126,Q可愛いですねAモフゥ…
正面に来てじっとこちらを見てくるヨルハ・プーア氏にスッと手を差し出してみると、すぐに反応してスリスリされた。……か、可愛い。
ウサギくらいのサイズのモフモフにすり寄られるのはとても嬉しかった。
サクラとモエギでは味わえないサイズのモフモフ感だった。
「……で、コガネ君。この子は?」
「ヨルハ・プーア。2匹で1組の生き物だ」
「……1匹しかいないね」
「そうだな……だが、対を失ったわけでもないみたいだし……ヨルハ・プーアは対と別行動なんてほとんどとらないはずなんだが……」
コガネ君に分からない事なら私は分からないなぁ。
そもそもコガネは博識で、私はこの世界の事ほとんど知らないからね。
「……考えても仕方ない、か。ヨルハ・プーアの詳しい説明は?」
「聞く!」
「分かった」
そんなことを言っている間に、目の前のヨルハ・プーアは私の膝の上に登ってきた。……可愛いかよ。
「ヨルハ・プーアは2匹で1組の生き物だ。割と世界のどこにでもいるが、人の多いところには寄り付かないみたいだな。繁殖方法や対の決定方法は分かっていない。対となる1匹が死ぬと深い悲しみの魔力を放つようになる。対が別の生物に殺されると、その生物すべてに強い敵対意識を持つ。
人間に対を殺されたヨルハ・プーア以外は基本懐っこいぞ。ここまで懐くのは主だからだろうが……
それと、頭がいい。魔法も使えるから、攻撃時は2匹が連携して魔法を撃ってくる」
「頭がいいって、どのくらい?」
「モエギくらい、だな」
「あら賢い」
「ヨルハ・プーアは、ヨルハとプーアで対になるんだ。
ヨルハは羽を持っていて、空を飛ぶことが出来る。その関係なのか風系統の魔法が得意な個体が多いイメージだな。
プーアは、飛べない代わりに泳ぎが得意だ。足がヒレのようになっていて、潜水能力が高い。こっちは水系統の魔法が得意な個体が多いイメージだな」
「つまり、この子はプーアの方?」
「ああ」
足はヒレみたいに広がっていて、でも器用に歩く。
……地面の上を泳ぐ、の方が近いのかもしれない。
ちなみに4本。……4枚?
「ヨルハがプーアを抱えて空を飛んでいたり、プーアがヨルハを上に乗せて川や海を渡っていたりするぞ。
あとは……角が上向きにまっすぐなのがオス、下向きに巻いているのがメスだ」
「この子は女の子か」
「そうだな」
プーアちゃんでしたか……可愛い。
私の手をに顎を乗せてプ、ププと鳴いて?いる。可愛い。
「……この子の対のヨルハさんは、オスってことになるのかな?」
「いや、ヨルハ・プーアの対に性別は関係ないんだ」
「そうなのか……」
「ああ。だから、繁殖方法が謎でな。幼いヨルハ・プーアはたまに見かけるが、対を失う以外で対がいないヨルハ・プーアは見たことがない。生まれた時から対が決まっているのかどうなのか」
「……熱心な研究者がいそうだね」
「いるぞ。ヨルハ・プーアだけで本を5冊出したエルフが」
「おおう……」
なんという情熱……エルフだから寿命も長いし、情報集めるのにも時間をかけられるんだろうな……
というか、その本読んでみたい。ガルダの王宮図書館にあるかな?
「解説は終わったかな?」
「あ、チグサさん」
「懐っこいとはいえ、初対面の人間がここまで懐かれるとは……流石動物たらしのアオイちゃん」
「なんですかその二つ名みたいなの……」
「それはともかく、夕食が出来たよ。お食べ」
「いただきます」
木の器に入ったスープを手渡され、冷ましながら口に運ぶ。
スープだけど具がたくさん入ってて、食べ応えがある。
普通にお腹いっぱいになるな……
「……ところで、プーアちゃんは何食べるんだろ?」
「それも分かってないんだ」
「……謎多き生き物……」
私は動物の言いたいことは分かるけど、それはあくまで「言いたいこと」であって、こっちに発信された意志じゃないと分からない。
そして、このプーアちゃんは1度も私に話しかけてこない。
うーん、なるほど謎多き生き物だなぁ……
サクラとモエギは一旦馬車を外した馬2頭にくっついて行ったみたいだから、そっちでご飯貰ってるのかな。サクラはお腹すいたら何か貰いに来るし、戻ってこないってことはそう言うことだろう。
「主、どうする?ここか馬車の中で寝るみたいだが」
「うーん……ここがいいな」
「分かった」
器を返しに行っていたコガネに尋ねられ、少し考えて答える。
森の気配は落ち着く。今日は星がきれいだしね。
夜空を見上げながら寝るのもいいだろう。せっかくの旅だし、普段できないことをしたい。
少しして、薄手の毛布を持ってコガネが戻ってきた。
肩にはサクラとモエギが乗っている。
寝るときはみんな一緒、かな。今日はプーアちゃんも一緒だ。
モフモフが3匹。いいね。コガネもキツネ状態なら4匹になる。モッフモフだね。
夜空を見上げて、ぼんやりとしている間に寝ていたらしい。
目を開けると、辺りはすっかり明るくなっていた。
コガネは横に座って何か紙を見ていて、サクラとモエギはまた馬の所に行っているようだ。
プーアちゃんは眠りにつく前と同じ、私の頭の横でプウプウと寝息を立てている。
身体を起こすと、肩までかかっていた毛布が落ちた。
その音で、コガネがこちらを向く。
すごく、優しい笑みを浮かべていた。……絵になるなぁ。
「おはよう、主」
「おはよう、コガネ」
ぐっと伸びをして、コガネに近づく。
「何見てるの?」
「この大陸の詳しい地図だ。チグサに貰った」
「そうなんだ……今どこら辺?」
「ここだな」
コガネが指さした場所を見ると、思ったより海が近い。
アジサシの馬車はすごい勢いで進むから、こんなところまで来てたのか。
普段の馬移動だと何日かかるんだろ……?
「これから行くのは、多分この国だ」
コガネの指が地図の上を移動する。
海に近い国。こんなに海に近づくのはケートス以来だ。
「楽しみ。かな」
「そうか」
コガネに微笑まれる。……まぶしい。なんかキラキラしてる。顔がいいからか。
顔がいいからなのか、神獣だからなのかは分からないが、寝起きにそのまぶしさはちょっと辛い。
そっと視線を外すと、チグサさんが歩いてきた。
「起きたみたいだね。顔を洗っておいで、そろそろ出るよ」
「はーい」
コガネに案内されて、水の溜められた桶の前に移動する。
冷たい水をパシャパシャと顔にかけて眠気を追い出す。
立ち上がるとコガネがタオルを渡してくれた。
……至れり尽くせりかな?私この野営の間本当に何もしてないね……まあ、何かしようとして襲われるよりマシかと思って何もしなかったんだけどね……
寝床に戻ってくると、プーアちゃんは起きていてスススっと近づいてきた。
足から登ろうとするような動きをするので抱えてみると、満足気に腕に納まる。
……このプーアちゃんの対の子はどこに居るんだろうか……
考えながら、プーアちゃんを抱えて撤退作業を眺める。
つくづく何もしてない野営だったな。
それにしても、1回も襲われなかったな……私が寝てる間に何かあったりしただろうか。
「主、行くぞ」
「あ、うん」
コガネに呼ばれて、馬車に向かう。
乗り込む直前、腕の中のプーアちゃんが一声鳴いて空を見上げる。
……危ない。あんまり自然に腕の中にいるもんだから、連れてっちゃうところだった。
そんなことを考えつつ、プーアちゃんの目線を追うと、空からプーアちゃんと同じような見た目の子が降りてきた。ただし、翼があって、足はヒレではく普通の足。
この子が、プーアちゃんの対の子か。
プーアちゃんを地面に下ろすと、ヨルハ・プーアはお互いの無事を確かめるように身体を寄せ合い、私の方を見て一声鳴いた。
「うん、バイバイ」
手を振って、今度こそ馬車に乗り込む。
先に乗り込んでいたコガネの横に座ると、コガネがなるほどな、と呟いた。
「なにが?」
「この森には、毒を持った魔獣が出没するんだ。だが、そいつはヨルハ・プーアが天敵で、ヨルハ・プーアのいるところには寄り付かない。今回の野営で1度も襲われないのが不思議だったが、プーアがずっと主の近くに居て、ヨルハが付近を飛んでいてくれたみたいだな」
「……つまり、普段は離れないヨルハ・プーアが、私を守るために離れて行動してくれてたってこと?」
「ああ。……本当に、謎の多い生き物だ」
動き出した馬車の窓からは、プーアを抱えて飛ぶヨルハの姿が見えた。
最後に、それぞれが一言だけ聞かせてくれた言葉は「大丈夫」と「お元気で」
ヨルハ・プーアの魅力に取りつかれた人の気持ちが分かった気がした。
ヨルハ・プーアが書きたかっただけの話な気がします。
私の頭の中のヨルハ・プーアはめちゃくそ可愛いんです。
バイトの暇な時間全部使って設定考えてたせいでとっても詰められた設定してます。
アジサシさんより細かく決めてある気がする…