128,QここでですかAまさかの、ですね。
「チュンチュン」
「うあ……」
「チュン」
「うう……」
「チュンチュンチュン」
……これが本当の朝チュン……?
「チュン」
「うん……おはよう……」
朝である。朝日のまぶしい、気持ちのいい朝である。
私は半分くらい柔らかなシーツに埋もれている。
で、珍しくモエギに起こされた。……朝チュン……
モゾモゾと体を起こして、モエギを撫でる。
私がもがいても被害を受けないようにベッドの縁に止まっていたみたい。
なるほどね。流石モエギ。頭良い。
「ふ……あぁ…………コガネは?」
「チュッチュン、チュンチュン」
「そっか……サクラも一緒?」
「チュン」
コガネとサクラは下に朝ご飯を取りに行ったらしい。
で、その間にモエギが私を起こす……と。
なんとも無駄のない動きだ。時計を確認すると、針は8時半を指している。
……いつもよりのんびり、かな?
時計を仕舞って服を着替えていると、扉が開いた。
「……おはよう、主」
「おはよう、コガネ。別に気にしなくていいよ?」
「次それ言ったら1時間説教な」
「ふえ!?」
なんでおこなの!?
混乱して固まっていると、速く着替えろ、と促される。
……なんでおこなの……?モエギを見ても、私が悪い、と言いたげな目をされるだけだった。
とりあえず着替えよう……多分それがいい。
「……コガネ?」
「着替えたな?」
「うん」
「じゃあ、朝ご飯にしよう」
「はーい」
……この件には触れない方がよさそうだ。私の生存本能がそう言っている。
おこなコガネ君は結構怖いのだ。
「今日は、どこか行きたいところがあるんだっけ?」
「ああ。昼飯も買って行こう」
「分かった」
朝ご飯を食べ終えて、コガネが食器を返しに行くらしいのでサクラを呼び止める。
かわりにモエギがコガネについて行った。
この組み合わせは珍しいよね。普段何も気にせずに動いてたらこうはならない。
「サクラ、コガネ君がおこな理由分かる?」
「ピィ!(分かんない!)」
「だよねぇ……」
コガネとモエギが戻ってくるまで2人で考えてみたが、結局分からずじまいだった。
チキンだから直接聞くとか無理だしね!コガネに嫌われたら精神が崩壊する。
とりあえず一旦忘れることにして、観光だ。
コガネが行きたがる場所は、大体歴史的価値か魔法的価値が高い。今回はどっちかな。
宿を出て向かったのは、建物も人もほとんどいない海辺だった。
……ここに一体何が……?
なんか、魔力が他の場所より高いかなーくらいしか分かんないんだけど……
「ここは、精霊女王が初めて精霊と言葉を交わした場所らしい」
「へぇー……え?」
思ったよりすごい場所じゃない?
でも、それならもっと人がいてもよさそうなものだけど……
私たち以外、誰も居ない。
「精霊から聞いた場所だからな。人は知らないんだろう」
「ああ、なーるほど……それで、ここだけ魔力が濃いの?」
「そうだな。精霊女王は、初めて精霊と会話をしてから、しばらくこの場所に通っていたらしい。ずっとここで話していたから、ここの魔力が高まったんだろうな」
なるほどなぁ……なんて、のんびり感心していたら1体の精霊が近づいてきた。
見えるって言っても普段は精霊なんて近くに居ないからね。普通にびっくりしたね。
あら、見える人が来たのは久しぶりだわ。神獣が来るなんて、もっと久しぶり。
「わあ、初めまして」
初めまして、幼い母君。あなたはまだ眠っているのね。
「母……?眠って……?」
「……ヴォルト、それは……」
まだ、駄目よ。知らないなら、目覚めていないなら、まだその時じゃないわ。
ヴォルト、というらしい精霊は、詳しいことは教えてくれないらしい。
意味深な笑みを浮かべてふわふわしているヴォルトの横に、別の精霊が飛び込んできた。
お前は、何でそう混乱させる言い方をするんだ!
あら、本当の事よ?
だとしても、言い方があるだろう!
何やら言い合いを始めた精霊たちは、しばらくして私の方を向いた。
そして、後から来た方の精霊に頭を下げられる。
申し訳ありません、こいつが思わせぶりな言い方を……
「いや、いいのよ?よく分かんなかったけど、なんかそのうち分かりそうだし……」
精霊に頭下げられるって、私は一体どんな立場なんだ……?
コガネは別の事考えてるみたいで反応ないし……
うーん……?……まあ、この精霊が特別礼儀正しいって可能性もあるしなぁ。
その後、2体と少し話してコガネの考え事が終わったタイミングでその場を離れた。
……不思議な体験だった……
精霊と話すのは初めてじゃないけど、複数体と世間話するのは初めてだ……
「さて、ここから宿に戻ると大体5時くらいになるな」
「うーん……微妙……あ、そうだ。昨日見つけた加護付きの物、残ってないかな?」
「ああ、見てみるか」
「うん」
そんなわけで昨日も行った市場に寄ってから宿に戻る。
宿の扉を開けると、何やらアジサシさんがバタバタしていた。
……すごく、慌ててる感じ。何かあったのかな?
「ああ、おかえりアオイちゃん。すまないね、いくつか言わないといけないことがある」
「何かあったんですか?」
「どうしても行かないといけない場所が出来てしまったんだ。予測は2か月後だったのに、事態が急変したみたいでね」
それはつまり、ここで旅の同行が終了するってことかな?
アジサシさんの慌ただしさからして、すぐにでも出ないといけないんだろう。
「ボクもまさかこんなに早く別れることになるとは思ってなかったんだ、本当にすまない」
「謝らないでください、チグサさんが悪いわけじゃないんですから」
「うん、それでも、ごめんよ。ここの料金はあと2日分払ってあるから、その間はゆっくりしているといい」
それからせめて、と保存食を分けてもらって、アジサシさんはすぐに宿を発った。
……うーん。思った2倍くらい早くお別れの時間が来てしまった……
でも、アジサシさんの基本スタイルはこんな感じなんだろうな。
いろんな魔物や魔獣の出現予測を立てて、それに合わせて行動して、なにか動きがあったらそっちに超特急で移動する。
……それをずっと続けられるってすごいな……頭使うだろうし、ゆっくりする時間はあんまりないんだろうし……
しかも、それの間に商売もしてるんだもんな……
「……主、とりあえず、今後の予定を立てよう」
「うん、そうだね」
アジサシさんにお任せだった旅のプランを、ここからしっかり立てて行かないといけない。
……とはいえ、私はお任せする先がアジサシさんからコガネに移っただけなんだけどね?
「まずは、どう進むかだな」
「進み方、あんまり多くないよね?」
「ああ。今回は、ここの道を使おうと思う」
トンッと地図に指が落ちる。
コガネの指さすそこは、海と迷いの森の間。
「……そこそこ広いみたいだけど、ここに道があるの?」
「1本大通りがな」
「でも、そっち側は国がないみたいだけど……」
「国はないが、大きな町があるんだ。主は、国以外の定住地は初めてだな?」
「うん」
「じゃあ、見ておこう。そもそも今回の旅はそれが目的らしいからな」
私の社会勉強か。
常識が身についてないもんね。本で読むより、実際に行ってみようって感じなんだろうな。
「出発は明後日の朝、いつも通り馬を借りて行こう」
「国じゃなくても返せるの?」
「第6大陸側で一番大きな定住地だからな」
……楽しみだな。でも、馬移動ってことは襲われるんだよね、多分。
……不安だな。迷いの森も近いし。
そろそろ終わりが見えてまいりました。
ここからは水曜と土曜に更新していきたいなぁと思っております。
急加速、危険運転ですね。いくない。