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127,Qどうですか?A気持ちいいですね!

 野営地を発ってから2時間ほどが過ぎた。

 ヨルハ・プーアの謎についてコガネとあれこれ話していたら、チグサさんが1冊の本をくれた。

 アオイちゃんの動物たらしの恩恵で楽な野営が出来たからそのお礼、だそうだ。

 本のタイトルは《ヨルハ・プーアの謎》


「これだ、例のエルフの書いた本」

「え、そうなの?」

「ああ。これが1冊目だったはずだ」


 まずはコガネ君に渡して、内容を確認してもらう。

 コガネ君、本とか書類とかの確認すっごい早いんだよね。

 どうやってるのか聞いたら、「キツネだから」って言われた。いやどういうことだよ……って思ってたけど、速読は動体視力が物を言うらしい。それなら納得。


「……やっぱりこのエルフ頭おかしい……」

「どんなこと書いてあるの?」

「独自に調べたヨルハ・プーアの事とヨルハ・プーアへの愛がたっぷり」

「……なーるほどぉー」

「だが、なかなか面白いぞ」


 本を渡されて、とりあえず始めから読んでみる。

 最初の2ページくらいは、自分が初めてヨルハ・プーアに出会った時の事から、この本を書くに至るまで、そしてヨルハ・プーアがいかに可愛く賢く優しく思慮深く勇敢であるか、みたいな内容が書いてあった。

 このエルフさん、字は綺麗だけど段々勢いがついて流れるように書かれていくな……

 でも、読みやすいし普通に面白い。


 この世界に来てから、本を読むことが増えた。

 娯楽が少ないからかもしれないが、単純に異世界の本は面白かった。

 この本は、著者の愛が溢れてて、内容が濃くて、でも読みやすくて面白い。


 印字技術がないから、全部手書きかそれの複製なんだよね。

 それが、印刷された字よりも好きだったのかもしれない。

 ずっと読んでるとその人の文字の癖とかも分かるしね。

 レヨンさんの字だとすぐにわかるようになったし。


「……ぷふ」

「なにが書いてあった?」

「脱線に脱線を重ねて正気に戻った」

「そうか。……読み終わったら、貸してくれ」

「うん。……時間かかるよ?」

「構わない。待ちきれなかったら、主が寝てる間にでも読むさ」

「そっか」


 コガネ君は今日もイケメンである。

 このイケメン具合、拝むべきなんじゃなかろうか。

 なんて考えながら、ページをめくる。


 そのまま読書に集中して、気が付くと潮の香りが漂い始めていた。

 時間も結構経っているようだし、馬車の速度が落ち始めた。

 そろそろ、着くのかな?


「コガネ、そろそろ?」

「ああ。もうすぐだ」


 そうなってくると、景色が気になって本に集中できない。

 コガネに本を預けて、窓から外の様子を窺う。

 ……潮の香りはするけど、海が見えない。

 何でだろ。


「海、近いんだよね?」

「ああ。だが、国のある土地が高台になっているから、それに遮られて見えないんだな」

「そっか。国に入ったら見える?」

「ああ」


 海は、非日常って感じがするからワクワクする。

 潮の香りだけでもどんなところが気になって落ち着かなくなるくらいにはワクワクしてる。

 子供っぽいとは思うが、こればっかりはどうしようもない。だって楽しもなんだもん。


「アオイちゃん、そろそろだ。荷物はまとまってるね?」

「はいっ!」

「よし」


 チグサさんが窓から逆さに顔だけ出して声をかけてきた。

 慣れたけど、それ危なくないんですかね……?


「ピィ!」「チュン」


 入国が近いからか、サクラとモエギが戻ってきて肩に止まった。

 国に入る時の仕様で茶色になっている2頭の馬に引かれた馬車は、入門で一旦止まってすぐに動き出す。


「宿は取ってあるから、先にそっちに行こうか」

「はーい。……ありがとうございます」

「このくらいはお安い御用さ。これでアオイちゃんからの信頼が得られるなら、本当に安いくらいだ」


 そう言って、流し目とウインクを決めてくる。

 チグサさんもカッコイイ。崇めるべき。拝んでおこう。


「主」

「うん。行こ」


 コガネは私の謎行動については何も言わない。

 基本何も言わずに次の行動を促してくる。

 実に正しい判断だと思ってる。


 チグサさんが取ってくれていた宿は、やっぱりお高そうなところだった。

 当然のようにしっかりした鍵とシャワーと朝食が付いていた。

 しかも、チグサさんはここのオーナーと顔なじみらしい。すげぇ。


「これがアオイちゃんたちの部屋の鍵。上がって突き当りだよ」

「はーい」


 鍵を受け取って、チグサさんと談笑していたオーナーさんにお辞儀をしてから部屋に向かう。

 言われた通りに進んで、部屋の番号と鍵の番号が同じ事を確認して扉を開ける。

 中は大きなベッドが二つと、海が見えるテラス、それから座り心地のいいソファとテーブル。あとはシャワーとトイレ。……豪華すぎん?


「すっごい眺めがいい……」

「1等地だな」

「ほえー……」


 ここ、私が泊まって大丈夫な場所?ほんとに?

 なんかもう怖くなってくるんだけど……


「さて……まだ昼だ。どこか行くか?」

「おすすめの場所は?」

「少し遠いから明日だな」

「じゃあ、街並み探索」

「分かった」


 荷物を置いて、持っていくものだけカバンに入れ直す。

 この国は魔法が使えるから、いつものまとめ方で大丈夫だ。

 荷物と財布の中身の最終確認をして、サクラはコガネの肩、モエギは私の肩に乗せて部屋を出る。

 ホールに降りると、アジサシさんが居た。


「出かけるかい?」

「はい。街並み探索です」

「そっか。楽しんでおいで。夕飯は7時だから、それまでには戻っておいでね」

「はーい」


 チグサさんに手を振って宿を出る。

 コガネ君に誘導されて歩いて行くと、突然目の前が開けて潮風が頬を撫でた。


「海だ!」

「この辺りから高さが下がるんだ。景色としては、ここが一番だな」


 コガネ君の言う通り、街並みと海を一望できるここは中々の絶景スポットだった。


「市場にも行ってみるか」

「うん!」


 階段を降りて、海の近くの市場に向かう。

 この国はケートスと違って、海のすぐ横まで建物があるわけではない。

 国の中ではあるけど、海の近くにはあまり人気がなかった。


「……なんか、妖精っぽいモチーフが多い?」

「そうだな。……何でか分かるか?」

「うーん…………あ、そっか」


 コガネを見上げると、笑って頷かれる。

 ここは、スコル。先代勇者さんの1人、精霊女王の出身地だ。


「それで……まあ、お土産にはいいのか……」

「たまに、本物の精霊の加護がかかったものがあったりするぞ」

「そうなの?……すごそう」

「主はもう持ってるだろ?」

「……そうだった」


 今もしっかりつけてるわ。精霊花のネックレス。

 私は精霊にも好かれるらしいからね。この贈り物はその証拠なんだとか。


「……この国、精霊に好かれてる……?」

「ああ。精霊女王はこの国を愛していたからな。彼女を愛する精霊たちも、この国には多くの加護を残している」


 居心地がいいのは、そういうことか。

 この市場も、いろいろな所から精霊の気配がする。

 ……どんなものに加護が宿っているのか捜し歩くのも楽しそうだな。

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