれて宿の外に出ると、辺りはまだ薄暗かった。

 塔の上の魔石が薄く発光している。綺麗。


 馬に跨り、鬣を撫でながら眠気を振り払う。

 私が完全に起きたのを確認して、コガネは速度を上げた。

 しばらく走っていると、日が出てくる。うーん、綺麗。


「朝早くないとこの景色も見れないんだねー」

「そうだな。綺麗だろ?」

「うん」

「早起きすればエキナセアからも見れるぞ」

「うーん……眠たい」


 そんな会話をしながら、馬はどんどん進む。

 なんか、一昨日鳥っぽい少女に助けられてからあんまり襲われないな。

 何でだろ。……はっ!まさかあの少女は加護をくれる系の神様かなにか……?


 くだらないことを考える暇があるくらいには平和だ。

 今日はほとんど休憩なしで走るって言ってたし、楽しめるうちに楽しんでおこう。

 普通はどこかで野営をして行く移動距離を走り抜けるんだもんね……




 気付けば、太陽は真上に上がっていた。

 時々襲われたり追いかけられたりしたけど、普段よりはずっと順調に進んでいた。

 だから、油断していたのかもしれない。


 その鳥は、音も気配も魔力も消して近づいてきていた。

 コガネが気付けないほど巧妙に存在感を消して、私を空中に連れ去った。

 一瞬視界が暗転し、気付いた時には空の上である。

 ……いや、は?


「主……!?」

「コガうわああああああ!!」


 鳥に掴まれ空に持ち上げられ、勢いをつけてぶん投げれた。

 空中から辛うじて見えたコガネとの距離は、10メートル以上。

 コガネが魔法を飛ばしたようだが、鳥が妨害しているようだ。


 一昨日、鳥っぽい少女に助けられたと思ったら、鳥に襲われてぶん投げられた。

 何の皮肉だよこれ。くそう。

 そんなことを考える時間があったのが不思議だが、そろそろ地面が近づいてきている気配がする。


 そう思っていた私が見たのは、下から上に通り過ぎていく地面。

 ……いや、いやいやいや、流石にそれはないだろ!!

 思い返してみれば、コガネがここには世界一深い峡谷があるって言ってたな!

 だとしても!私がそこに向かってぶん投げられる理由はなんだ!?


 なにより不思議で、どこか怖いのは、私をぶん投げた鳥は私に悪意を向けてこないことだ。

 悪意と殺意をむき出しにして襲われるならまだ分かる。

 でも、あの鳥からはそれが感じられなかった。それが、とても気になる。

 混乱した頭で考えているうちに、辺りは日の光がほとんど入らない暗闇になっていた。





 鳥はアオイを峡谷に落とし、すさまじい速度で飛び去った。

 コガネは、馬に乗ったままゆっくりと峡谷に近づく。

 峡谷の縁まで来て馬を降りると、そのままそこに座り込んだ。


 主が、ここに落ちた。


 それだけが、コガネの頭を埋めつくしていた。

 この峡谷は底に魔力が溜まっているのか、深くまで行くと魔力が弾かれる。

 だからアオイの魔力は探知できないし、それが魔力が弾かれるからなのか、アオイが魔力を発していないからなのかは分からない。


 コガネならば、魔法を使って谷底まで降りることも出来る。

 だが、コガネは動けなかった。

 もし谷底でアオイが死んでいたら。この高さから落ちたのだ、アオイが無惨な姿になっていたとして、それを目の当たりにして自分はそれを受け入れられるか。


 コガネは生まれて初めて恐怖で動けなくなった。

 昨日目覚めたときは、自分の意識がない間にアオイに何かあったのではないかという恐怖だった。

 今のこれは、自分の力不足で主を失う恐怖だ。


 コガネは、白キツネの中ではまだ子供のようなものだ。

 アオイからしてみれば何でも知っている博識な存在だが、本当はまだ子供で、知らないことは多い。

 特に、恐怖から立ち直る手段を、コガネは知らなかった。





 目を開けると、辺りは暗闇だった。

 ……うん。落っこちて来たみたいだね。

 上を見上げても、日の光はかなり上で途切れていた。


「……何で私無事なの……?」


 死んでいてもおかしくない、というか、死んでないとおかしい、くらいの高さから落ちたはずなのに、なぜか無傷である。どこも痛くないし。

 保護者達から貰った装備品が守ってくれたのだろうか。


 考えても分からない。

 ここから上がる方法も分からない。

 どうしようかな……とりあえず、進んでみるか。


 光る苔を見つけて、それを辿るように進む。

 少し歩くと光るキノコも現れた。

 苔とキノコは徐々に増えていき、最終的に空間が優しく光ってるくらいの光り方になった。

 そこで気付く。いつの間にか洞窟に入ってきていたらしい。


 洞窟は徐々に広くなり、柔らかな光は色を増やして光り続ける。

 ……なんか、すごく幻想的。

 精霊界はこんなところって言われても違和感がないくらい幻想的。


「ほえー……」


 間抜けな声を出しながら歩いて行くと、一段と広い空間に出た。

 そこには発光する大樹が生えていて、その大樹の麓に、1体のドラゴンが座っていた。

 襲われたことのあるドラゴンとは、全く違う、神聖な気配を纏ったドラゴンだった。


「おや……何が降ってきたかと思えば、未完の花園か」

「うえ、えっと、あなたは……」

「そう焦らんでよい。我は種の主に噛み付くほど若くない」

「しゅのぬし……?」


 さぞ間抜けであろう私の顔をじっと見て、ドラゴンは笑った。


「そうか、お主は正しく未完であるのだな。……ふむ、そうか。お主、名前は?」

「アオイ、です」

「アオイ。我と契約を結ばぬか?」


 ……ん?

 ……いやいや、そんな、初対面の人間と契約とか、このドラゴンさんは何仰ってるんですかね!?


「お主がここに来たのは、そのためであろう」

「いや、来たって言うより落とされたんですが……」

「それも、天上の主の御心であろうて。我は、その方に仕える種族の端くれ故な」

「すいません……馬鹿にも分かるようにもう一回お願いします……」

「お主の意志でなくても、ここで契約が為されるように世界は回っておる」


 運命、とかそういうことかな?

 ……なんか、最近私の知らない私の呼び名多くない?

 精霊たちにも幼い母君って呼ばれたし……


「……私の意志でなくても、かぁ……」

「何か思うところでもあるのか?」

「この世界に来てから、私は流されてばっかりのような気がして……まあ、前居た世界でもそうでしたけど」

「……アオイ、近う寄れ」


 言われて、ドラゴンに近づく。

 促されてその透き通るような鱗に触れると、水の流れの中にいるような感覚に陥った。


「流されてよい。今は、まだな。時が来れば、お主は自らの足でしっかりと歩んでいけるさ」

「……そうでしょうか」

「そうとも。我はこれでも最上位のドラゴンであり、千を超える時を過ごしてきた。我が言うのだ、そうであるさ」

「……そっか……まだ、もう少しくらい、甘えててもいいんですかね?」

「ああ。お主の供も、それを望んでおろうて」


 それなら、甘えてもいいかな?

 ……そうだ、コガネも待ってるだろうし、上に戻らないとな。


「……契約、しましょう。運命とかはよく分かんないですけど、した方がいいみたいなので」

「うむ。……そして、我と契約すればお主の器は8割以上満たされる」

「……契約したらもっと理解出来ますかね?」

「さてな。契約をするのは初めてだ。まさか、この歳で初めてのことがあろうとはな」


 言いながら、カバンに入れてある魔法陣の描かれた紙を取り出す。

 地面への転写はドラゴンがやってくれた。

 紙を仕舞って、魔法陣の上に立ちながら言う。


「名前、考えてたんですけど」

「いい名にしてくれ」

「ハードル上げないで下さい……で、うちの契約獣はみんな色の名前なので」

「我の色は?」

「鱗が光の反射で変わるから、悩んだんです。だから、私の知ってる中でも神秘的とされてる色にしようかな、と」

「ほう。その色は?」

「秘色。ヒソクでいかがでしょう」


 ドラゴンは、嬉しそうに目を細めた。


「うむ、気に入った。人の子のつける名は、我の知らぬものを持っているな」

「うーん、言い回しが難しい……」

「じきになれるさ」


 名前は決まった。

 後は、久々に契約を完了させるだけだ。


「新たに契約を結びし獣、汝の名、ヒソク」

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