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129,Qこれは…A…ああ、何だ夢か…

 食料よーし、水よーし、お土産よーし、装備品よーし、手荷物よーし。

 指さし確認をして、忘れ物がないかもう1度部屋を見渡して、コガネ君に敬礼する。


「オッケーです!」

「了解。行こう」

「はーい」


 ビシッと敬礼を返してくれたコガネ君の後ろについて部屋を出る。

 宿のオーナーに鍵を返して、お土産に、とお菓子を貰って宿を出る。

 宿の前には、オーナーさんがチグサの友人のお嬢さんを質の悪い馬に乗せるわけにはいかない、と用意してくれた馬が待っていた。

 ……うーん、至れり尽くせり……


 馬に荷物を積んで、コガネに引き上げてもらって鞍に座る。

 私がしっかり座ったのを確認して、馬が動き始める。

 門を出て、方向転換したところで一気に速度が上がった。


「主、大丈夫か?」

「うん!楽しい!」

「そうか。ならもう少し加速するぞ」


 宣言通り加速して、景色がすごい勢いで流れていく。

 サクラとモエギは後ろに乗って、コガネを風よけにしてるみたい。

 すごく安定しているからか、全然怖くない。

 むしろ楽しい。馬とコガネも楽しんでるのが分かるから、余計に楽しい。


 そんなわけで、どんどん進む。

 流石にアジサシさんの馬車のような速度は出ないが、私が乗った馬では1番速かった。

 襲われかけても危なげなく逃げ切れる速度があった。

 ……楽しい。絶叫系は無理だけどこれは楽しい。慣れてきたのかもしれないが。

 そんなことを考えていると、急にコガネが減速し始めた。


「どうしたの?」

「……強い魔力がある。走っても逃げられるかどうか……」


 遠くに見える森の方を凝視しながら、コガネが言う。

 言いながら、馬から降りた。

 念のため、と私も降ろされる。


「荷物を頼む」


 馬にはそう告げて、離れていてもらう。

 ……なんか、ヤバいのが来る……?

 コガネが無言で魔法を発動させ始めたのを見て、ちょっと怖くなる。

 いつの間にかサクラとモエギが肩に止まっていて、そっと2羽に触れる。

 その瞬間、何かが爆発したような感覚がした。


 気付いたらコガネが魔法を撃っていて、コガネの目線の先には見たことのない生き物が立っていた。

 生き物、なのかも分からない。分からないが、それからは強い魔力が発せられていた。

 どこかぼんやりとしていて輪郭がはっきりしないソレは、ニタニタと笑いながら私を見ている。


 魔力に当てられたわけでもないのに動けなくなる。

 得体のしれないソレから、目が離せなくなる。

 目を合わせたまま固まっていると、ソレは唐突に動いた。


 私に向かってきて、ソレの魔力が私を貫こうとしていて


 私を守るように前に出たコガネが、吹き飛んだ。


 はじかれるようにそちらを見れば、コガネはキツネに戻って倒れていて


 強い魔力を感じて視線を戻すと、ソレはやはりニタニタと笑いながら、次の魔力を練り終わっていた。


 モエギが前に飛び出して、サクラが何か叫んでいたようだったけど、それが何かは分からなかった。


 ソレの魔力がモエギに当たりそうで、手を伸ばそうとして、それより早く、炎がソレの魔力を打ち消した。


 突如として、ソレは叫び始める。


 どこか悲しげな魔力が漂ってきて、そちらに目を向ける。


 そこには、鳥を思わせる少女が立っていた。


 少女はゆったりとソレに歩み寄り、手に持った短剣を突き付ける。


 少女から短剣を伝って、ソレの中に魔力が注ぎ込まれていく。


 そして、ソレは跡形もなく消滅した。


 ソレを消滅させた少女は、短剣を仕舞って私に歩み寄ってくる。

 そして、チラっとコガネを見た。

 その視線に操られるように、フラフラとコガネに近づく。


 キツネに戻ったということは、人間の状態を保てるほど体力と魔力が残っていないということだ。

 恐る恐る触れると、コガネは確かに暖かく、息をしていた。

 一気に力が抜けて、その場に座り込む。


「大丈夫、あなたも、その子も」


 いつの間にか近くに来ていた少女は、目線を合わせるようにしゃがんでそう言った。


「その子は、少し休めば目を覚ますよ。目を覚ませば、人型も取れる。大丈夫、だよ」


 私を落ち着かせるように、安心させるように、ゆっくりと言われたその言葉を脳内で反芻する。

 コガネを抱えて、大丈夫、と呟いて目を閉じる。

 ゆっくりと目を開けると、サクラとモエギが心配そうに私を見上げていた。

 撫でようとして、手を伸ばして固まる。


「モエギ……血……」

「チュン」


 モエギの、左の翼の付け根から血が流れていた。

 私を、守ろうとしたから?


「ああ、大丈夫。おいで」


 少女が、モエギを手に乗せる。

 そしてフッと息を吹きかけた。

 地面に下ろされてたモエギの傷は、綺麗に治っていた。


「チュン」

「うん、良かったね」


 少女はモエギをそっと撫でて、私に向き直った。


「あなたはまだ、満ちていないんだね。でも、もうすぐだ。焦らなくていいよ。全部、綺麗に回っているから」

「あなたは……」

「そう遠くない先の時間で、また会おうね」


 少女は、ふわりと笑う。

 少女を中心に風が吹き始めて、目をつぶるとその間に少女は消えていた。

 呆けていると、後ろから軽く押される。

 振り返ると、離れてもらっていた馬だった。


「……あ、そうだ、町、行かなきゃ」

『道は覚えてる。連れていけるよ』

「私、1人で乗るの上手くないんですが……」

『お嬢さんを落とすようなヘマはしないさ』

「お願いします」

『任された』


 馬は、姿勢を低くして私が乗れるようにしてくれた。

 その背に跨り、コガネを抱えなおす。

 手綱握るの片手はちょっと怖いけど、コガネに何かある方が怖い。


『行くよ』

「お願いします!」


 私に声をかけてから、馬はゆっくりと走り始める。

 少しずつスピードを上げて、最終的には普通に走ってるくらいの速度になった。


『町には検問がないんだ。大通りに入るから、その通りで宿を探すといいよ』

「はい!サクラ、モエギ!」

「ピィ!」「チュン」


 2羽は飛び立ち、馬を追い越して加速していく。

 宿は、これで大丈夫。あとは私が落ちずに町まで行ければ、かな。


 しばらく走って、町が見えてきた。

 町に入る前にサクラとコガネが合流して、宿に誘導してくれる。

 馬に乗せた荷物は私じゃ回収できないけど、厩付きの宿を探してくれたみたいだ。

 ガルダに帰るまで乗れるように、と借りているから、荷物は預けたままで大丈夫。


 宿の扉を開けて、受付に駆け寄る。

 契約獣がダウンしていて、起きたら人型になるんだがお代はどうしたらいいか、とか色々聞いてから部屋の鍵を受け取って部屋に向かった。

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